歪んだ人形 第17話


「侵略戦争の終結と全エリアの開放、昨夜突然発表されたシャルル皇帝の政策転換に戸惑う国民ねぇ」

ガサガサと音を立てながら新聞を捲るミレイは、苦笑交じりに言った。

ここはアッシュフォード学園の生徒会室。
テーブルの上には、本日発売された新聞と雑誌が所狭しと置かれており、リヴァル、シャーリー、ロロ、そしてカレンが笑いながらそれらに目を通していた。

「で、その皇帝陛下を裏から操っておられる影の皇帝、ルルーシュ陛下は今後どのようにされるおつもりですか?」

リヴァルは読んでいた雑誌をくるりと丸め、マイクよろしくルルーシュに向けた。

「さあ、どうしたらいいかな。ひとまず貴族制と皇族制・・・身分と言う物を全て消し去るつもりだ。そして民主主義国家に作り替える」

あれは害悪でしか無い。
一気に変える事は難しいから、段階を踏んでゆっくりとな。
既にそれらを読み終えたルルーシュは、暖かな紅茶に口をつけ、そう答えた。

「それより、アッシュフォードはどうするつもりなんです?やはり本国へ?」

日本も解放されることが決まっているため、多くのブリタニア人が本国へ帰国する事を検討しているのだ。

昨夜皇帝が行った演説の後はいろいろな憶測が飛び交った。
中には、故・マリアンヌ皇妃のご息女、ナナリー皇女殿下が保護された日から、故・マリアンヌ皇妃が夜な夜な皇帝の枕元に立ち、戦争で亡くなった皇子のことを攻め立てたことで、侵略戦争を集結させるに至ったのでは、というものまであった。
なかなかいい着眼点ではあるが、まさか戦争で亡くなったはずの皇子本人がブリタニアに乗り込み、皇帝を攻め立て、傀儡にし、戦争を集結させたとは誰も思うまい。

今朝正式に発表されたシナリオはこうだ。
ゼロはブリタニアで捕虜になっている間、皇帝と幾度も対話の場を設け、皇帝の考えそのものを変えることに成功した。
皇帝は、ゼロの語る戦争のない平和な世界に深い感銘を受け、弱肉強食の国是を撤回し、ゼロの行っていた弱者救済を今後の指針とする事を発表。その結果ゼロは世界で英雄と呼ばれ、各新聞雑誌には必ず英雄ゼロと書かれる状態だった。
そのため、日本の暫定政権のトップにはゼロが立つのではないかと噂されている。
当の本人は「冗談じゃない、誰がやるか!日本はカグヤに任せる」と、中華に逃れていたカグヤと咲世子に連絡を取り、その方向で調整を始めていた。
ちなみに黒の騎士団の者は全員釈放、無罪放免となり、今はカグヤの護衛として動いている。カレンはゼロの親衛隊なんだから、ルルーシュの護衛をすべきよね?と、半ば強引にルルーシュの傍にいる事となった。当然という顔で復学もしている。

「ん~、ルルちゃん本国に戻らないんでしょ?あー、ごめんね?ゼロの正体が実はルルーシュ殿下だったって話し、おじい様にしちゃったのよね~」

飲んでいた紅茶を噴き出しそうになったルルーシュは、半眼でミレイを睨みつけた。
もちろんルーベンのギアスもキャンセル済みで、ルルーシュの事を思い出していた。
他の一族の者は思い出させない方がいいと、そのままにしている。

「そしたらね、テロ行為は認められないが、あの皇帝を説き伏せるなんてさすがルルーシュ様!って、おじい様感動しちゃって。だからルルーシュが残るならうちも残る事になるわね」
「いいのかそんな理由で。だがミレイ、これ以上ばらすなよ」

面倒だから。

「はいはーい。解ってるわよ。下手な相手に話せるわけ無いじゃない、ルルちゃん今不老不死なんですものね。ああ、その話もしたら、これから我がアッシュフォード家はその血が絶えるまでルルーシュ様に代々お仕えする。まずは息子たちの教育のやり直しだって張り切っちゃって」
「なっ!そんなことまで話したのか!!」
「いいじゃない。この血が絶えるまでバックアップが続くのよ。喜びなさいな」
「喜べるか!自分の事は自分でできる!というか不老不死をあっさり受け入れすぎだ!!」

カラカラと笑うミレイに噛みつくルルーシュの姿に、リヴァルは思わず笑い声をあげた。

「いーじゃん、いーじゃん。なんかルルーシュ見てたら、不老不死でも普通の人間と何も変わらないって思えるし、若いまま長く生きられるのは羨ましいような、大変なような、怖いような、なんか複雑な感じだけど、まあ、お前ならなんとかなるだろ?」

世界もお前に任せておけば、平和になること間違いなしだしさ。
軽く言い放たれたその言葉に、ルルーシュは思わず嘆息した。

「ま、可哀そうだけどシャーリー、これはもう諦めるしかないわよ?」
「え?な、何言ってるんですか会長!わ、私はそんな・・・ルルにはその、C.C.さんがいるし・・・」

