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そこは、小さな教会だった。 いや、かつて教会だった場所、というべきだろうか。 既に打ち捨てられた廃村の中にある石造りの教会。建設されたのは中世あたりではと思うほど古いのだが、手入れがしっかりとされているため古びているというよりも、歴史を感じると言った方がしっくりきた。 この教会に足を踏み入れた時感じたのは、驚きだった。 先にも述べたように、ここは廃村だ。 ここに来る途中にも目にした民家は荒れ果てており、人が住んでいる気配などどこにも無かった。既に停まることのないバス停や、かつて鉄道が走っていたのだろう線路の跡。当時はにぎやかな場所だったと思わせるには十分なそれらは錆びて腐食し、地面に横たわっていた。そんな場所にある協会の中は、本来であればほこりが積もり、クモの巣が張られているはずなのに、綺麗な状態が保たれていた。 ステンドグラスの窓も、ほこりや汚れでくすむこともなく太陽の光をキラキラと反射させながら、室内に色鮮やかな光を届けていた。 自分がただの旅行者であったなら、信心深い人が定期的に手入れをしているのだと思っただろう。だが、自分は一つの確信のもと、この場所を訪れていた。だから、これは信心深い何処かの誰かの仕事ではなく、恐らく自分が探し求めていた人物が維持しているのだと確信していた。 カツリカツリと靴音がし、やがてこの場に自分以外の役者が姿を現した。 「おまえ、どうしてここにいる」 驚きと、不信と、警戒と。 少なくてもこちらに好意的では無い感情を向け、彼女は言った。 春を思わせるような新緑の長い髪と、黄金の瞳を持つ美しい少女で、名をC.C.という。 永遠を生きる不老不死の魔女。 神聖ブリタニア帝国皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアとその皇妃マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの古き友。 それが彼女だ。 ここにいる目的、それを彼女に告げた。 「…そうか、お前は知ったのか。いや、気付いたというべきか? それとも、知っていたのか? …何にせよ、全ては過去、終わったことだ。永遠を生きる魔女の私であっても、時の流れを変える事は出来ない。過去は変えられない」 失われた時間、失われた命、それらを戻す術など持ってはいない。 永遠を生きる魔女にできる事は、ただ見守ること。 時が流れるのをただ傍観し、歴史と呼ばれる人々の営みを記憶するだけ。 それで話は終わりかと相手を見れば、表情を変えること無く静かにこちらを見つめていた。何をいうでもなくただ見つめる2つの瞳を前に、これは話を進めなければいつまでも居座るだろう。それは迷惑この上ないと思い至り魔女は笑った。 過去は変えられない。だが魔女はすべてを知っている。私が持っている何かを求めてこんな辺境の地までわざわざ来たのだろうが、さて何を望むのか。 「…ああ、そうだな。私が今ここで何かを話しても、過去は変わらないということだ。だが、それがどうした? そんな話をしたくて私を探したとは言わないだろう?」 魔女にも出来ることと出来ない事がある。 そして、私にできる事は少ない。 私を魔女たらしめているのは、コード。 これを宿した者は不老不死となり、ギアスと呼ばれる王の力を人々に授ける力を得る。王の力、それは人々を導くための、奇跡の力。 あとはそうだな、神の御座へ行く事が出来るぐらいだ。 長く生きたことで人よりも多くの経験を積んでいるが、それはどれも人の身で出来ることであって魔女の力ではない。 何度でも言おう。 死者を蘇らせる力は持ち合わせていない。 今まで私が見たギアスユーザーにも、死者蘇生の力を得たものはいない。 時間を巻き戻す術を持つ者はいたが、今この時代に彼女はいない。 何度でも言おう。 お前の望む力を、私は持たない。 「…ふふふ、その程度の情報は今更言うまでも無いか? ならばお前が知りたいのは、過去の情報か。いいだろう、私が話した所で、あの男が残した結果は変わらないからな。だから、語ろう。あの男の影として共にいた私の記憶を」 魔女はこの教会に相応しい、深い愛情に満ちた聖母の笑みを浮かべた。 |