まだ見ぬ明日へ 第1話 |
今日はついてない。 朝礼前にミレイ会長に呼び出され。 今日の放課後に必要な物を買い忘れていたから、昼休みに抜け出して買って来いと命令され。 リヴァルと二人で買った荷物をサイドカーに積んでいると、街角の巨大スクリーンにエリア11総督ブリタニア帝国第三皇子クロヴィスによる追悼番組が始まった。 日本人を虐げ、時には虐殺しているこの国のトップの姿と声。 聞きたくもない。視界に入れるだけでも不愉快だ。 ・・・本当についてないな。 午後の授業まで余裕があったので、安全運転で環状線を走っていると、後ろから猛スピードで走って来たトラックが煽ってきた。 驚いたリヴァルが蛇行し、それに慌てたのかトラックは通行止めの車線へと猛スピードで入り、今は使われていないビルに頭から突っ込んだ。 「俺のせい・・・かな?」 「まさか」 バイクを止めしばらく見ていたが、トラックは動く気配がなかった。 今の衝撃で意識を失ったか、あるいはケガをしたのかもしれない。 まずは運転手の状態を確認するのが先だとリヴァルの制止を無視し、救助に向かったが、屋根に登った所で車が急発進した。 バランスを崩し荷台へと転がり落ちた先には見たことのない物があった。 奇妙な、巨大カプセルが一つ。それ以外積荷が見当たらない。 荷台の外、上空からは制止を促す言葉と銃声。威嚇射撃か。 カプセルの裏に隠れていた時、運転席から聞こえた会話と、飛び出していったグラスゴー。 これがテロリストの車両で、このカプセルが毒ガスだと解った時には、厄日どころじゃないなと思わず天を仰いだ。 「電波が届いていない。リヴァルと連絡も取れないか」 この暗さと反響音と路面状況、おそらく旧地下鉄跡を走っているのだろう。 無理に降りるのは諦め様子を伺っていると、トラックが激しい衝撃と共に停止した。 自動的に開いた荷台側面のドアから周辺を伺ったが、人の気配はなく、運転席も静かだった。 テロリストはまた意識を失ったのだろうか? 今の音でいつ軍がここに来るかわからない。 軍に見つかるわけにはいかないのはこちらも同じ、この場からすぐに離れるべきだ。 周囲を慎重に伺い、荷台から降りようとした瞬間、後ろから機械の動作音が聞こえた。 「・・・え?」 思わず振り返ると、カプセルがゆっくりと開くのが見えた。 「・・・っ!毒ガス・・・!」 今の衝撃で開閉スイッチが作動したのか!? あわてて口元を押さえ、この場を離れようとしたその時、視界にありえいモノが映った。 開いたカプセルの中。入っていたのは。 「・・・にん・・・げん・・・?」 黒い拘束服を着た、黒髪の・・・人。 カプセルから解放され、力なく倒れこむその姿に思わず手を伸ばした。 遠くから爆発音が聞こえた。 方角と距離からおそらくテロリストのトラック周辺。 テロリストと軍が交戦したのか? しばらくすると、複数の爆撃音と振動がこの地下道にも響き渡った。 人ひとりのために軍が動き出したということなのか?いったい何でそこまで! カプセルの中身である、黒い拘束服を着た人間はいまここにいる。 いまだ意識が戻らず、力なくぐったりしたまま。 カプセルから解放され、倒れてきたその体に思わず手を伸ばし、支えたその体の軽さに驚き、思わずそのまま抱きかかえて連れてきてしまった。 拘束しているベルトを外しながら考える。 ブリタニアからテロリストが盗み出したモノ。 テロリストが毒ガスだと勘違いして盗み出した人間。 人を拘束するには不自然なカプセル状の機械。と普通と違う黒の拘束服。 薬品に満たされていた中に閉じ込められていた・・・人。 そして、この人を取り戻すために軍が動き、これだけの騒ぎを起こしている。 ・・・危険だ。危険すぎる。 手足の拘束を外したら見つかりにくい場所に放置するべきか? 自分の立場を思い出せ。厄介事にこれ以上かかわるべきじゃない。 守るべきものを、目的を思い出せ。 ・・・でも、ブリタニアに拘束され、虐げられていた人間を見捨てるなんて・・・・! 「・・・っ」 顔の拘束を外した時、思わず息をのんだ。 長い前髪で目元が隠れていたから今まで気がつかなかった。 なめらかな白磁の肌、つややかな黒髪と長い睫。まるで人形のような整った顔立ち。 骨格から男性だとわかるが、これがブリタニアの開発した生きた人形だといわれても信じてしまいそうな美しい容姿。 ブリタニア人・・・か? 思わず見入ってしまったが、遠くに人の動く気配を感じて、我に返った。 この足音は間違いなく訓練を積んだ人間のもの。 しかも複数か? 逃げなければ。 再びその人を腕に抱えて、その場を後にした。 |