歪んだ人形 第2話


生徒会室にスザクが入ると、皆明るい笑顔で迎えてくれた。

「スザク君!なになになに~ラウンズになってからちょっと酷いんじゃない?もう少しマメに遊びに来なさいよ!」

笑顔でミレイはそう口にした。

「そうだぜ、スザク!どうしたんだ制服なんて着て。復学するのか?」

にこにこと人のいい笑顔でリヴァルはスザクに近寄り、いささか乱暴にスザクの背中をバシバシと叩いた。
スザクが来た事を、本当に喜んでいるという事がその姿からよくわかった。
自然とスザクの顔にも作りものではない笑顔が浮かんだ。

「うん、しばらく日本にいられる事になったから、また学園に通おうとおもって」

そのスザクの言葉に、三人は明るい笑顔を向けてきた。

「そうなんだ!あ、でも勉強だいぶ遅れちゃったんじゃない?解らないところがあったらいってね、私とリヴァルで教えるからね!」

シャーリーも笑顔でそう返してくれて、ああ、ここは変わらないなとスザクは安堵の息を吐いた。変わったとすればカレンとニーナ、そしてナナリーが居ない事だけのはず。
先ほどの映像や報告は何かの間違いだったんじゃないかと、スザクはそう思いはじめ、生徒会室を見まわしたが、残念ながら探していた人物の姿は見つからなかった。
彼がもしここに居たなら、スザクが来たことに真っ先に反応を示したはずだから、反応がない時点で居ないことは当然か。

「えーと、ルルーシュは?また補習なのかな?」

スザクがそう口にすると、とたんに三人は笑顔を無くし、暗い表情で俯いた。
その反応に、思わずスザクは顔をこわばらせた。
今までの明るい空気が一転し、ギスギスした居心地の悪い空気となり戸惑っているスザクに、リヴァルはぎこちない笑顔を浮かべ、努めて明るい声で口を開いた。

「あー、ルルーシュね。ルルーシュ。部屋にでも戻ったんじゃないかな?ごめんな、俺には解らないわ」
「うーん、前だったら、そろそろ来るかもね~って言えたんだけどね。今はどうかな~?来ないんじゃないかな~?」
「来なくていいですよあんな奴。ああ、スザク君、ルルは・・・じゃない、ルルーシュ君は変わっちゃったの。だからもう仲良くしないほうがいいよ?嫌な思いするだけだから」

明らかに作り笑いと解る表情を浮かべながら、三人はそう口にした。
暗く硬いその声に、ああやはりあの映像は本当だったんだと理解した。

「変わった?何があったんですかルルーシュに」

それはおそらく先ほど機密情報局で聞いた『2ヶ月』に関係することのはずだ。
スザクは真剣な顔でそう尋ねた。
それは親友に対して心配しているとも見えるため、それまでの暗い表情を改めたミレイは困ったように眉根を寄せた。

「何がって言われてもね。私たちも分かんないのよ。ほら、ブラックリベリオンの時にルルーシュ、一時行方不明になってたの知ってる?外出中に戦闘が始まっちゃって避難していたせいで連絡も取れなくて。まあ、数日後にちゃんと見つかったんだけどね」
「そうそう、あの時は本当に心配したんだよな。電話も繋がんないし、戦闘に巻き込まれて怪我・・・下手をすれば死んでいるんじゃないかってさ」
「私達は時間を作ってはあれば避難地区や病院も探したの」

毎日放課後にはミレイとシャーリーが東京租界に近い場所を、リヴァルはバイクで少し遠い場所を探し回った。
でもある日、何事もなかったような顔でルルーシュは帰ってきた。

「その頃からだよなー、あいつ今みたいになったの。ほんと俺、今いるのって、あいつのそっくりさんで、ルルーシュは今も別の所に居るんじゃないかーって、ここに帰ってきたくても帰れないんじゃないかって、思うんだよな。でもまあ、あの見た目にそっくりな奴なんているとも思えないから、やっぱり本人なんだろうけど。ロロには相変わらずブラコン全開みたいだし」

兄命って感じのロロがあれだけ懐いてるから、疑うのもおかしな話なんだけどな。

「・・・ルルーシュ君、前は優しかったのに今は冷たいんだよ。私たちを見下して、まるで敵を見るような目で見るの。避難していた時に何かあったのか聞いても、何も無いって言うし。あれから私たち何回も喧嘩して・・・今はもう生徒会室にも来なくなっちゃった」

暗い表情で俯くシャーリーに、嘘をついている様子は無く、それはミレイとリヴァルに関しても同じだった。
その喧嘩がひどかった時期と言うのがおそらく『2ヶ月』という期間なのだろう。
ブラックリベリオン以降、発見されてから別人に。
それはつまり、記憶を書き換えられてからという事。
あの時、スザクがルルーシュを拘束していた時にかけられたギアスは、自分の出生を、母の事を、ゼロである事を忘れ、新たに偽りの家族の記憶を埋め込むものだった。
妹に関しては、弟だと書き換えられて。
そう、その時はそれだけだった。
だが、その後再び再会したルルーシュはブリタニアの軍師、ジュリアス・キングスレイとなっていた。もちろん、皇帝のギアスで出生だけではなく、スザクが友人という記憶意外、殆どの情報を書き換えられた状態で。
あの夏の日の想い出さえないため、スザクと友人というのは唯の情報として知っている程度だった。
ブリタニアを憎む心は忠誠心に書き換えられ、守るべきものを敵と認識させた。
ジュリアスはルルーシュ以上に不遜な態度を取り、まるで王者のような気配を纏い、人を従えていた。それはおそらく本来のルルーシュが持っている性質。
ルルーシュという人物をを形成する過去を失ったことで強調されてしまった結果だろう。
ギアスとは掛けられたら最後解く事が出来ない。
取り返しのつかない能力だ。
ならば、スザクが友人でロロが弟だという事以外全くの別人に書き換えられた彼を、書き換える前のルルーシュ・ランペルージに戻すことは不可能だという事だ。
やれることと言えば、ルルーシュ・ランペルージに関する情報を集め、それに適した記憶を埋め込む事。
その集めた情報に誤りがあれば?
記憶とは人格を形成する上で最も大事な要素だ。
誤った情報は誤った記憶を植え付け、誤った人格を形成するのではないだろうか。
つまり、今ここで生活をしているルルーシュは、皇帝が得た情報で作り上げた別人と言っていい。
つまり、ルルーシュの姿をした、誰か。
では、本当のルルーシュは?
あの日、僕の目の前で皇帝に・・・消されたのか?
スザクはそこに思い至り、全身に鳥肌が立った。

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