クロキシ本店営業中 第1話



※注意※
この話は<王者は誰だ>の設定を引き継いでいます。
黒の騎士団幹部にゼロバレ済み。
ブリタニアはランペルージ兄妹を死んだ皇族によく似た唯の学生だと思っています。
カレンは黒の騎士団とばれた後も普通に通学しています。
スザクは保護者側に回る事はありません。
おかしな状況になっても皆が平然と受け入れるという奇妙な現象が起こっていますが、気付いているのはルルーシュとC.C.だけです。



「何だこれは」

C.C.は嘆息しながらそう呟いた。
朝・・・と言っても既に昼に近いが、目が覚めるとベッドの中には既に主は居なく、それはいつものことだから別にいいと、アジトの階段をのんびりと降りていた時、とても美味しそうな匂いが漂ってきて、誘われるまま匂いの元へやってきた。
そこは黒の騎士団アジトの食堂。
成程、誰かが食事を作っているのか。なら私にも食べさせろ。
そう思い食堂から続く厨房の扉を開くとそこには。
黒衣を纏い仮面をかぶった男が立っていた。
いや、まあそれはいい。
良くは無いが、今はそれよりも大事な事がある。
あろうことかその男は、マントを外したあの黒衣の上に、いいか、ゼロのあの衣装の上に、だ。レースたっぷりフリフリエプロンをつけているのだ!しかもピンクだぞピンク!なんだこれは。まだ私は夢の中にいるのか?どう考えても悪夢だろうこれは。
思わず呟いた私の方に全員の視線が集まった。
そう、全員の。
なぜかこの厨房には団員が多数集まっているのだ。
まるでゼロを講師のように、真剣にメモを取りながら集まっているのだ。
そして全員あのエプロンを着用しているのだ。
レースたっぷりフリフリエプロン(ピンク)をだ。
いや、これが女性団員だけなら話しは解る。
ゼロも仮面を外しているなら問題ない。むしろ似合うだろう。
女性だけなら、カレンが「エプロン、これしかないんです。ですからゼロもこれを!」とか言って着用させ「ゼロのエプロン姿!しかも少女趣味な!」とか言って鼻息荒く写真を取る姿は容易に想像できる。体育祭以降あの娘は中身よりも、ゼロコスをした姿のほうが萌えるという一風変わった娘に成長したため、仕方のないことだ。
勘違いしてはいけないのは、あくまでも中身がルルーシュのゼロにしか興味がないという点で、他の者・・・私でさえゼロコスをしたら即ばれる上に、ものすごく睨まれる。
私は影武者なのに。
まあいいんだ、そんな話は。
問題は、ここにいるのはむさい男どもが大半で、その野郎どもまで同じエプロンを身に着けているという所だ!
何て悪夢だ。しかも全員今こちらを見ている!
・・・と、思わず声をあげてからここまでの時間は約2秒。
男たちもゼロもすぐに私から視線をそらした。
動揺は悟られていないはずだ。
このC.C.様がこの程度の事で動揺しているなど、ひよっこ共に悟られるなんて失態をせずに済んで良かったと思いながら、私は壁際を移動し、この悪夢のような空間で何が行われているのかを確認した。
いい匂いの元は、コンロに掛けられている鍋やレンジ、オーブンが元のようだ。
そして・・・そこまで見て、私はようやくこの異常な空間の理由に気がついた。

「なぜ料理教室などやっているんだゼロ」

そう、これは料理教室なのだ。
良く見るとゼロはあの手袋を着けておらず、腕まくりまでしている。黒衣のせいで白く細い腕が際立って見えた。細く長い指が動き、繊細な手つきで次々と料理を作っていく。その様子を皆真剣な表情で見入り、メモを取り、時には写真も写す。見るとディートハルトがカメラで一部始終を撮影していた。

「流石ゼロ。カオスの権化。まさか料理まで・・・!」

とか。

「ああ、何て美しい手なのだ。あの手で、指で・・・」

とかなんかその顔を赤く染め鼻息荒く言う物だから、今すぐ殴り飛ばしたくなったが、撮影はゼロの指示だろうと思い至り、それは止めることにした。
あの男の声が録音されていない事を祈るばかりだ。

「以上だ。質問はあるか?」

そうゼロが口にした時には、既に全ての料理が完成し、美味しそうな料理が所狭しと並べられていた。
ほう、今日は和食か。

「ゼロ、この部分なんだが」

手を挙げた藤堂が、自分のメモを片手に手を挙げた。
って藤堂お前までいたのか。しかもそのエプロン・・・!四聖剣も全員いるじゃないか!

