仮面の名 第13話


目を覚ました男は、疲れたような表情で辺りを見回すと、少し時間をくれと言い置いてその場を離れた。やはりあの玉城が使っていた体だからだろう。その体を洗うため、すぐにシャワーの音が聞こえてきた。
その気持ちは解ると、女性陣は一様に頷き、藤堂も普段の玉城を思い出し、まあ、解らなくはないがと眉を寄せた。
手早く洗い、戻ってきたルルーシュは、髪を乾かす時間も惜しいと言いたげに、タオルで濡れた髪を拭きながら部屋へ戻ってきた。

「で、どうする?」

ようやくその美しい顔と瞳に知的な光を取り戻した男に、そうC.C.は尋ねた。
やはりこの男にはこの体のほうがいい。

「一度目覚めた力を奪う事は出来ないのだろう?ならば封じるしかない。俺の力でそれは可能なはずだ」
「玉城に素顔を見られるぞ?」
「ならば、それも忘れさせればいい。問題は、お前がどうやって玉城に力を与えたかだ」
「・・・覚えていない」
「となれば、玉城以外にも力を手にした者が居る可能性があるわけだな。ならば、科学的にこの力を解明し、その能力を封印あるいは無効化する手段を手に入れる必要がある。俺とお前はどうにか対処できても、敵側に能力者が居る以上、俺たち以外も対応できるよう手を打たなければ、ブリタニアに勝つなど不可能だ」
「超能力を科学的に?」
「可能だと、俺は考えている。少なくても俺の能力に関しては、制限が多く、防ぐ事も容易い。防げるようになるだけでも十分意味はある。本来なら俺と系統の違う玉城の力も研究したいが、玉城の性格を考えるなら封じたほうがいい。俺の力がどういうものかは、今三人に見てもらえば事足りるだろう」

そう言うと、ルルーシュは玉城を起こす様ラクシャータに命じ玉城を起こした。
目を覚ました玉城は、ぽかんと、まさに鳩が豆鉄砲を食らったというような顔でルルーシュを見た。

「うお!?まじかよ!?ってブリキ?いや、それよりお前、男・・・ええ!?」

美人やイケメンという言葉である程度は想像していたとしても、ルルーシュの容姿はその想像を超えていたらしく、若干頬っを赤らめているその男に、ルルーシュは近づき、視線を合わせた。
自分のすぐ目に前にまだ僅かに髪が濡れ、頬を上気させているルルーシュが来たことで、玉城の顔はますます赤くなり、これは拘束すべきかとC.C.達は眉を寄せた。当の本人は、ゼロの素顔を見たことで興奮したか、自分の体に戻れてうれしいからだろうと、見当違いの結論を出していたが。
そして彼らの目の前で玉城の力を封じるための絶対の命令を下す。ゼロの素顔に関する記憶も一緒に忘れさせ、玉城の記憶があいまいとなっている隙に、ゼロの仮面(予備)をつけ、マント(予備)をはおった。
今まで使っていたものは消毒すると言ってC.C.が片付けてしまったのだ。 私服に仮面とマントという、先ほどと変わらない姿ではあるが、やはり中身がルルーシュだと頼りがいがあり、ちゃんとした指導者に見えるから不思議だ。
目が覚めた玉城のギアスが消えたか確かめた後、再び全員この部屋に集められた。
先ほどまで凛々しい表情を見せていた玉城は元のだらしのない玉城に戻り、仮面の男は先ほどの間抜けな姿から一転、貫禄のある姿でキーボードを叩いていた。
その姿で、二人が元に戻った事を全員が悟った。
全員がそろったのを確認すると、ゼロはその手を止めた。

「何度も呼び出してすまない。まずはC.C.、確認を」
「ああ、解っている」

今ここにいる全員に、ギアスが宿っていないかC.C.は確認して歩いた。そして。

「・・・嘘だろう」

そんなつぶやきが聞こえ、他にもいるのかとゼロは嘆息した。
結果、扇・卜部・仙波が持っていた。これは他にもいそうだと、ゼロ・カレン・ラクシャータ・藤堂は胃が痛くなるのを感じていた。
何せルルーシュの力は絶対遵守。皇帝は記憶を作り替えれると言う。どちらの力も、対象を意のままに操り、絶対に裏切らない奴隷にする事さえ可能だった。それこそ藤堂やカレンといった中核の人間を突然豹変させる事さえ可能なのだ。その類の凶悪な、正に悪魔の力を他の物も手にしている可能性があるのだ。

「科学班と、玉城、扇、卜部、仙波は残ってくれ」

その言葉で他の物は部屋を後にした。

「C.C.、お前何をしたんだ一体」

4人もいたという事実に、怒りを通り越し、呆れることしかできなかった。

「覚えてないと言っただろう。幸いこの3人は玉城のような適性が無く、力に目覚めていない。このまま先ほどのように封じれば問題は無いと思う」
「・・・後で団員全員回って調べておけ」
「わかっている。私もこれは流石に笑えないからな」

