緑の悪霊 第10話


ルルーシュとミレイが何やら小難しい話を始めたので、スザクは調べている途中だったクローゼットを再び開いた。さきほどルルーシュが引き出しをきっちりと閉めたため、もう一度順番に開けて行く。
その音でルルーシュは視線をスザクに向け、またタンスを調べられている事に思わず眉を寄せたが、別におかしなものを入れているわけではないし、注意してもスザクは聞かないかと早々にあきらめ、さっさと書類を片付けることにした。
スザクはそれを気配で感じ、時間はたっぷりあるなと今度は念入りに調べるため、一段一段丁寧に調べ、再び下着の引きだしへ。
そして、そこでスザクは驚きに目を見開いた。
先ほどは、ここに仕舞われていた宝・・・もとい、下着にばかり目を奪われて気が付かなかったが、そこに信じがたいものがあったのだ。
黒い下着にまぎれて、緑色の髪の毛が一本。
しかも、下着の上に。
震える手でその髪を慎重につまみ取り、念のためポケットに忍ばせていた先ほどの髪と見比べてみる。色つやといい間違いなく同じ髪の毛だった。
先ほどの髪は、シンジュクで彼女を助け出した時についたと説明がつくが、これは無理だ。あれからかなり時間も経っているのに、下にならともかく、上に落ちていたのだ。
間違いなく、最近のものだろう。
部屋にゴミ一つなく、これだけ綺麗に片付いているのに汚いと言い張り、ベッドの乱れすら即直すルルーシュが、この髪の毛に気づかないはずがない。
有り得ない。
となると、ごくごく最近のもの。
少なくても、今身に着けている下着をここから出したその後にこの髪の毛が落ちたと見て間違いないだろう。
・・・どうしてだ?
まさか本当に・・・こっ、恋人・・・が、いるのか?
だが、先ほどの反応から見ても、ルルーシュはどう考えても未経験。
どういう事だ!?
スザクはルルーシュに詰め寄りたい衝動をどうにか抑えじっと髪の毛を睨みつけた。
そして、ハッと気がついた。

「・・・まさか」

思わずポツリとつぶやいた。
暇つぶしにと渡された成人用雑誌。そこにはいろいろな話が掲載されていた。
その中に、ストーカーと化した女性が、相手の男性が留守にしている間に家に上がり込み、そこでこっそり生活している、という話があったのだ。ちゃんと痕跡を消してから、男性が帰宅する前に女性は家を後にするため、男性は何か違和感を感じるが、まさか自分のいない間に女性が住んでいるとは考えず、当たり前の日常を過ごすのだが、女性の方はそれでは物足りなくなりどんどん行動が大胆になっていく。
誰かが使用したらしいベッドのあと、出したままだったはずの食器が洗われ、洗濯もされていく・・・気味が悪くなった男性が平日に出勤をしたふりをして自室を見張ると、見知らぬ美しい女性が室内へ・・・その後の展開は当然成人指定だ。
あれはあくまでも物語だが、真似する人間がいないとは言えない。
何せルルーシュはモテる。
モテ過ぎるぐらいモテる。
女性だけではなく、男にまでモテるから頭が痛い。
色目を使ってルルーシュを見る輩に、俺のモノだと印象づける行動に抜かりはないが、それでもなかなか数は減らない。その中の一人が、ルルーシュのいない隙にこの部屋に住みついている可能性はあるんじゃないか?
そう、ルルーシュが部屋に入るのを躊躇ったのは、最近帰宅すると部屋に見知らぬ物があったり、誰かがいた痕跡があったからじゃないのか。それをルルーシュは、自分が朝寝ぼけてやってしまったんだと勘違いしていて、今朝も部屋を汚していたかもしれないと慌てて閉めた・・・可能性はある。いや、もうそれしか考えられない。
ルルーシュ以外の誰かが、この部屋を使っているんだ。
なんて事だ。
誰かは知らないが、俺のルルーシュに手を出そうとしているゴミムシがいる。
軍務があるから毎日は来れない俺の隙をついて・・・冗談じゃない!
ルルーシュは俺のものだ!
誰かに取られてたまるか!
もしかしたらこのストーカー・・・もとい、緑の髪の悪霊はクラブハウス内に潜伏している可能性がある。その相手が学生とは限らない以上、この時間だから寮や自宅に戻っているなどと考えるのは甘すぎる。
ルルーシュが居ない時はルルーシュの部屋に、いる時は別の部屋にいる可能性は否定できない。
くそ、冗談じゃない!
スザクはそこまで考えると、勢いよく立ちあがった。

「ルルーシュ、僕、他の部屋を見てくるね!」

真剣な、思わず怯んでしまいそうなほど力の籠った瞳で言われ、ルルーシュは「あ、ああ。そうか。ついでに戸締りも頼む」と、頷き、クラブハウスのマスターキーを渡した。
流石にこの状況だ。C.C.は早々にここを立ち去り、騎士団のアジトへ行っただろうとルルーシュは予想していたのだ・・・まさか妹の部屋で盗聴しているなどと想像すらしていなかった。C.C.が居ないならスザクが納得するまで、自由にさせておくのが得策だと考えたのだ。

「任せて!」

スザクは鍵を受け取ると、いい笑顔で返事をし、ものすごい勢いで部屋を後にした。

「・・・どうしたの彼?」

嵐のように騒がしいスザクに、さすがのミレイも目をまんまるに見開いて尋ねた。

「・・・悪霊の話がまだ続いているんです」
「そうなの?悪霊なんているのかしら?」

悪霊の話は嘘で、ルルーシュを狙っているはずよね?なのにあんなに気合を入れて他の部屋の探索?と、ミレイは心底不思議そうな顔をした。

「いませんよそんな物。それよりさっさと終わらせましょう。そこ、計算間違えてますよ」
「あら?えーと・・・ホントだ。さっすがルルちゃん」

電卓をたたきながらミレイは指摘された場所を直した。

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