未来の価値 第53話


主が黒なのに対し、その騎士は白い服を身に纏っていた。 まるで生命の息吹を感じさせる明るい緑色の髪をなびかせ、黄金色の美しい少女は足を進めた。そして、自らの主となる少年の前に跪く。
トウキョウ政庁内にある小さな聖堂は、ステンドグラスを通した色とりどりの光に溢れており、その光を背に受け立つ黒の皇子は神々しく見え、まるで天から降りてきた神の使いのような美しさだった。
美しい少女と美しい少年が行う誓いの儀式は、洗練された美しさがあり、思わず息を飲みその光景に見入ってしまった。

「汝C.C.は我欲を捨て、我が剣となる事を誓うか」
「イエス・ユアハイネス」

響き渡る皇子の声、そして騎士の声が小さな聖堂に響き渡る。
これは、皇子と騎士の誓いの儀式。
本来であればテレビカメラを入れ、多くの貴族の前で行う騎士のお披露目であったが、皇子はそれを拒み、僅かな参加者と兄妹の前で静かに叙任式を終えた。
こうして、名実ともにC.C.は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの騎士となった。
10人に満たない参加者は、我に返ると惜しみない拍手を二人に送った。
豪華絢爛、煌びやかと言っていい叙任式は幾度も眼にしたが、碌な照明さえ無いこの場所で、これほど胸に迫る式を見られるとは。
この式が、どのような物だったのか、全てを忘れ、ただ称賛した。

「おめでとうルルーシュ!C.C.、ルルーシュの事を頼みますね」

式を終えた二人に真っ先に駆け寄ったのはユーフェミアだった。
彼女は心の底から、ルルーシュとC.C.を祝福していた。
それは、表情にも、声にもはっきりと表れていて、誰も何も言わずにいるのだなと悟ったC.C.は無表情のまま、ただ一礼するにとどまった。
ルルーシュは、ユーフェミアを両手を広げ迎え入れると、ユーフェミアは迷うことなく腕の中に飛び込み、兄妹は幸せそうに抱きあった。

「ありがとう、ユフィ。君が祝ってくれる事が、何よりうれしいよ」

ルルーシュは、心の底から幸せだという笑みをユーフェミアに向けた。ユーフェミアは頬を赤らめ「もう、ルルーシュったら!」と、はにかみながら笑った。ルルーシュの周りが騒がしい事を知っていたから、早くルルーシュにも騎士をと思っていた矢先に、この叙任式だ。しかも、カメラの前には出たくないとルルーシュが言い、見慣れた聖堂を使ったにもかかわらず、あんなに素晴らしい式を執り行ったのだ。
スザクとの叙任式も、今のような素晴らしい式にという期待も大きくなり、戻ったら早速どのような式にするのかお姉さまに聞かなければと、胸をときめかせていた。
幸せいっぱいの二人の姿もステンドグラスの光に照らし出され、まるで楽園にいる男女のような美しさであったが、それを目にしている者たちの心中は複雑だった。
先ほどの感動から一気に引き戻され、現実を目の当たりにする。
ここにいる者たちは、皆知っているのだ。
スザクを諦めさせるために、ルルーシュが騎士を選んだことを。
だから、この二人の主従関係は仮初に過ぎない。
スザクの退路を断つためにだけ結ばれた主従の契約なのだと、気付かない者はいなかった。それが最良なのだと理解していても、やはり今まで足しげく通っていたスザクを知る者たちとしては、心から祝えるものではなかった。ルルーシュとC.C.の叙任式だけではない、スザクとユーフェミアの叙任式もだ。
だが、ユーフェミアに笑顔を見せるルルーシュの内心の葛藤が分かっているからこそ、皆顔に笑顔を張り付け二人を見守っていた。その笑顔は誰もが強張っており、ダールトンなどは騎士候補者の写真をユーフェミアに見せた時に、それとなくスザクがルルーシュの騎士候補なのだと伝えておけばと後悔しながら二人を見つめていた。ジェレミアなど、口元は笑っているが、その両目には後悔の涙が滲みだしている。

「まるで、砂上の楼閣だな」

いつの間にか傍に来ていたC.C.の言葉に、クロヴィスは悲しげに眉を寄せた。
あまりにもひどい茶番劇。
祝福しているのは一人だけ。
籠の中の鳥だけが、何も知らず、何も知らされず、幸せそうに笑っていた。




「よかったのか、これで。後悔していないか?」

同じベッドに横たわる男の体に腕を回しながら尋ねるが、返事は無い。寝ていないことは、こうしてふれていれば解る。タヌキ寝入りをしているわけでもない。

「枢木は、お前に会いたいと何度も来ていたようだが?」

男にしては細い腰をなぞるように触れると、遊ぶなと文句を言ってきた。

「いいんだ、これで。それに、ジェレミアの説得が効いたのか、あれ以降来なくなったじゃないか。もう、あいつにはユフィの騎士になるしか道は無い」

なにせ、ナンバーズなのだから。
ここで拒否すれば、極刑は免れない。
スザクの意思を、希望を捻じ曲げてしまう結果となったが、ルルーシュがユーフェミアに置き換わるだけで、それ以外は何か変わるわけではない。きっと大丈夫だろう。

「それでも、拒絶したらどうする?あいつは、頑固だぞ?」
「スザクはそこまで馬鹿じゃない」
「そう?ありがとう。でも、この状況は理解できないから、僕が納得できるような説明はしてもらえるんだよね?」

突然聞こえてきた声に、ルルーシュとC.C.はびくりと体を震わせた。

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