神鳥の卵 第26話


新しい拠点は自然の中にあった。
年季の入った大きな屋敷だが手入れは行き届いており、家電や水回りなどの設備はリフォーム済み。人目につかない山の奥深く、言ってみれば森の中にあるのだが、屋敷の周り高くそびえ立つ壁の内側は予想よりも広大な平地だった。そこに美しい庭園があるのが定石だが、管理するものがいなかったためいまは荒れ放題だった。
ここはルルーシュが皇帝だった時密かに用意した屋敷なのだとか。ナナリーのためか、スザクのためか、あるいはC.C.のためだったのか。そこはわからないが、人里離れた場所で誰かが暮らす可能性を考え、貴族制度の廃止に反発した問題の多い貴族を処刑した際に、安く叩き上げたのだとか。なんにせよ、ルルーシュが死んで以降そのまま放置されていた場所だった。
ペンドラゴンから車で1時間ほど離れているが、車を20分も走らせればそこそこ活気のある町につくため立地は思ったよりはいい。咲世子が買い物するには困らず、スザクとナナリーが通うのにも問題のない距離だと言える。ふたりとも今は監視と警備を兼ねて総督府内で暮らしているが、条件さえ整えば総督府へ通う形にできるはずだとルルーシュは言った。
つまり護衛と監視が出来る者を傍につけるということだ。
白羽の矢は当然カレンに。
スザクが護衛なら自分で十分だというが、ゼロは男で認識されているからナナリーと二人でここに来たらあらぬ噂を立てられてしまうし、ゼロがここで暮らし始めたらいろいろと問題が多い。表面的にはナナリーの屋敷ということにし、世話役の咲世子、護衛兼監視役のカレン、体に障害のあるナナリーの主治医としてロイドとセシルが暮らすことになる。スザクは護衛に変装して移動し、屋敷に住み込みで働いていることにする。ロイドとセシルは医者ではなく技術者だから普通であれば却下されるはずだが、ルルーシュがこっそりいろいろ操作したし、ナナリーが希望し、ゼロが問題ないと判断してしまえばそれ以上誰も何も言えなかった。
屋敷の地下にはルルーシュが皇帝時代に、ナイトメア用の設備まで設置したそうでこれにはロイドとセシルは大喜び。だが、本当に何のために用意した屋敷なのだろう?と皆は首を傾げた。

「スザクがゼロをやってしくじった時用じゃないか?」

と言ったのはC.C.で、イレギュラーを引き起こすスザクがゼロとしてなにかやらかしたときに備えていた可能性が高いという。その連絡がスザクになかったということは、シュナイゼルが絡んでいる可能性も高い。

「これだけの土地があれば・・・わかりましたルルーシュ様、ご期待に答えられるよう、このジェレミア・ゴッドバルト全力でこの土地を作り変えましょう!アーニャ、屋敷にもどるぞ!」

何か勘違いしたらしいジェレミアはアーニャを連れてここから遠く離れた自分の果樹園に戻った。ジェレミアのオレンジ農園は高品質のオレンジが安定して収穫できる状態になっており、普段はジェレミアとアーニャ、そして数名の従業員とAI搭載非戦闘用KMFで回していたが、AI搭載KMFによる収穫と品質管理の自動化も順調なので信頼できる従業員にそちらは任せれば問題はないと、いくつものオレンジの苗木を運んできた。どうやらこの広大な元庭園を第二の果樹園にするのだという。荒れ果てているのは論外として、なにもない平坦な土地よりは木々があったほうが目隠しになるし、二人が来るなら護衛が増えることになるので、警備の面を考えても願ったり叶ったりだった。
常駐するのはアーニャで、ジェレミアは2つの果樹園を往復することになる。ジェレミアはルルーシュ皇帝に組みした罪人として、元ナイトオブラウンズであるアーニャの監視のもと、更生プログラムという名の農園主になっているため、農園を離れ総督府に通うのは問題があった。クリスマスのときにはナナリー総督が、先日はゼロが呼び出した事になっていたが、それも何度も使える手ではない。
だが、ここも農園となれば問題は解決すると大喜びで、アーニャもその手続きに追われていた。
かくして広い屋敷と広い敷地のなか、ルルーシュは文字通り羽根を伸ばしのびのびと成長することになる・・・はずだった。

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