ルルーシュに恋心を抱いていたシャールーだったが、あまりにもルルーシュとC.C.が互いを理解し、その上息もぴったりな言動をするため、早々に白旗を振っていた。
C.C.は口と態度は悪いが美人だ。
それだけでも旗色が悪かったのに、彼女はルルーシュを本当によく理解している。
二人が一緒にいた時間は短いはずなのに、その信頼関係は強固だった。
とても敵わない。
だから今は二人を応援する側に立つことにしたのだ。
・・・二人が誰か?
若干腐ってしまった女子、シャーリーが応援する人物など決まっている。
相手には息もぴったりな共犯者がおり、不老不死という時間の壁にも阻まれ、その上性別というハンデまで!これで萌えずに何で萌える!
ああ、だめよそんな!いけないわ!ルルの力を知った世界から身を隠し、二人きりで逃避行なんて!
皇帝に捨てられた皇子と皇帝の騎士とか、親友で幼なじみで敵同士だったとか、想像力を刺激するネタにしかならないのよ!
妄想の世界へと入り始めたシャーリーを見て、ああ、これは大丈夫ね。と判断したミレイは、再びルルーシュに意識を向けた。

「で、C.C.さんどうしたの?今日は一緒じゃないのね?」

全てを地下でばらしたあの日以降、堂々とアッシュフォード学園を根城としている魔女は、今ここには居なかった。

「あいつは今ブリタニアだ。ジェレミアと共に皇帝のギアスを解いて回っている」

どれだけの規模で掛けられたか解らないが、どうせ自分と主義主張の違う相手を全員作り替えたにきまっている。コードを手に入れた後もルルーシュのギアスは解ける事の無かったため、皇帝とV.V.、ヴァルトシュタイン、そして響団関係者のギアスは解かないように注意をしつつ、出来るだけ元の状態に戻す事にしたのだ。
当然、アーニャも例外ではなく、既にマリアンヌはこの世にいない。
ためらうジェレミアに「母さんは幽霊のようなものだ。死して尚、他人の体に憑き生きるなど地獄だ!成仏させるのが忠義というものだろう!!」とルルーシュは力説し、確かにその通りだと納得させキャンセルさせたのだ。
ヴィレッタの兄弟も記憶をいじられていたため、そちらも解除すると、ヴィレッタは軍をやめ、今は本国で仲良く一緒に暮らしているらしい。
こちらでの教師の経験と、教師役になるために本当に手に入れていた教職員免許を使い、教師として日々を過ごしている。
ちなみに皇帝に命じ、ルルーシュが選んだ学園に赴任させていた。
彼女は優秀だ。
元軍人だからと差別されない場所に入れると、ルルーシュは言っていたが、その学校に皇族に戻ったナナリーが編入した時点で、ナナリーの護衛目的かと皆は納得した。 既に不老不死となったルルーシュは、ナナリーと共に暮らせない。それならばナナリーに最高の環境と教育を!と、考えた結果皇室に残すこととなったのだ。
皇室がいずれなくなるとしても、それまでの間に彼女に出来るだけの物を与えたい。
最初はルルーシュの元に戻りたがっていたナナリーだが、目が見えるようになったことで世界も広がり、お兄様の元に居ては甘えてしまう。だから今は離れて、お兄様に自慢の妹だと言ってもらえるよう少しでもいろいろ学ばなければ。と気持ちを切り替え、それなりに楽しい学生生活を送っているようだった。
もちろん毎日電話で近況報告をしている。
自分の手から離れた妹に寂しさを感じつつもルルーシュはナナリーの変化を喜んでいるようだった。
ロロの話も既にしているため、近々二人を引き合わせることも考えている。

「スザクも今本国だ。あいつは皇帝の騎士だからな、当分は忙しくてここには来れないだろう」

ルルーシュの不老不死を最後まで強固に反対していたかつての友人を思い浮かべ、ルルーシュは苦笑した。V.V.を捕獲したあの日、C.C.のコードで意識を奪い、眠らせたスザクは、目を覚ました後ずっとC.C.と言い合いを続けていた。
俺が決めた事だと言うのに、どうしてC.C.に喧嘩を売るような真似をするのかは解らないが、あの二人は正に犬猿の仲。本国で顔を合わせなければいいが。




ギアスで人を歪め続けていた男は、報いを受けた。
その心を、意思をギアスで歪められ、今は唯の操り人形。
平和を望む操り主の願いを叶えるため、人形は演台で自らの役を演じている。
大国の突然の変化に世界は戸惑いながらも、確実に世界は平和に向かっていた。
だが争いの火種は消えず、ブリタニアに報復をと意気込む国も多いが、せっかく平和路線に変わったのだから水を差すなという国民の意思が、それらの火種が大火になることを防いでいた。
世界がこのまま平和となるのであれば、人の理から外れ、永遠を生きる事となる自分は、出来るだけ手出しをするべきではない。
永遠を生きる者にとって、ほんの瞬きほどの時間。愛する者達が生きている今という日を大切に過ごそう。
ギアス響団には、コードから魔女を解放させるための研究を進めさせている。
それらの資料を見、あらゆる情報を今のうちに集めさせ、永劫の時を使い、いつか彼女を解放させて見せよう。誰かにこの業を背負わせるのではなく、コードそのものを消して見せる。
そして彼女に人としての明日を贈ろう。

穏やかな表情で青空を見上げながら、ルルーシュはそう心に誓った。



ロロとナナリーは半一卵性の双子設定。
そして今回もいつも通りのワンパターンEND。
ルルーシュ不死ネタが多いのは、V.V.にコード持たせておけないから。
結果、ルルーシュはコード解明の研究があるためコードを手放さず、C.C.とスザクは残りのコードをめぐり喧々囂々と言い争い中。

16話