酒テキスト6






………誰かが俺を揺さぶっている。


五月蝿いし、眠いのです。

しつこいので諦めて起きる。



ゴンッ!



痛え!
何かにアタマをぶつけたみたい。
なんだってんだコンチクショウ!!


うっすら目を開く。
何だコレ??
理解不能。状況がまったくわからない。

一寸考える。

数秒か、1分くらいか。よく憶えてない。
で、やっと理解した。
目の前にあるのは車のダッシュボードだ。

車のダッシュボードが何故目の前に?


更に数秒後、車の助手席に逆さまで寝ていたことを理解した。


何故車の助手席に逆さまで寝ているの?


開いた車のドアの向こうでは、おっさんがしきりに何か言っている。
何を言ってるのかよくわかんない。つうか、誰?

どうやら飲んでまたやってしまったらしいことをぼんやり理解。
俺だって、20数年コイズミタクヤやってますからね。言うなればコイズミのベテランです。
伊達に何度も痛い目遭ってないし。
だからそのくらいのことは理解できるし、そんなことでイチイチ動揺しない。

とりあえず状況が知りたい。
おっさんはむくりと起き上がった俺を心配そうに見ている、ような気がする。(まだ目がちゃんと開いてない)



ここは何処ですか?

「大宮」

大宮? 駅はどっちですか?

「あっちだよ」

そうですか、ありがとう。ダイジョウブです。



おっさんは去っていった。


状況から考えるに、おっさんはどうやら車の持ち主では無いようだ。
助手席でひっくり返っている俺を見て、何かと思ったのだろう。
よく見ればひどい有様だ。靴下も半分脱げてる。


そりゃな、通りかかった道路に停めてある車の助手席で、靴下半分脱げて逆さまになってる奴見つけたら死んでるとでも思うだろうな。



…つうかさ、この車誰の?



えーと、ちょっと待って、えーと、えーと、この状況はドウユウコト?

昨日何があった?

何だこの格好! 靴下と靴は!?

あ、後ろの席にあった!

鞄! 鞄が無い!!

うわ、鞄マジで無いじゃん!

痛! 手が痛い! この痛みは間違いなく何か殴ってる

つうか、大宮!?

何で!? 大宮なんて来たコトないよ!

初の埼玉侵入がこの有様か?

いや、それよりもこの車、マジで誰の!?



昨日の記憶が無え!



なんつうか、ほのかに沸き上がるこの不安感。



逃げなきゃ。



いや、昨日何があったのかはマジでビタイチわからん。
でも感じるんだ! 何となく、逃げろって!
ウワワワワーン、ドウシヨウドウシヨウ!!
相変わらず鞄が見付からないよう!!


あっという間にいっぱいいっぱいですわ。


アンタ、動揺しまくりだよ。


鞄を諦め、靴下と靴を履き、ダッシュでその場を離れる。

ドタドタドタ…(大慌てで)
タッタッタッ…(後ろを振り返りながら)
トボトボトボ…(うつむき加減で)

ホントここ何処なの?
駅はあっちらしいけど。

トボトボと歩くこと10分くらい。


迷子になって途方にくれる。


ホントここ何処なの?(半泣きで)


途方にくれて、とりあえず自販機でジュースなど買って一服。
あ、財布あるんだ。良かった。
携帯もある。
コンタクトは片方取れてる。
腕時計もある。時間は7時半を少し回った所。

同期の友人、ごんたくんに電話。


(第一声が)ここ何処だよ!!(泣きながら)


朝っぱらからこんな電話をかけられる彼も不憫ですね。

ひとしきりグチった後、電話を切る。
彼に電話した所で何の解決にもならん。(←アンタ自分で電話しといて)


すぐさま今度は会社に電話。


コイズミですけど、おはようございます。
あの自分、今、大宮に居るので今日休みます。
いや、詳しくは話せないっつうか、俺もわかんないから。
いや、上司に代わらなくていいから、いいっつの! ちょ、待てって!
あ、クソ! 切っちゃえ! プチ


さて、これからどうしようか。(いろんな意味で)


とりあえず逃げるにしても鞄が無いのはマズイ気がする。
一度、さっきの車まで戻って再度鞄を探そう。

って、俺、迷子じゃん。
何処だよ車…


歩き回る事1時間以上。
やっとさっきの車に辿り着いた。

さっきは気が付かなかったけど、ファクトリーという趣の敷地入り口に白いチェイサー(たぶん)が駐車してあった。
実験体として拉致られたんじゃあるまいな。

キョロキョロと周りを気にしながら車内物色。
マジで怪しかったと思います。
平日の午前中、くたびれたスーツ姿で新人ホームレス感を醸し出している若造が、不自然にキョロキョロしながら車内を荒らしてるんですから。
俺が警官なら逮捕しますし、通行人だったとしても通報します。

ってか、マジで鞄無いッスよ!

…もう諦めよう。何もかも疲れた。
帰ってシャワーして寝たい。

通行人に道を聞きながら駅へ。
武蔵野線で府中まで。
財布があって、ホントに良かった。

トボトボと歩く家路の途中に気付いてしまった。


家の鍵無えし。


つうかもう、殺すならひと思いに殺せよ。


友達に電話して職場まで行って、鍵を借りて友達の部屋に入れてもらう事に。
また電車に乗ってテクテク。
鍵を借りて、またテクテク。
近所の本屋に寄って漫画を買う。
財布と一緒にポロリと落ちる鍵。


あるじゃん鍵。


いっそ、殺してくれ。



こうして部屋に戻った俺は、今日の大冒険を反芻しつつ、シャワーを浴びて眠りについた。


その後、無くした鞄の中に通帳(親切にも判子とセット)入れっぱなしなのを思い出して青くなったりもしたんだけど、そのへんは下記参照ってコトで。

→smilin'day 1999090319990907


ちなみに当時付き合ってた彼女に、笑い話としてこの事を伝えたら、

『そんなコトする人とは付き合っていける自信が無い(素)』

って言われた。



そんな訳でな、今回の教訓としてはだ、


ここまでいっちゃうと、ホントにシャレにならねえ。


って、ことだ。

コゾウ共、今回はマジで真似するなよ。
じゃな。