仮面の名 第1話

俺は、混乱していた。
なぜならこれは、本来であればあり得ない光景だからだ。
待て、落ち着け俺。まずは冷静になるんだ。
今ここにいるのは、俺と玉城。
二人だけだ。
よし、そこは問題ない。
俺はゼロ。
だから当然ゼロの仮面をかぶり、ゼロの衣装を身につけているのは俺だ。
そのはずなんだが。
なぜ目の前にゼロの衣装を身に纏った男が居て、俺は団服なんだ。
いやまて、今考えるべきはそこじゃない。

「お前、俺か!?ってか何だこれ仮面!?何がどうなってるんだ」

そう騒いだ男が、その仮面に手をかけた。
拙い。仮面の下を見られるわけにはいかない。
この情報通を気取るスピーカー男に見られれば、どんな噂を立てられるか解らない。
停止していた思考を無理やり動かし、俺は仮面に伸びたその手を掴む。
そう、今優先すべきは目の前にいる者の拘束だと判断し、即座に組み伏せた。



幾度かのコール音がすぐそばで聞こえ、ああ、私の携帯かと気がつき、表示を見た。
予想通りそこに出た名前はZERO。
こんな時間に連絡など、珍しい。
何かあったのかと思いながら出ると、そこから聞こえた声は持ち主とは別の男だった。
まさか、落としたのか携帯を?
あいつは極稀にドジっ子属性を発揮するからあり得る。
いや、あいつは携帯にパスワードを入れている。
それも自分で改造し、12桁まで入るようにしたパスワードだ。
しかも曜日によってパスワードが変わる。
この男がそれを知る筈がない。
ならばなぜこの男が?

「なぜお前がその携帯を持っている?」
「C.C.、話は後だ。至急第3倉庫に来てくれ」

その話し方は、あの男の者。そのうえ、その声の主ではあり得ない力強さがあり、ああ、本当に不運というかトラブルメーカーというか、天然ドジっ子というか、変な事に巻き込まれる男だと嫌な予感を覚えながら嘆息し、指示された場所へ移動した。
ロックされていた扉をノックすると、すぐにロックが解除され扉が開いた。
中に入ると倉庫の奥に二人の男。
後ろ手に腕をひねり上げられ、床に倒れ伏している仮面の男と、その男の背に膝を乗せ、体重をかけて取り押さえている役立たずの団員。
あり得ない光景だった。
普段であれば、何をしていると口にし、我が共犯者を助け出す場面なのだが、先ほどの会話と、その男たちの言動で私は全て悟った。
何となく予想はしていたが、悟りたくは無かったし、信じたくは無かったが、まあ、現実逃避している暇は無かった。

「で、どうしてこうなったんだゼロ。私の考えが正しければ、玉城のその薄汚い体に居るのがお前なのだろう?」
「薄汚いってなんだ!薄汚いって!てめえC.C.、後で覚えてろよ!」

仮面の男が怒鳴るが、私はとりあえず無視をすることにした。
中身が玉城になった途端、その仮面の姿は滑稽にしか見え無くなるのだから不思議な物だ。その身に纏う指導者の気配は今そこに無い。それを持っているのは取り押さえている側だ。
あの、見た目と頭だけはいい男の、見た目と頭が分かれたのか。何という損失。その上、中に居るのがあの役に立たない口だけ男の玉城とか、ああ、神よ。もう少し考えてくれ。せめて私とか、カレンとか、ここは普通、男女が入れ替わる場面じゃないのか。
そう、例えば私の体に入って、性別の違う体に戸惑い、おろおろと赤面させる姿とか、見たかっ・・・いやまて、それは男の反応としてどうなんだ?
はっ!まさかルルーシュは男のカテゴリに入って無かったのか?本気か神!さすがにそれは可哀そうじゃないか!?
それとも入れ替わりは脳の構造上同性でなければいけないと?
そうだとしたら、ここは体力馬鹿の幼なじみと入れ替るべきじゃないのか?この頭脳に体力馬鹿の体というある種最強の人間が出来上がり、ブリタニア軍内に堂々と入り込めるわけだから面白・・・いや、違うだろう私。駄目だ、すぐに頭が現実逃避に走ってしまう。ああもう、認めたくないぞこんな状況は!
そんな混乱する頭を悟られるようなへまはせずに、C.C.は呆れたような顔で、ただゆっくりと二人を見比べるという動作をし、考える時間を稼いだ。

「C.C.、一先ず玉城・・・いや、ゼロを私室へ移動させる」

この状況を他の団員に見られるわけにはいかない。まずは安全な場所を確保し、その後盛大に悩めばいい。その提案は大賛成だ。私はゆっくりと頷いた。

「ああ、だが待て。私とお前だけでは手が足りない。もう一人二人協力者が欲しい。この状況がいつ戻るか解らない以上、お前の正体を隠すため、そして玉城に入ったお前自身を守るための剣が欲しい」
「・・・それは、この仮面の下を見せると言う事か?」

眉根を寄せるその顔は、いつものだらしない玉城とはまるで別人で、頼りになる男という感じがした。中身が変わればこれほど違うのかと思ってしまう。それはつまりあのルルーシュの美しさが玉城が中に居る事で損なわれてるということか。ああ、見たくないな。そんながっかり美形は。

「そうだ。私としてはカレンと藤堂あたりが適任だと思う。お前たちの症状を調べるための医者が必要ならば、ラクシャータもだな」
「3人か」
「一先ずその男を気絶させ、運ぶ役として藤堂、そして容体をみるためにラクシャータ。親衛隊長のカレンがそこに居ても誰も怪しまない。それに、その三人を私が選んだ理由は他にもある」
「この仮面の下を知る者か」
「そうだ。だから、余計な説明など要らないだろう」
「まてこら!なんだ、あの三人はゼロの正体知っているってのか!?」
「いや、知らないさ。今はな」
「C.C.」
「ああ、三人を呼んでくる。待っていろ。その間に少しでも原因を考えておけ」

私は混乱する頭を少しでも落ちつけようと、三人を徒歩で探し始めた。
2話