仮面の名 第2話 |
まず。 仮面の男を取り押さえる無能を退けようとする娘を抑え。 眉根をしかめ説教をかましそうになる男を黙らせ。 傍観者を気取りドアから入ろうとしない女を引きずりこむ。 そして扉を閉じ、鍵を閉める。 そこまで行って、ようやく私は一息ついた。 「一体何なのこれ!?玉城!そこ退きなさいよ!」 「カレン、今は落ち着いてくれ。これから説明をする」 いつもとは違い、落ち着いた声音で話す玉城に、カレンは驚き声を無くした。 藤堂とラクシャータも何かおかしいと気付いたのか、口を閉じたまま視線をゼロを取り押さえている玉城に向けた。 「急に呼び出して悪かったが、緊急事態が発生した。すまないが、今は理由を聞かずに協力してほしい」 あの玉城の口からは逆立ちしてもで無いその言葉。そして。 「いい加減降りろよ!ってか俺をどうする気だ!」 と、あのゼロが絶対に口にしないような言葉。 え?え?と、驚き二人を交互に見るカレンと、驚き困惑した表情を浮かべる藤堂、そして眉を寄せ一人思案するラクシャータ。 「もしかして、今玉城の体にゼロが、そしてゼロの体に玉城が入っているってことでいいのかしら?」 科学的にはあり得ない事だと思いながらも、それ以外思い当たらないのだろう、複雑な表情で尋ねたその女性に向かい、私も思わず困惑した表情で頷いた。 玉城の体に入ったルルーシュは、その通りだと頷いた。 「原因は解っていないが、今優先すべきは玉城・・・いや、このゼロを移動させることだ。すまないが藤堂、この体を気絶させてくれないか?そしてここから私の部屋へ移動させてほしい」 「気絶!?おい、暴力はやめろよ!移動するだけならこのままでいいじゃねーか!」 「駄目だ」 「駄目だな」 私と共犯者はほぼ同時にそう答えた。 「何で駄目なんだよ!」 流石にそれを指摘するのは気が引けるのか、ルルーシュは口を閉ざしたので、私がその理由を答えることにした。 「まず、その口のきき方だ。もし隊員の前でお前が口を開けば、中身は別人だと団員は考えるだろう。もう一つはお前の動きだ。いつもガニ股でだらしなく歩いているだろうお前。そんな歩き方をゼロがしたら、これもまた別人だと思われる。つまり、誰でも衣装を着ればゼロとなれるのだから、本当はゼロも複数人で動いているのかもしれないという猜疑心も生みかねない。今はこんな状態だ、いらぬ詮索はは避けたい」 「・・・それすごく解ります。こんなゼロ、ゼロじゃない。イメージが崩れすぎます!」 「成程、そういう事なら。玉城、すまないが暫く眠っていてくれ」 「え?ちょ、待て藤堂!こら!」 「私が押さえますから、ゼロは離れてください」 「ああ、すまないなカレン」 カレンと藤堂に抑え込まれ、あっという間に失神した玉城を横抱きにし、藤堂は立ち上がった。横抱き。つまりはお姫様だっこ。 「・・・藤堂、その抱き方は・・・」 あからさまに顔色を悪くし、嫌そうに眉を寄せたルルーシュに、いいからさっさと行くぞと声をかけ、カレンを先頭にC.C.、藤堂&ゼロ(玉城)、玉城(ゼロ)とラクシャータがその部屋を後にした。通りかかった団員を捕まえると、ゼロは過労で倒れたと教え、暫く動けないと扇に伝えるように指示を出し、さっさと全員ゼロの私室へ移動した。 「問題は扇だが、それはラクシャータに任せればいいだろう?で、見せるぞゼロ。もう文句は言うなよ」 ゼロの部屋に設置されていた椅子にゼロ(玉城)をカレンと藤堂が縛りつけたのを確認した私は、そう言った。ゼロ:玉城が目を覚ます前に話を全て終わらせたいのだ。 「仕方がないな。出来れば誰にも知られたくは無かったのだが」 「お前がいつ戻れるか解らない以上、私一人では守りきれないからな。まあ、こいつらはお前の表の顔も知っている連中だ。カレン以外は納得するだろう」 その私の言葉に、三人は驚きの声を上げた。 「え?何、私がゼロの表の顔を?」 「知り合い、という事か?」 「へぇ、全然解らなかったわよ?誰なのよ?」 「C.C.」 「どうせ見られるんだ、いいじゃないか。ああ、ラクシャータは直接面識はないが、これの事情は藤堂と同じぐらい理解しているはずだ」 私はそういうと、ゼロ(玉城)の前に立ち、その顔を覆っていた仮面のギミックを作動させた。カシャリと音を立て小さく折りたたまれた仮面を外し、その顔の半分を覆う布を降ろしてから、椅子の正面から横へ移動し、俯いているその顔を上向かせた。 黒髪に白磁の肌。人形のように整った美しい顔立ちの少年がそこに居た。 カレンが、ええ!?まさか!。と口にした。 「7年前、この日本で死んだとされているブリタニアの皇族の一人、皇位継承権第17位、第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。それが私だ」 その言葉に、三人は驚きの眼差しを玉城:ゼロに向けた。 「そうか、君だったのかルルーシュ君」 その、驚きを滲ませた藤堂の声に、ルルーシュは笑みを浮かべ頷いた。 「お久しぶりです藤堂さん。7年ぶりですね」 「ああ、ナナリー君は一緒なのか」 「はい。あの子も元気にしていますよ。目と足はあの頃と変わりませんが」 「そうか、成程、君ならばブリタニアを敵とし、戦う理由は十分すぎるほどあるな・・・桐原公がゼロに協力した理由にも得心が行った」 「え?え?