キョウソウキョク 第2話


階下に降りると、新しい客が来たらしく、扇がカウンターで受付を行っていた。着ているコートの襟を立て、帽子を深くかぶっているため顔は解らないが、長身の男と、若い女性のようだった。

「ブリタニアの方ですか。日本語がお上手なんですね」

その扇の言葉に、彼らもまたブリタニア人であることがわかった。
こんな何も無い場所にあるのに思ったより繁盛している。しかもブリタニア人に人気なんて、外国人向けの隠れ家的な感じなのかもしれない。温泉と食事、そして静かな場所が理由で自分も選んだというのに、酔狂な客だなとスザクは思わずその客を伺い「は!?」と、頓狂な声を上げた。
その声に客と扇はこちらを見た。
まさか。いや、でも。え?

『お!スザク!やっぱりここに来てたのか!』

にっこりと笑顔で片手を上げながら近づき、大げさな身振りで抱きついてきた長身の男に僕は思わず顔をひきつらせた。
長身で金髪、そしてその髪を三つ編みにしていて、大型犬のようにじゃれついてくる男など一人しか知らない。

『ジノ!?って、そっちはまさかアーニャ!?』
『記録』

女性はおもむろに取り出した携帯電話を構え、写真をとった。
見るとピンク色の髪がいつも通り2つに結わえられていて、表情無く写真を撮る姿は間違いなくよく知る彼女のものだった。
どうしてここに居るのだろう。いや、それ以上に気になることがあった。

『まさか君達、付き合ってたのか!?』

これは間違いなく恋人同士の旅行だろう。見なかったことにするべきか?

『違ーう!スザクがここを予約したってスザクの家の人が教えてくれたから、私達も予約したんだ』

確かに自分は未成年だから、念のためどこに行くかは伝えているが。
誰だ漏らしたの。絶対見つけ出さなきゃ。
思わず目を眇めて二人を見つめた。

『日本観光、温泉、刺し身、芸者』

アーニャは無表情のままそう口にし、僕の肩を組み、カメラ目線になったジノを確認すると再びシャッターを切った。

『いや、此処に芸者はいないよ』
『そう?なら温泉。芸者は今度連れて行って』

アーニャは手にした鍵を持って、すたすたと廊下を歩き出した。

『私206』

鍵のプレートをちらりと見せながら、階段を上っていく。

『私は203号室だ。スザクは?』
『207号室』
『なんだ、隣じゃないのか』

残念だなとジノは荷物を置きに階段を登っていった。
一人取り残された僕は、ふと視線を感じそちらを見ると、扇が興味津々という目で見ていた。

「枢木様、今のお客様はお知り合いですか」

ブリタニア人がこれだけ来ているというのに、どうやら扇はブリタニア語がわからないらしく、そう訪ねてきた。
個人情報を聞きたがるオーナーだなと、内心不愉快に思いながらも、どのみち二人が話すだろうし、何も言わないのも問題かと、僕は笑みを顔にはりつけて口を開いた。

「はい。後輩なんです」
「後輩?コルチェスター学院の、ですか?」

扇は驚き目を見開いた。

「ええ、そうです。ジノが1年。アーニャが中3です」
「中って、中学生なんですか!?あの、男性が高1!?」

それが一番衝撃だったのか、扇は慌てて予約リストらしきものを引っ張りだし目を通した。だが、予約したのはおそらく貴族の子息であるジノか貴族の令嬢であるアーニャの使用人で、ジノとアーニャの個人情報が解るような書き方はされていないようだった。ただ、未成年の学生二人という情報だけは持っていたようだ。

「中学生が恋人と旅行・・・早すぎないか!?」

実際はスザクを追って日本観光に来たのだし、スザクと談笑したのだから此処で三人が合流したと考えないのだろうか。まあ、自分も疑ったが。
とはいえ、もしそうだったとしても、客商売をしている人間が口にするべき言葉ではないな。スザクは扇が漏らした言葉を聞かなかった事にして受付を通り過ぎると、そのまま通路の反対側へ進んだ。
通路の先はT字路になっており、右側はトイレと、男湯・女湯と書かれた暖簾。
どうやら温泉の入り口らしい。
左側には扉がなく、広々としたラウンジが見えた。
ラウンジの奥には大きな扉があり、片側が開けられていたため覗いてみるとそこは食堂だった。
キッチンと大きなダイニングテーブルが置かれていて、ガラの悪そうな男がうろついていた。エプロンをしていたからおそらく従業員だと思う。
ラウンジには暖炉があり、僕より先に来ていた客だろう一人がチロチロと揺れる暖炉の炎をみながら何やら飲み物を飲んでいた。
グラスが空になったのだろう、横に置かれていた瓶を手に取ると客と思われる女性はその瓶の中身をグラスに並々と注ぎ、その後一気にグラスを煽った。

『あー、おいしい』

幸せそうに女性はブリタニア語でそういうと、再び並々とグラスに注ぐ。
僕の見間違いでなければグラスはワイングラス、注がれているのは赤ワインなのだが、女性はアルコールとは思えないペース・・・そう、まるで水のようにワインを飲み干していった。あっという間に瓶は空になり、女性は「あら?もう無いわ。バイトくーん、ワインのお代わりくださーい」と、食堂に向かって声を書けていた。
これも、見なかったことにしよう。
関わるべきではないと僕はその場を後にした。
それにしても今の女性もブリタニア人だったが、普通に日本語を話していたので、日本に長く住んでいる人かもしれない。
・・・もすごい量のワインを飲んでいたな。ラウンジを出る時に気がついたが、彼女の足元にはワインの瓶が4本ほど既に置かれていた。もちろんすべて開封済みだ。
うん。やっぱりあまり関わらないほうがいい。
さて、次は建物の周りでも見て歩こうかな。
一度部屋に戻ると僕はコートを手に取りペンションの外へ出た。



◇登場人物◇

・従業員---扇(オーナー)・?(バイト君)
・客---スザク(207)・ジノ(203)アーニャ(206)・セシル(?)



◇1Fは駐車場◇



◇2Fイメージ◇ 上が北

玄関の正面に受け付け、その後ろに事務室?
受付東側に階段と部屋
受付西側通路。奥にT字路。
T字路北側にトイレと温泉入口。
T字路南側にラウンジ(談話室)。
ラウンジ東側に食堂。その北側に厨房。



◇客室イメージ◇(3F)

 ? 200  201 ?
 ? 202  203ジノ
 ? 205  206アーニャ
 物置   階段 
スザク207  208 ?
 ? 209  210 ?
 ? 211  212 ?  



出した人数が多すぎて、私が把握しきれなくなったのも投げた理由。
確か最終的に16人ぐらいになってたはず。
あんな人やこんな人も出るんだよ。

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