キョウソウキョク 第1話 |
雪が深々と降り積もる中、タクシーは目的の場所に辿り着いた。 山深い、近くに民家など一つもない場所に立てられた一件のペンション。 その洋風な建物の前にタクシーは静かに停車した。 表示された金額を払い、荷物を持ってタクシーを降りると、車はすぐに発進し、この場所を離れた。 この場にただ一人となり、改めてペンションを見上げる。 駅から遠く離れた静かな森の中にあるこの建物は、しんしんと音もなく空から降り注ぐ雪に覆われており、あまりの静かさにまるで外界から切り離されたようで、一人になりたいと考えていた自分にはぴったりだなと思った。 命の息吹が感じられない純白の世界。 そこに唯一存在する人工物ヘ向かいゆっくりと足を踏み出すと、わずかに積もった雪の上に足跡が残った。それが何故かおかしくて、思わず口元に笑みが浮かんだ。 新雪を踏みしめながら建物に近づく。 三階建てのペンションの一階部分は駐車スペースで、フロントは二階にある。 木造の階段をゆっくりと登ると、体重を受け止めた木の板はギシリと音を立てた。 普段は聞こえないだろう小さな木のきしみは、静寂の中に唯一響いた音だった。 ギシリ、ギシリと厚い木の板を踏みしめながら階段を登ると、可愛らしい花の装飾が施された木のドアが目に入った。 その木のドアの前には風除室があり、横開きのガラスの扉を開き、中へ入る。 雪が中へ入らないよう、しっかりとガラスの扉を閉ざしてから、木のドアを開けた。 室内へ入ると、外の寒さとはまるで別世界の暖かい空気が体を包んだ。 正面には受付があり、無人のその受付に近寄った。 辺りを見回してみるが誰もいない。 呼び鈴らしきものもカウンターにはなかった。 受付のカウンターの奥には<事務室>と書かれた扉。 もしかしたら中にいるのかもしれない。 「すみません、予約をしていた枢木ですが」 その声が聞こえたのだろう、事務室からバタバタと足音が聞こえ「すみません、今行きます!」と、男性の慌てた声が聞こえてきた。 勢い良く事務室の扉を開けて出てきたのは20代の男性だった。 「おまたせしてしまい申し訳ありません。このペンションのオーナーの扇と申します」 自分もくせ毛だから、人のことは言えないのだが、まるで鳥の巣のようなの独特の髪型の男性は、とてもオーナーには見えない風貌だった。 だが、腰は低いらしく、本当に済まないという顔でペコペコと何度も頭を下げる。 「こちらにお名前をお願いします」 今日の日付が書かれた宿帳らしきものとペンを差し出したので、僕はその宿帳に自分の名前である枢木スザクと記入した。 どうやら僕意外にも宿泊客がいるらしい。 数人の名前が書かれていて、その横に3桁の数字が書かれていた。 セシル・クルーミー 208 ロイド・アスプルンド 210 ジェレミア・ゴッドバルト 202 ブリタニア語だ。名前から見ても全員ブリタニア人だろう。 「枢木様のお部屋は207号室です。この先の階段から上の階へ上がってください」 扇は予約リストらしいものと照らしあわせた後、僕の名前の横に207と数字を書いた。なるほど、部屋の番号だったのか。扇が207と書かれたプレートの付いた鍵をカウンターに置いたので、僕はその鍵を手にとった。 「ありがとうございます」 「枢木様は2泊でしたね。ご旅行ですか?」 「ええ。久しぶりに日本に帰ってきたので、のんびり過ごしたくて」 「ということは今まで外国に?」 宿帳を閉じ、カウンターの引き出しにしまいながら、扇はそう訪ねてきた。 正直あまり個人的な話はしたくないのだが、ネットで予約を入れた時に17歳、つまり未成年だと知られていた。下手な勘ぐりをされる前に、相手が知りたい情報は支障のない範囲で出した方がいいだろう。 「はい。ブリタニアにある帝立コルチェスター学院に留学しているんです」 「コルチェスターって、あの名門の!?」 まさか、と言いたげな声音で扇は驚き、まるで品定めをするように僕をジロジロと見た。腹立たしさを感じたが、僕はにっこり笑いながら「そうは見えませんか?」と戯けた口調で肩をすくめ、扇が先ほど指し示していた階段の方へ足を向けた。 ジロジロと物珍しそうに見る視線を背中に感じながら、僕は階段を登った。 207号室の前に立つと、渡された鍵を使い扉を開ける。 ベッドが2つ置かれた客室に入り、荷物を投げ出すと、ベッドの一つに横になる。 はあ、と重い溜息をついた後、僕は天井を見つめた。 元々スポーツ絡みでコルチェスターに留学していた。 「落第点などという恥じを晒したら即帰国させる」と父にいわれているため、必死になって勉学にも励んでいたのだが、学院が冬休みに入ると同時に即刻帰国するようにと、家の者が迎えに来てしまい、逃げることも出来ずこうして帰国した。 とは言え冬休みが終わったら学院に戻っていいらしい。 では何故戻されたのか。 それは政治家である父親のくだらない見栄のためだった。 帰国後父に連れられ、連日政治家達の会合や晩餐に出席させられた。 あれだけブリタニアへの留学を許さず、勘当騒ぎまで起こしたというのに、名門と呼ばれる帝立コルチェスター学院に通っている息子を都合よく利用しているのだ。 最初は休みの間だけだと我慢していたのだが、流石に我慢にも限界が来て喧嘩をし家を飛び出したのが1週間前。 ほとぼりが冷めるまでブラブラとした後、最後の数日は家に戻ってまた父の相手をし、その後ブリタニアへ戻る予定だ。 全く、せっかくの休みを無駄にしてしまった。 パスポートを抑えられている以上ブリタニアに戻ることも出来ない。 向こうで、休みの間にやりたいことがあったというのに。 何のためにブリタニア語を必死に学んだと思っているんだ。 苛立ちが再び心を黒く塗りつぶし、気がつけば眉間にしわがより、険しい表情になっていて、僕は目をつぶり首を振った。 1週間前、連日の愛想笑いに身も心も疲れ果て、しばらくは一人静かになりたいと、温泉と美味しい食事で有名だというこの場所を選んだ事を忘れていた。 嫌なことは忘れよう。 僕はベッドから飛び起きると、未だ着ていたコートを脱ぎ、クローゼットに鞄と一緒に投げ込んだ。 せっかく来たのだ、部屋に引きこもるなんてもったいない。 まずはこの建物の中を見て回る事にした。 続き書く予定が全く無い未完の話を場繋ぎにUP。 なんでこの話を書き始め、更には放置したかという、どうでも良い言い訳をすると。 私は定期的に「サウンドノベルゲーム作りたい」病を発症させるんですが、素材集めたり、ちょこちょこシステムいじって満足して放置を繰り返してました。ギアス書くまで文章書いたことなかったので「シナリオを書こう!」という頭はなかったのに作りたいという謎な状態だったわけです。 でもギアス書き始めて「それ用の文章書けば本当に作れるかも?」という流れで書いたのがこの話なんですが、分岐前提とはいえバッドエンドシナリオなこともあり、途中で書き飽きたという・・・。 分岐先のバカシナリオは今でも書きたい気持ちはあるんですけどね。 ギアスのテキスト書いてると、サウンドノベル病を発症しなくなった(発症する隙がないとも言いますが)のも大きい気がします。 というわけで、UPしても12話分ぐらいだから、ものすごく中途半端になります。 |