2004
june

6/1
6/4
6/7






6月1日

オブラディ オブラダ 人生は流れる。

6月になりました。

僕は、驚くほど単調で澱んだ流れの中に溶けながら日々を過ごしている。
自分の足で歩いているのか、ただ流されているだけなのか、僕にはわからない。



6月4日

彼は穴を掘り続けていた。
古びたスコップでただひたすらに掘り進んだ。
穴が自分の背丈より深くなっても、地上が遥か頭上になっても、それでも彼は掘り続けた。
どれだけの時間が流れたのだろう。
何時間か、何日か、何ヶ月か、何年か、それすらわからなくなって、もう何の為に穴を掘っているのか、その理由さえ忘れてしまっていた。

深く、より深く潜らなければならない。
彼はそう思っていた。その思いが彼を突き動かしていた。
彼は逃げだしたかった。
暖かく、切なく、鮮やかで、悲しい、全てのものから逃げたかった。
彼は、地の底に横たわる自分を夢想した。
地の底は、冷たく、静かな、闇の世界だった。
吐く息さえも闇に溶けていく気がした。
世界は闇と自分だけで、それはちょうどいい大きさに思えた。
孤独を感じながら、ゆっくり闇に溶けていく自分を思った。
それは、安堵や恐怖がごちゃ混ぜの不思議な感覚だった。

彼は自らが掘り進んだ穴を見上げた。
そこには小さな円形に切り取られた、薄暗い曇り空が見えた。
彼はスコップを放り投げ、その場に座り込んで、くそったれが、と小さく呟いた。
空を見上げるとイライラした。くそったれが、辛気臭い空だ。

ふと彼は、今ならあるいは自力でも地上に戻れるかもしれない、と思った。
実際それは、自力でもどうにか地上に出られるかもしれない、微妙な深さだったのだが、彼は自分で、何故そんなことを考えるのかが不思議だった。
このまま掘り進んでいけば、穴は深くなり、彼は衰弱し、自力で出ることは不可能になるだろう。
それは穴から二度と出られないことを意味していた。
何故ならこの世界には彼しかいないのだから。

彼は悲しくなった。
あらゆることが悲しかった。
穴を掘り続けていることも、その穴の深さも、世界が自分1人なことも、曇り空も、古びたスコップも、あらゆる全てのことが彼を悲しい気分にさせた。
泣き出したい気分に襲われながらも、彼は泣けなかった。
そのこともまた、彼を悲しくさせた。

何故穴を掘っているのか考えようとして、だがすぐに考えるのを止めてしまった。
不毛な思考の堂々巡りに、彼はいい加減うんざりしていた。
彼は途方に暮れた。
どうしたらいいのか見当もつかなかった。
眠りたかった。
穴を掘ることも、夢想することも止め、ただ眠り続けたかった。
彼は眠る前にいつも、次に起きたときには、何かが自分の中で変わっているんじゃないかと、ほんの少しだけそう考えた。同時に何も変わらないことも知っていた。

今日が終わっても 明日がきて
長くはかなく 日々は続くさ
意味なんてないよ 意味なんてない
今にも僕は 泣きそうだよ

彼は眠りに落ちた。



6月7日

ウチの会社の人たちは 奢る という行為が大好きらしく、よく奢ってくれる。
タダメシ食わしてもらってる訳だから、有り難い話なのだけれど、どうも僕は奢られるのも奢るのも好きになれない。いや、全部駄目っつうか、アレだ、例えば賭け事の勝敗の結果としてのタダ酒は非常に美味だし、特別な日、誰かに一杯奢ると嬉しい気分になる。
そういうんじゃなく、会社での地位とか性別とかに基づいて、特に理由も無く奢られるのがどうも好きになれない。ついでに言えば、「コイツ奢ってやったのに…」という不服そうな顔を見るのは厭だし、自分自身がついそう思ってしまうことがあれば、けっこうな自己嫌悪だ。
奢ってくれる、という行為自体は基本的に好意からのものであるはずだし、ガキっぽい理屈を並べないで、有り難く奢って貰えば良い、という向きもあるとは思うけれど、奢るのが当たり前、奢られるのが当たり前みたいな空気がどうにも駄目だ。厭なもんは厭だ。
だってさ、ちょっと穿った見方だけれど、物質的なメリットで親密さを築こうって寂しい話じゃない。もっとこう気兼ね無く人付き合いしたいんです。厭なことはヤ!って言いたいんです。

これが、僕が奢られたときに2人前頼まなくなった理由です。