なになに?何なのよ!ちょっとルルーシュ!ちゃんと説明しなさいよ!皇子ってなに?あんたランペルージでしょ?なんで皇族の名前名乗ってるのよ!?」 混乱したカレンは、そう言いながらルルーシュに詰め寄った。 「ああもう、それでなくても何が何だか分かんないのに!どういう事?あの時、あんた私の目の前に居たわよね!?それなのにどうして私にゼロから電話が来るのよ」 以前カレンがルルーシュがゼロではないかと疑っていた時の事を詰め寄られ、あの事かとルルーシュは頷いた。 「簡単な話だ。あの電話はただの録音で、第三者が録音された俺の声を再生させただけだ。でなければあんなにピンポイントで電話など来るわけがないだろう」 「録音!?うわー!もー!騙された!!じゃあ私の最初の勘、あってたんじゃない!あんたがゼロだって!」 髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き毟りながら絶叫するカレンに、仮にも美少女がやっていい行動じゃないだろうと思いながらも、まあ、こういう反応にはなるかと納得した。 「カレン、やめないか。せっかくの綺麗な髪がぐちゃぐちゃになってるぞ」 その言葉に、自分の行動に気づいたのだろうカレンはざっと手ぐしで髪を整えたが、それが気に入らなかったのだろうルルーシュは櫛を洗面室から持ってくると、その髪をとかし始めた。ナナリーで手慣れているとはいえ、他人の、しかも異性にする行動じゃないだろうと突っ込みを入れたいところだが、妹属性にとことん弱い兄馬鹿だから仕方がないかと口にするのはやめた。 カレンは最初驚いたが、動くなと注意され、大人しく髪を梳かされるうちに少し落ち着いたのか、乱れた髪が戻る頃には、冷静さを取り戻していた。 「もう、いいわ。ようはあんたはブリタニアの死んだはずの皇子様、でも、ブリタニアを憎む理由があるから、こうして戦うわけね」 今はいいけど、今度洗いざらい吐いてもらうからね。 「閃光の息子がブリタニアと戦う理由ねぇ。やっぱり閃光のマリアンヌ暗殺に関係してるのかしら?」 「そうだな、それもある」 「閃光?マリアンヌ?」 カレンは一人、誰の事?と尋ねたので、私が補足してやろうと口を開いた。 「かつてシャルルのナイトオブラウンズ・ナイトオブシックスとしてKMFガニメデに騎乗した、最強と呼ばれた騎士だ。その動きは光のごとき早さで、その閃きはどんな苦境をも好機に変える。ゆえに閃光のマリアンヌと呼ばれていた。彼女はのちに皇帝に見初められ、皇妃となった。だが、今から8年前、マリアンヌは暗殺された。傍にいた娘をその体でかばい、全身に銃弾を浴びてな。・・・早い話、マリアンヌはルルーシュとナナリーの母親だ」 「ええええ!?ルルーシュ、あんたのお母さん、その、暗殺されたの!?」 驚き、口ごもりながらもそう尋ねたカレンに、ルルーシュは表情も変えず頷いた。 「ああ、ナナリーの目の前で母は殺された。ナナリーはその時の銃弾で足が不自由となり、ショックから目を閉ざしてしまった」 その内容に、カレンは絶句した。 だが、この程度の不幸話で驚かれては困ると、私は口を開いた。 「皇室では有名な話だが、ルルーシュとナナリーが日本に送られた理由はな、マリアンヌの葬儀にすら顔を出さなかった父親に、ルルーシュが母の死を報告し、病院で苦しんでいるナナリーの見舞いに行って欲しいと言ったのが原因だ」 「ええ!?何それ!?最低じゃないあの皇帝!」 細かい経緯は省略し、そう説明すると、カレンは目を見開き、その顔に怒りを乗せた。 「その上、ようやく退院したナナリーとルルーシュに、碌に護衛も付けずに日本に送り、ほんの数ヵ月後日本に攻め込んでいる。もちろん迎えなど来ないぞ?皇室からの暗殺者ならたくさん来ていたけどな?・・・だから二人は生きるために、あの戦争で死んだ事になっているんだよ」 こうやって口にすると、本当にひどい扱いをされた兄妹だ。大切な物は遠くへというが、これで愛していると言われても、信じる者はいないと思うぞ?せめて戦争を当分する予定の無い国、例えばEUとか、あるいはブリタニアの辺境に送るべきだったんじゃないだろうか。 「はああ!?最っ低!!あり得ないわ!わかった、ルルーシュ。あの妹馬鹿のあんたが、ナナリーちゃんにそこまでされて怒らないはず無いわよね。一緒にがんばりましょう!絶対にあの皇帝をぶっ倒すわよ!日本のために!ナナリーちゃんのために!!」 カレンは握りこぶしを作り、片腕を振り上げるようにそう宣言した。 本当に熱く、そして男らしい娘だな。 カレンとルルーシュの体が入れ替わったら、凄くしっくりきそうだ。こいつら、本当は性別間違えて生まれてきたんじゃないか? ある意味、顔を知られて一番説得に困ると思われたカレンがあっさりこちらについたことで、ここから先はやりやすくなったなと安堵した。 「さて、盛り上がっているところ悪いが、間違ってもルルーシュの事は漏らすなよ?生きていると解れば本国に連れ戻され、今度はどんな扱いをされるか解らない。ナナリーを人質にルルーシュを軍師とするかもしれないな。ナナリーをどこぞの貴族に降嫁し、ルルーシュを再び人質にする手もある。どの道碌な目には合わないさ」 その私の言葉に、カレンは強い眼差しで、解ったわ!と答え、藤堂とラクシャータも了承の意をこめて頷いた。 |