歪んだ人形 第1話


スザクは目の前にある光景を茫然と眺めていた。
今居る場所は、アッシュフォード学園の地下にある秘された施設。
ブリタニア皇帝直属の機密情報局が有する監視システム。
そのモニターが映し出す光景に、こんな事ありえないと思わずつぶやいた。
それは数日前に記録された映像で。
画面には、地面に倒れ伏す一つの塊が映し出されていた。
その塊は蒼い髪を外側にはねさせた、いつも元気で明るい少年、リヴァル・カルデモンド。だが今はその明るさを欠片も感じさせないような悲痛な表情をしていた。
両手をつき、頭を下げるその姿を見て、口元に冷たい笑みを乗せているのは黒髪の美しい少年、ルルーシュ・ランペルージ。
生徒会の副会長と書記という肩書を持つ二人のその姿に、周りに居た生徒は固唾をのんでいた。

「たしか土下座と言うんだったか?イレブンの文化をよく勉強しているじゃないか。頭が悪いなりに、この俺に謝り、許しを乞う方法を考えたというわけか。まあいい、今回の事はその情けない姿に免じて不問にしてやるよ」

冷たい笑みを浮かべたルルーシュは、そう言うと、もう興味はないと言いたげに土下座をしているリヴァルの横を通り過ぎ、その場を離れた。
ルルーシュの姿が離れていくと、あたりはほっとしたような空気に代わり、周りの生徒は、リヴァルに手を貸し、彼を囲んで慰めていた。
気にするな。
悪いのは副会長だ。
お前は悪くない。
見た目がいいからって図に乗りすぎなんだ。
性格が悪すぎる。
口々に語られるその言葉に、スザクは思わず息をのんだ。
なんだ、これは。
いったい何でこんなことに?
ルルーシュとリヴァルは仲のいい友人だ。
友人の、はずだ。
生徒会の買い出しには必ず二人が一緒に出掛け、クラスでもよく二人で話をしていた。賭けチェスにも二人一緒に出かけていた。
そんなルルーシュの悪友であるはずのリヴァルもまた、憎々しいという、彼には似合わない表情を浮かべ、立ち去るルルーシュの背を見つめていた。
ありえない光景だ。
ルルーシュはこんな事をする人間ではない。
確かに毒舌家で口は悪いが、理由も無くこんな風に人に恥をかかせ、それを嘲笑う人物ではない。
しかも今の争いも、元をただせば些細なこと。
普段の二人なら、ルルーシュが眉根を寄せ不愉快だという表情を作り、リヴァルがごめんごめんとその背を叩けば、ルルーシュは仕方がないなと笑みを返して終わる程度の事だった。
それがどうしてこんな大ごとになっている?
リヴァルに冷たい言葉を投げかけ、苦痛にゆがむリヴァルの顔を楽しげに見つめていたその表情を思い出し、スザクは軽く唇をかんだ。

「・・・ルルーシュの交友関係に関して報告をしてくれないか、ロロ」

茫然と画面を見つめながら、スザクは後ろにある椅子に座っていた部下であるロロにそう声をかけた。

「交友関係ですか?見ての通りとしか言いようがありませんね。あの人に友人などいませんよ。枢木卿の資料によると、あのリヴァル・カルデモンドとは友人らしいですが、そんな素振り今まで一度もありませんでした。生徒会の他のメンバーとも険悪と言っていいでしょう。彼らを学園に残す意味は無かったんじゃないですか?」
「険悪!?そんなはずはない、ルルーシュは彼らとは親しくしていたし、仲が良かったんだ。いったい何でこんなことに・・・」

ルルーシュを交え、仲良く笑う姿を何度も目にしているスザクは、そんなことはあり得ないとロロに食ってかかった。

「その事なんだが、枢木卿。私が知る限り、シャーリーという学生はルルーシュに好意を抱いていたはずなんだが、私がここに教師として入って2カ月ほどで険悪な関係になった。他の者も似た時期に仲が悪くなったように思えるのだが」

淡々とした口調でヴィレッタはそう口にした。
何せ、ルルーシュに恋をしていたシャーリーに殺されかけたのだ。
その愛情に疑いの余地など無かったのだが。
今はそんな素振りなど一切無く、シャーリーはルルーシュを完全に嫌っていた。

「その時期に何かあったんじゃないのか?」

意味も無くルルーシュが誰かに危害を加えるなんて考えられない。
その頃に何かがあったはずだ。
そうでなければおかしい。
だが、スザクのその思いに反して、ロロの答えは否だった。

「いえ、特に何も。しいて言うなら、皆さんが言っていましたね、まるで人が変ったみたいだって」
「人が変わった?」
「はい。元々のルルーシュ・ランぺルージがどんな人物かは解りませんが、妹役の僕以外の人間に対しては、常に見下すような態度を取り続けています。不遜で傲慢で、自意識過剰というのでしょうか?他人に対して笑顔を向ける事さえありません」

先ほどのような冷笑は頻繁に見かけますが。
ロロの報告を聞きながら、スザクは他の映像・・・ルルーシュが揉め事を起こした時の記録映像を見続けた。その量は多く、ほぼ毎日どこかでルルーシュが誰かを傷つけている様子が記録されているようだった。
どういう事なのだろう。
ゼロの、本来の記憶が戻った?
いや、それならばロロを妹のように愛する事はおかしいし、友人を傷つける態度を取ることもおかしい。
これが彼の本性だというのだろうか?
いや、ルルーシュはこんな態度を取らない。
2ヶ月か。
ルルーシュに聞いても無駄だろう。
ならば、生徒会の者に話を聞くべきだと、スザクは生徒会室を目指し歩き出した。

2話