未来の価値 第43話


「・・・どうしたんだスザク、随分と疲れた顔をしているな」
「ただいま、ルルーシュ。・・・あのね、今度テーブルマナーを教えてくれないかな?」

心底疲れ切った様子のスザクは、そう言いながらどさりとソファーに腰を下ろした。体力馬鹿のスザクがこれほど疲れるなんて珍しい。スーツを着ていることもあって、疲れ切ったサラリーマンに見えた。その姿に、ああ、やはり碌に覚えていなかったんだなと苦笑した。似あわない黒のスーツが余計に哀愁を誘う。

「今後の事も考えれば、自然と手が動くぐらいには身につけておくべきだろう。・・・お疲れ様、スザク」

お茶でも入れてやると席を立ち、給湯室に向かう途中で、ルルーシュは疲れ切って項垂れているスザクの頭をぐしゃぐしゃと撫で、ポンとその頭を叩いた。
スザクは文句を言う事なくされるがままだ。

「ホントに疲れた」

力なくスザクはネクタイを緩めつぶやいた。そんな心の底からの言葉を背中で聞きながら、手際良くお茶の用意をする。こういう時の電気ケトルは便利だ。少量なら数秒でお湯が沸く。味で言うならちゃんとしたケトルでたっぷりのお湯を沸かした方が美味しいのだが、今はこれでいい。

「ほら、熱いから気をつけろよ?」
「ん、ありがと」

ソファーに沈めていた体をのそりと起こしたスザクは、熱いそれの香りを嗅いだ。

「ハーブティ?」
「カモミールだ。リラックス作用があるから、今のお前にはぴったりだろう?」
「へー。いい香りだね」

先ほどまでのこわばった表情が幾分か和らぎ、美味しそうにお茶を口にした。
スザクがゆっくりとお茶を飲んでいる間に残った書類を捌いて行く。

「・・・まだ終わらなそう?」
「ん?ああ、切のいい所までやってしまいたかったんだが・・・お前、寝むそうだな」

ルルーシュはしきりに目をこするスザクに思わず苦笑した。

「・・・うん、眠い」

軍務に学生、その上皇族相手のディナーで、流石の体力馬鹿の体力、いやこの場合は精神力が尽きたらしい。一人で行って寝て来いと言ってもどうせ聞かないだろう。やれやれ仕方ないなとルルーシュは諦めてペンを置いた。
席を立ち、スザクの傍に近づくと、空になったカップを手に取った。

「スザク、奥から荷物を持って来い。俺はこれを片付けてくる」
「・・・あれ?終わり?仕事終わったの?」

眠そうな声で言うので、また頭を撫でる。童顔男がこんな状態だと、10歳とは言わないが、幼い子供に見える。いや、子供というより、手のかかる弟と言った所だろうか。

「ああ、終わりだよ。だからほら、荷物と脱いだ服を纏めて来い。ああ、今は着替えなくていいからな?」
「うん・・・」

のそりと立ち上ったスザクは、のろのろと奥の書庫へと向かって行ったので、ルルーシュは手早くティーセットを洗った。




「ねえねえルルーシュ、ルルーシュってば!」

先ほどまで眠そうな目で着いてきていたはずの男は、ルルーシュの部屋に入って数秒で、急にテンションをあげた。

「どうしたんだスザク?目が覚めたのか?」

それとも、眠過ぎてハイになったのか?

「うん、覚めた。ねえルルーシュ、この匂い何?」

そう言うと、スザクは荷物を抱えたまま部屋の奥へと駆けだした。

「匂い?」

くんくんと匂いをかいでも特段おかしな匂いはしない。
生活臭や体臭など、自分では分かりにくいタイプの匂いか?いや、それにしては向かう場所がおかしいな?と、ルルーシュは施錠後、スザクが向かった先、キッチンへと歩いて行く。辿り着いた先には当然スザクがいて、持っていた荷物を床に置いて何やらやっている。そこまで見て、ルルーシュは思いだした。

「あ!こらスザク!!」
「ん!美味しい!!もぐもぐ」

予感的中。
冷蔵庫を開け、スザクは鍋を取り出していた。それは昼過ぎに、休憩兼気晴らしに作った煮物の入った鍋。スザクは冷めきっているその鍋を片手に持ち、もぐもぐと中身をつまみ食いをしていたのだ。

「スザク!手づかみで食べるな!行儀が悪いだろ!!」
「もぐもぐ、うん、むぐむぐ、そうだね」

ひょいっぱく。ひょいっぱく。
怒られてもスザクはつまみ食いをやめる気は無いらしい。

「食べながら話すな!悪いと思うなら食べるな!」
「これって何だっけ?何の煮物?」

ルルーシュの注意も怒りもどこ吹く風。スザクは煮物の説明を求めてきた。昔食べた事があっても、名前まで覚えていないようだった。

「筑前煮だ。お前、今食べてきたばかりだろう」

食べすぎは体に悪いぞ!

「食べたけど・・・あれ、食べたっていうのかなぁ」

ひょいっぱく、もぐもぐ。

「・・・足りなかったのか?」

いい加減にしろと、ルルーシュはスザクの手をぺしりとはたき、鍋を奪い取りスザクの体を押しのけると、かちりと音を立てたコンロは鍋を温め始めた。それを見て、スザクは満面の笑みを浮かべ、そそくさと手を洗った。順番が逆だろうと、ルルーシュはあきれ顔だ。

「足りないのは確かなんだけど、食べた気がしないというか・・・いや、美味しかったよ、多分」

手を拭きながらスザクはよく解らない感想を口にした。当の本人が解っていないのだから、説明など出来るはずもない。
堅苦しいマナーも、周りの豪華さも、綺麗に盛りつけられたお皿も、人の視線も、多分全てが原因なのだろう。物足りない、食べ足りない、食べた気がしない。何をどう食べたかもよく解らない・・・美味しい筈の料理だが、美味いものではなかった。

「何なんだその感想は」
「うーん、僕にはブリタニアのフルコースはあわないってことかな・・・。でも、ルルーシュの料理は美味しいし、この煮物も大好き!いくらでも食べれるよ!」

凄く美味しい!!
にこにこ満面の笑みで言われてしまえば、それ以上聞けるわけも無く。

「そ、そうか」

直球の褒め言葉に顔を赤く染めたルルーシュは、そそくさと冷蔵庫をあさりだした。本格的に用意をする気になったらしい。スザクも一緒に除き見ると、下ごしらえが済んだ料理が入れられていた。それも二人分。

「夕食用意してたんだ」

なんだ来たのかって言ってたのに。
嬉しそうに言われ、ルルーシュは冷蔵庫の扉を勢い良く閉めた。

「う、うるさい!お前が週末に来るのは解ってた事だから、俺の分のついでに用意しただけだ!それより風呂に湯を張って来い!」

顔を真っ赤にしたルルーシュに怒鳴られ、スザクはこれ以上やれば機嫌を損ねると、慌ててお風呂場に向かった。



スザユフィとスザルル。どちらも夕食。
これって書いてる時の私のテンションの差が現れてる気がする。
ユフィ好きなのに、どうしてちゃんと書けないんだろう。
ユフィルルならきっと問題なくかけるのに。
(ルルーシュは常に右派)
ごめんユフィ。女キャラでは三番目に好きなんだよ。ホントだよ。

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