ひきつった顔でそう呟くC.C.に、扇、卜部、仙波は不思議そうに顔を見合わせた。

「扇、玉城、仙波、卜部。お前たちに尋ねたいことがある。C.C.から何か契約の話、あるいは何かを授けるような話をされた覚えは無いか?」

遠まわしに話しても意味は無いだろうと、ルルーシュはそう口にした。

「C.C.からぁ?俺はしらねーぞ?」

玉城はそう即答したが、残りの三人は何やら考えているようだった。

「どんな些細なことでも構わない。話してほしい」

それなら、と卜部が口を開いた。

「一昨日の話です。玉城が大量の酒を手に入れたと持ってきて、あの休憩室に集まり皆で飲んでいました。あの時、最後まで飲んでいたのが、自分たちとC.C.です」
「・・・まて、C.C.お前あの汚い場所で酒を飲んでたのか。しかもあの部屋、女性団員は立ち入らないと聞いているから、女一人でいたと」

むさくるしい男たちの中に美少女が一人混ざっての酒盛り。
あり得ない状況を想像し、ルルーシュは思わずC.C.を見た。

「仕方ないだろう?その酒を飲むのはあくまでもあの部屋でと限定されたし、お前と一緒だと酒が飲めないから、仕方なく行ったんだ」

でなければあんな汚い所に行くかと、C.C.は腕を組み、偉そうにそう言った。

「私も出来ればあの部屋では飲みたくありませんでしたが、久々の酒だったもので」

仙波はそう言いながら、覚えていませんかと藤堂を見た。

「そう言えば、誘われていたな。あの部屋には入りたくは無かったから断ったが」

そんな話もあったと、藤堂は頷いた。千葉はもちろん、朝比奈もあの部屋は嫌だと飲みにはいかなかったのだ。

「その時に、たしか玉城とC.C.がそのような話をしていた気がします。扇は覚えていないか?玉城の隣だっただろう」
「ああ、覚えている。酔っぱらった二人がおかしな話をしていたな。玉城は自分に役職が無いのはおかしい、俺もゼロみたいになりたい、今の自分では無く、別の自分になってみたいと。そしたらC.C.が、私と契約をすれば叶うかもしれないと言っていたな」
「C.C.・・・」

既に怒鳴る気力も無いルルーシュは、そう重低音で呟いた。

「久々の酒で、思わず限界以上飲んだ。だから、あの日の記憶は無い」

真剣な声で、そう断言するC.C.は、既に開きなっているように見えた。

「偉そうに言うな。で、お前たちも言われたのか?」
「ああ。その後すぐ玉城が倒れるように眠って、俺が玉城を起こそうとした時、お前にもくれてやるとC.C.が俺に触ったんだ。その後なんかこう、気分が悪くなったな」
「浮遊するような感じというか、天地がひっくり返ったよな錯覚と、幻覚のようなものが見えた気がします。流石に飲み過ぎたかと、そこで解散になりましたが・・・全員同じものを見ていたという事ですか?」

卜部が眉を寄せながら、藤堂に尋ねた。
藤堂は頷く意外、呆れて言葉も出ない様子だった。

「これは、あれですね」
「このおバカな魔女には、お仕置きが必要そうねぇ」

何て恐ろしい事を酔った勢いとはいえやったんだと、体力自慢の少女と、頭脳明晰の女性は目を細め、その馬鹿な魔女を見つめた。



その後、彼らのギアスは封じ、騒ぎは沈静化した。

心が入れ替わる。
そんな物語の中でだけ起こるような現象が実際に起きていた事を知った団員は、元に戻ってしまった玉城に心底ガッカリしていた。
同時に、あの玉城が頼もしく見えた理由に納得し、ディートハルトは調査のためその現場を目に出来なかった事を血の涙を流しながら悔しがり、なにか記録は残っていないか調べ始めていた。この日以降、ディートハルト以外にもゼロ信者のような団員が増えたと言う。

そして、玉城は、凛々しかった玉城:ゼロの様子を散々皆に聞かされ、俺の何が悪いんだと叫びながらも、かなり凹んだらしい。

C.C.から得た情報で、皇帝の記憶改竄のギアスは脅威と判断され、対策を施さなければ内側から崩されかねないことが解かり、科学班の協力の元ギアスを無効化する研究も進めることとなった。その延長線ではあるが、コードの無効化も研究することとなり、CCは大喜びで知りえるすべての情報を開け渡していた。

ギアス・・・いや、超能力に関しては、カレン、藤堂、ラクシャータと科学班のみが知る情報とし、無駄な不安は煽らない方向で話はまとまった。
そして。

「これから先、お前は酒を一切飲むな!このピザ女が!」
「なっ!お前が毎日飲ませればあんなハメを外さずに済んだんだ!せめて1日ワイン1本用意しろ!」
「だまれ!ならば今後ピザも禁止にするぞ!!」
「ピザだけじゃないわよ?甘いものも禁止ね。食事は精進料理でいいんじゃないかしら?」
「むしろ、大根渡して齧らせておけばいいんじゃないですか?魔女なんだし」
「魔女というのだから、案外仙人のように霞だけで生きられるのではないか?」
「な!?お前たち酷過ぎるぞ!?私をなんだと思ってるんだ!!」

C.C.は強制的に禁酒することとなった。

12話