見えない鎖 第2話 |
テロリストのトラック。 テロリストの通信機。 テロリストのナイトメア。 テロリストの積み荷。 どれもさしたる問題はなかった。 思考を止めることなく、あらゆる状況を計算し動けば何も問題はない。 そう、思っていた。 イレギュラーが起きるまでは。 何かにぶつかったのか、急停止し、横の扉が開いたテロリストのトラック。 そこに積まれたカプセルによじ登ろうとした時に、攻撃を仕掛けてきたのは軍人。 「ブリタニアをぶっ壊せ!」 そう言った俺の言葉に驚いたその軍人は「ルルーシュ?」そう、口にした。 それは俺の名前。だれだ?そう思った時、その人物はマスクを外した。 マスクの下から現れたのはかつての親友、スザク。 だが、その親友は不愉快そうに眉を寄せ、こちらを睨んできた。 「まさかテロリストになっているとはね。ブリタニアをぶっ壊せ、か。相変わらず考える事が危険だね、君は」 目を細め、不愉快そうに口にするその男は、確かに7年前に別れた友によく似ている。名前も同じで、その上こちらの事も知っている。 ・・・だから、間違いなく、本人なのだろう。 混乱しかけた思考に対し、冷静な思考があざ笑うかのように言った。 <これが、正常な日本人の反応なのだ>と。 幼いころは、彼のショックが大きすぎて、すぐに気付かなかったのだろう真実。 俺の父である皇帝が、この国を滅ぼした元凶であるという事を理解した結果。 父親の自殺。 日本の敗戦。 元凶はどちらも同じ。 俺の、父。 恨まれて当然。 憎まれて当然。 だけど、ああ。 お前には、そう思われたくはなかった。 お前には、そんな目で見られたくはなかったんだ。 ルルーシュは、心の中で、そう呟いた。 テロリストのトラック。 テロリストの積み荷。 その前に居る一人の学生。 その学生を制圧するのは簡単だった。 「殺すな、これ以上」 無駄な争い。 無駄な死。 こんな事をしても何も変わりはしない。 そう思い口にしたが、その学生はその言葉に反論した。 そして繰り出される蹴り。 思わぬ反撃に一度距離を置いたとき。 幼いころ耳にした言葉を、学生は口にした。 「ブリタニアをぶっ壊せ!」 その言葉に、僕のトラウマが呼び起こされる。 ざわざわと全身が粟立つ。 そして理解した。 ここに居るのが誰かを。 7年ぶりに口にする名前。 その名前に対する反応。 ああ、やっぱり。 まだ、生きていたんだ。 僕は邪魔なマスクを外し、名を名乗った。 幼いころから狡賢い彼だ。 僕を忘れているはずはない。 「お前・・・どうして軍に」 困惑したような声音で言われた言葉も腹立たしい。 どうして?考えればわかるだろう? 無駄に頭だけはいいんだから。 「関係ないだろ、お前に。そっちこそ、テロリスト?ずいぶんと物騒な事をしているんだね。毒ガスを盗んで何をする気だったのさ?・・・まあいい。その話は親衛隊にしてもらおうか」 お前とは、これ以上会話をするのも腹立たしい。 そう、吐き捨てるように言った。 傷ついたような表情を乗せたそいつに、更にいらだちが募る。 まあいい。 頭と、見た目はいい奴だ。 親衛隊がどんな手を使うかは知らないが。 まさか皇族だとは思わないだろうから、拷問は確実にされる。 どんな手で嬲り殺されるか、見れないのは残念だよ。 拘束するため近寄ろうとした時、カプセルが開いた。 毒ガス。 僕はマスクを手に慌てて後退する。 だが、そのカプセルから出てきたのはガスではなく少女だった。 不本意ではあるが、こいつと共にその少女の拘束を緩める。 こいつがどんな目にあっても別にかまわないが、少女は別だ。 人がこんな風に拘束されるなんて、あってはならない事だ。 「スザク、これが毒ガスなのか?この少女が」 手早く拘束を解きながら、あいつはそう言ってくる。 あの頃より低くなった声。 その声も耳障りだ。 「煩いな。その優秀な頭で推理でもしてたらいいだろ。僕に話しかけるな」 傷ついたような表情を一瞬見せた後、そいつは口を閉ざし拘束を解く手を速めた。 最初からそうしてくれ。 やがて少女はゆっくりと覚醒し、薄く目を開いた。 何か薬で眠らされていたのかもしれない。 まあいい、話を聞けばわかる事だ。 もう少しですべて外れる。 その時、親衛隊がこの場へやってきた。 僕は親衛隊の前に駆け寄り、説明をする。 どうやら、親衛隊はカプセルの中身が毒ガスではない事を知っていたらしい。 そして渡された銃。 あいつを、テロリストとして射殺しろという命令。 成程、テロリストではないと見てわかったが、犯人の死体は欲しい。 下手に連れ帰って、無実だと判断されても困る。 中身である彼女を見られたのも不味い。 本来なら嬲り殺しになるのだが。 残念ながら、苦しまずに死ねるわけだ。 お前にとって、これは幸運だと思うよ。 よかったね、周りが薄暗くて。 その無駄にいい見た目に気付かれてたら、こうはならなかったよ? 僕はゆっくりと彼に近づき、銃を構えた。 「・・・安心しろ、君の素性は話さないから」 君なんかの妹に生まれてしまった、優しい少女のために。 思わず顔に笑みを乗せた僕を見て。 そいつは悲しげに顔をゆがめた。 再会した時に感じたのは喜びと、絶望。 喜び。 その理由は、解らない。 この手で殺せると。 この口で罵れると。 それを喜んだのだろうか? でも、絶望なら理解できる。 こいつと再び出会うなんて不幸でしかない。 会いたくなどなかった。 視界になど入れたくはなかった。 その声さえ気持ちが悪い。 考えるだけで虫唾が走る。 でも、これでそれも消える。 さようなら、ルルーシュ。 |