【イーピン事件】
二十歳の夏。
気が狂いそうなほどの蝉達の大合唱を聴きながら、僕らは(麻雀を)打(ぶ)っていた。
クーラーの無い6畳間。
むせ返るような暑さの中で卓を囲む4人の男。
抜け番で暇を持て余している俺と浩平さん。
パンッ、といい音をさせて誰かが捨牌を切る。
イーピンだ。
牌いっぱいに書かれた丸模様。ピンズの代表格。
そのフォルムは、見慣れた何かを連想させる。
暑さに参った浩平さんは履いていたジーパンを脱いで、Tシャツにトランクスだけの姿で台所に向かう。
寝ている俺をまたぐ。
蝉の声がやむ。
僕は、ふと目を開けた。
「ギャアアアアアアアアアア!」
「ど、どうしたコイズミ!?」
「(泡を吹きながら)イ、イーピンが…イーピンが…」
「また犠牲者が…」
「可哀相に…」
「オマエ、トランクス姿禁止」
ふと見上げてしまった俺が悪いのか。
浩平さんはヘラヘラしながら缶ジュースを飲んでいる。
誰かがまた、パンッと牌を切る。
蝉が鳴きはじめる。
僕は泣かなかったと思う。
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