|
「ユーフェミア・リ・ブリタニア。お前は優しい娘だ。悪意など欠片もないその心は、まさに慈愛の姫と呼ばれるにふさわしいだろう」 ルルーシュ達に声が届かない場所まで移動したC.C.は冷やかな視線を向けながらユーフェミアに言った。 「いえ、私は優しくなど・・・」 「いや、優しいよお前は。優しくて、そして残酷な娘だ」 謙遜したユーフェミアに対し、C.C.は感情をこめずに言った。 残酷。 そんな事今まで言われた事はないし、そんな行為をした覚えもないユーフェミアは、さっと顔色を変えたが、すぐに言いがかりだと眉を寄せた。 「お前の優しさは幼い子供と同じで、純粋無垢な善意だから、余計に性質が悪い。悪意が僅かにでもあれば、まだマシだと言うのに」 呆れたように言われた言葉の意味が解らないと、ユーフェミアは不愉快そうにますます眉を寄せた。今こんな所でこんな事を言われている時ではないのだ。あの小さなルルーシュが悲しんでいる、苦しんでいる。その理由を聞き、その悲しみの原因を取り除かなければならないのに。 その思いが伝わったのか、黄金の瞳の少女は冷たい笑みを浮かべた。 魔女の笑み。 自分と変わらぬ少女に見えるのに、まったく異質な存在に見えた。 底知れぬ光を宿す黄金の瞳に気圧され、全身ざわりと肌が泡立つ。 これは、恐怖。 怖いのだ、目の前にいるただの少女が。 だが、皇族としてのプライドが弱さを見せてはいけないと判断したのだろう。 屈してなるものかとすぐに気持ちを立て直し、力強い眼差しでC.C.を見た。 「言いがかりはおやめなさい。私は、ただルルーシュが心配なだけ。それの何がいけないと言うのですか」 凛とした、皇族らしい物言いに、C.C.は苦笑するしかない。 ミレイは、困ったような怒ったような表情を浮かべながらユーフェミアを見つめていた。 「ルルーシュの心配をする事を悪いとは言っていない。さっきから言っているだろう?お前は優しい娘だと。お前ほど優しい人間は、そうはいない。ただ、お前の善意は、お前の周りの事も、言われた人間の事も見ていない、独善だと言っているんだよ、お姫様」 「独善?私がですか!?」 今までそんな事言われた事はない。 信じられない事をこの見知らぬ少女は口にする。 一体何が目的で、こんなひどい事を言うのだろう。 「そうだ、独善だ。お前は、何故ルルーシュがあんなに悲しんでいるか解るか?なぜ、ルルーシュが泣いたか解るか?」 「貴方には解ると言うのですか?」 それが解らなくて困っていると言うのに。 「ああ、わかるさ。お前の善意があいつを傷つけたからだ」 言われている事の意味が解らず、ユーフェミアは眉を寄せた。 善意は善意。 それが人を傷つけるなどあるはずがない。 自分の言動の何がルルーシュを傷つけると言うのだろうか。 「つい先ほど、ナナリーに言われた事を覚えているか?考えて行動しろと言われたあの言葉だ。ユーフェミア、お前は考えが足りな過ぎる。周りの事を考えず、自分の感情を優先しすぎる」 「なんて失礼な!口を慎みなさい!」 自分を優先などしていない。 この黄金の瞳の少女の言動こそが、悪意そのものだ。 人を惑わし、貶めようとする。 こんな言いがかりに負けてなるものかと、ユーフェミアはC.C.を睨みつけた。 「皇女様は楽だな。そうやって命令すれば、皆お前に傅き言う事を聞く。どれほど理不尽な内容でも、どれほど腹を立てても、皇女に逆らうなどできはしない。どれほど傷つき悲しみ苦しんでも、その感情を表に出すことさえ許されはしない。なぜなら、皇女殿下の優しさを、崇高なる御心を下民ごときが否定するなどあってはならないからだ」 「な、私はそのようなつもりは」 「なくても、無意識にやっているんだよ、お前は。口を慎めと言うのは、そう言う事だろう?私に対して失礼な事は言うなという、皇女様の命令じゃないのか。いいか、ユーフェミア。お前は今、ルルーシュを傷つけ、ナナリーを、スザクを、ミレイを苦しめている。お前にとっては純粋な善意でも、受け取る側がから見ればそれは性質の悪い悪意でしかない。お前の純真無垢な善意から、人を傷つけ苦しめる悪意が産まれている。その事に、お前だけが気付いていない」 「私が苦しめていると?傷つけていると?何を根拠にそのような事を」 「聞こえなかったのか?お前だけが、わかっていないんだよ。今ここで、お前がどれほどルルーシュたちを傷つけ、苦しめているのか。お前以外全員理解している」 ユーフェミアは、C.C.のことを嫌いだと思った。 私だけがおかしいのだと断言し、明確な答えなど口にもしない。 大体、人の言動のことばかり言ってくるが、自分の言動はどうなのだろう。 私を傷つけることを平気で言っているというのに。 こちらを見つめる黄金の瞳は背筋を震わせるほど冷たく、真正面から向き合ってると飲まれそうになる。 本当に、同年代の少女なのだろうか。 とてもそう思えない。 父、シャルル皇帝に見つめられている時よりもずっと恐ろしく感じる。 「なんだ、私の言葉は信用出来ないか?まあ考えると思っていたよ。ミレイをこの場に連れてきて正解だな。ああ、元とはいえルルーシュの婚約者相手に、皇族侮辱罪を適用するなよ?」 「え?ルルーシュの、婚約者?」 突然話を振られ、驚いたような顔をしたミレイだが、この暴走皇女を止めるために着いて来たのだから、これはチャンスだと、表情を改めた。 「ユーフェミア皇女殿下。ミレイ・アッシュフォードと申します」 アッシュフォード。 それは、嘗てマリアンヌとルルーシュ、ナナリーの後ろ盾であった貴族の名。 あの暗殺事件の責任を取り、爵位を奪われた家。 そのことはユーフェミアも知っていた。 だがよくよく考えればこの学園の名前はアッシュフォード学園。 彼女がここにいても、何もおかしなことではないのだ。 そして、アッシュフォードなら二人を匿っていても、おかしくはない。 「ユーフェミア様は慈愛の姫と呼ばれるに相応しい、お優しい方だと皆が知っています。ですが、周りが望む優しさと、ユーフェミア様の優しさには違いがあるのです」 「え?」 「いま、枢木卿の元でそのお姿を隠されているルルーシュ様へ向けるべき優しさは、声をかけないこと。ルルーシュ様が落ち着かれ、ご自分から話に参加するまで、何も言わず、何も見ていないという態度をとることです。そして、ルルーシュ様が立ち直られた後は、お隠れになられてたことも、涙を流されていたことにも触れずに、話をすすめることです。それが、あの場で必要な優しさなのです。心配されるお気持はよくわかりますが、あの場ではルルーシュ様に声をかけるという行為は、ただルルーシュ様を苦しめるだけ、悲しみを深めるだけなのだということをご理解ください」 声をかけ、相手を心配するだけが優しさではない。 時には、声をかけず、無視することが優しさとなる。 今まで考えたこともなかった内容に、ユーフェミアは驚き声をなくしていた。 「相手の気持を汲むことなく行われた善意は、悪意と変わりません。相手の感情を、性格を見極めて対応をする事こそが、周りが求めている本当の優しさなのです」 なにが書きたいのか、よく分からなくなってきた。 |