見えない鎖 第1話 |
かつて、私の兄には親友と呼べるほど仲のいい方が居ました。 私にもとても良くしてくれて、私にとっても大切で、大好きなお友達で、幼馴染でした。 あの戦争で、私と兄が戸籍上死んだこととされた時、そのお友達とはお別れしました。 だって、私たちは死者で、貴方は生者だから。 だって私たちの父は、この国を滅ぼした最悪の力を持つ悪魔だから。 悪魔の子である私たちは、この国の少年と共に居る事は出来なかったのです。 この敗戦国で生きるのは辛いでしょう。 あの悪魔は、この国から名前も自由も奪うのですから。 これから多くの悪魔の使いがこの国にやってくるのですから。 それでも、せめて貴方に幸福と平穏を。 死んだと偽り、身分を偽り、悪魔から隠れて生きる私たちの代わりに、幸せな生を。 明るく、そうまるで太陽のような明るさを持った貴方は、私たちの支えでした。 兄は向日葵のような明るい笑顔の少年だと、そう教えてくれました。 貴方は私たちにとって、掛け替えのない人なのです。 私たちの心を救ってくれた貴方がいつも笑顔でいられますように。 そして、もし私の我儘がもし叶うのでしたら。 いつの日にか再会を。 あの頃のように、私たち兄妹と一緒に笑いあえる日が来る事を。 そして、あの頃のように、兄の支えに。 母が暗殺されてから、ずっと私にその人生を捧げている兄に。 私がずっとこの人生を捧げている兄に。 親友である貴方と共に。 再び私たちに生を。 だって、兄と貴方。 二人がそろえば、出来ないことなど無いのですから。 それはこの7年の間、私が胸に抱き続けていた大切な思い。 大好きな兄にさえ話さなかった大切な願い。 優しい世界でありますように。 そう願えば、いつか私の夢が叶うと信じていました。 優しい世界。 兄にとって。 貴方にとって。 私にとって。 敵としてではなく、友として。 宗主国と属国という差別を無くして。 日本人とブリタニア人が共にあってもいい世界。 誰にも何も言われないそんな世界。 たとえ、それが狭い世界であったとしても。 いつか。 再び、貴方に会いたい。 7年間わたしはその思いを温めて居ました。 それは私にとっての夢だから。 それは私にとっての希望だから。 でも今は、そんな願いを抱いた事を後悔しています。 かつて私には婚約者がいました。 その方と私の家が地位を持っている間だけ結ばれていた約束でした。 幼いころの私の、大切な思い出です。 かつての婚約者は、その地位を、その生を奪われました。 実の父親の手によって。 私の婚約者を死なせたその父親は皇帝でした。 皇帝は、あの方たちの住む場所を戦場としたのです。 戦争が終わり、この国は名前を変え、皇帝の領土となりました。 しばらくの後、私たちは再会を果たします。 あの方が再び私たちの元に、秘匿された主として戻ってきたのです。 すでに死者であるその方と、死者である妹君。 心と体に深い傷を負った兄妹。 その時、私の中の恋心に変化が起きました。 二人が安心して生きていられるように。 二人が幸せに生きられるように。 二人が笑って生きられるように。 自分たちが生きている事を、思い出させるために。 二人を守るのだと。 この箱庭という限定された空間の中で。 私は番人となり、害悪から守るのだと。 そのための、守護者となろう。 それが私の、あなた達への愛。 傷ついた二人には、友達がいました。 この国で、優しい少年と出会ったというのです。 その少年の話をする二人は、とても幸せそうでした。 だから、私は願いました。 もし、その少年と再会する事があるならば。 その少年もこの箱庭に受け入れようと。 少年にとって私たちは、敵かもしれない。 それでも、その少年が再び二人を受け入れるのであれば。 たとえ他国の人間であってもかまわない。 私はその少年も共に守ろう。 二人を幸せにするための箱庭なのだから。 そのために必要なピースであるなら。 その名を目にする事があれば。 貴方にとって幸せな場所に。 貴女にとって幸せな世界に。 それは幼いころからの私の願い。 三人が幸せに笑っている。 それが私の夢。 でも今は、そんな思いを抱いていた事を後悔しています。 |