「ああ、ここか。ここは、こう包丁を入れるんだ」

どうやら切り方の説明らしい。
同じく気になっていたのだろう面々が、ゼロの手元を覗くため集まった。

「他には?無いようなら、完成した料理を食べてみてくれ」
「質問ならあるぞゼロ」

解散しそうな空気を感じ私は手を挙げた。

「何だC.C.。お前の分なら用意してあるが?」

ほら、そこだ。
そこには一人分の食事が御盆の上に乗っていた。

「流石ゼロ!もちろん食べるぞ!・・・いや、そうじゃない、何なんだこれは」
「見ての通り料理教室だが」

ピンクのエプロンを外しながらゼロは答えた。
他の面々は出来あがった料理を手に各々食堂のテーブルに着き「これは美味い!」「ああ、懐かしいっ!」と大絶賛である。
ああ、私も早く食べたい。

「それは解っている。なぜ料理教室を開いているのかという話だ」
「ああ、その事か」
「それ以外に何があるというんだ!」

私は思わず声を荒げた。

「落ち着けC.C.。これは黒の騎士団にとって、重要な作戦の下準備なのだ」
「作戦、だと」

私はすっと目を細めた。
黒の騎士団の団員に料理を覚えさせる。
こいつ仕込みの料理なら、多少劣るにしてもさぞ美味い物を作れるようになるだろう。つまり、料理人に扮する事が可能となる。
成程、これだけ屈強な男ども(一部女もいるが)を、何処かの厨房に潜入させ、隙をつくという作戦か。
しかもそこまで手間を掛けて下準備をするという事はまさか、皇族が立ち入る場所に仕掛けるつもりか!?
料理人が作る料理であれば薬を盛る事も・・・いやまて、入ったばかりの料理人に料理を任せるか?
無理だ。
しかも付け焼刃程度の料理では本物の料理人にすぐばれてしまうだろう。
ならば私のこの考えは最初から破たんしているという事。
・・・だめだ、解らない。
私は考えるのを諦め、このまさに魔王と呼ぶにふさわしい頭脳を持つ男に直接説明させることにした。

「どんな作戦だ?」
「C.C.。先日私が幹部に料理をふるまった事を覚えているか?」

綺麗にエプロンを畳み終えたゼロがそう尋ねてきた。
あの体育祭の後、ルルーシュはカレンに料理を教えながら、自分を救い出そうと危険を顧みず体育祭に参加した面々に手料理をふるまった事は記憶に新しい。

「覚えているさ」

むしろ印象が強すぎて忘れたくても忘れられない出来事だ。

「あの時、私は気がついたのだ」

バッと手を振り上げ、まさにゼロ、というパフォーマンスをしながら話す男に、嫌な予感しか感じなかった。
厨房で、体のラインがばっちり解る衣装と仮面。マント無し、手袋無し、腕まくりなゼロのこの格好はなんというか、間抜けだなと私は思うのだが、カレンが気付き「ゼロ!素敵です!」と素早く写真を取り「なんと指導者にふさわしいカオスに満ちたポーズ」と、ディートハルトがカメラを回しているから口に出すのは止めた。

「日本がブリタニアに蹂躙されて7年。この7年の間に日本料理は次第にその存在を薄めて行った。並ぶ店はどれもブリタニア料理の店、スーパーなどで売られる弁当でさえブリタニア風だ!そう、私は気づいたのだ。日本の料理を口にしたくても、それを提供する店が少なすぎるという事に!」

全く無いわけではない。だが、確かに少ない。
イレブンに材料を下ろすブリタニア人も少ないし、降ろすにしても馬鹿高い値段だ。
利益を上げるなら売値を上げるしかなく、そんな値段で食べにくるイレブンなどたかが知れている。
だから日本人が日本食を食べるには、基本的に自分たちで作るしかないのだが、敗戦国日本の文化を書籍や記録としてブリタニアが出す事は無い。
だから売られる料理の本は全てブリタニア料理。
親から子へ伝えられるか、同じ日本人に直接教えてもらう、あるいは記憶を頼りに作る以外作り方を知るすべは無いのだ。
まだ7年だから作れる者もいるが、これがさらに10年、20年となれば日本の食文化は忘れられていくだろう。
確かにこいつの料理は上手い。
その上、あの日作った料理の大半は完全な和食。
今ここにあるのも和食だった。
枢木の家にいた頃、土蔵の中に積み上げられた古い料理の本から得た知識を基軸に作られた物。
こいつの頭脳は化物レベルだ。
おそらくその本の中身を全て暗記している。
そして全て作れるだろう。
それも完璧に。
そこまで思い至り、私は眉を寄せた。

「まさか、お前」
「そうだ」

ゼロは仮面の中で笑った。

「先日の体育祭以降起きている奇妙な現象。これを利用しない手は無い!」

ああ、やはりそう言う事か。

「我々、黒の騎士団は、日本料理を提供する飲食店を日本各地に展開し、日本の食文化を復活させ、活動拠点と活動資金両方を手に入れるのだ!」

まさに一石二鳥・・・いや一石三鳥!!
声高に宣言された内容に、思わず呆れた視線を向けた後、私は自分用に用意されていた御盆を手に取った。
ククククク、フハハハハハと、悪者にしか聞こえない高笑いを上げる男に背を向け、成程、この奇妙な状況に完全にやけを起こしたなと理解した。
その気持ちは解らなくもない。
なにせこいつの実の兄弟が集まったあの体育祭で、顔と名前がばれたというのに、誰もこの兄妹に気づかなかったのだ。
車いすに盲目という強すぎる特徴を持つナナリーでさえ気付かれなかったのだ。
戦争で死んだ悲劇の皇族として有名な二人だぞ?その上ルルーシュは母の面影を色濃く残しているし、その瞳はロイヤルパープル。皇族の色だ。気付かれないなど、あり得ない事だった。
そして学園内では毎日毎日スザクと病弱設定を捨てたカレンが、ルルーシュをめぐり激しいバトルを繰り広げている。もちろんカレンは黒の騎士団だと知られている。
極めつけは黒の騎士団が平然と出店を出しても取り締まられるどころかブリタニア軍が受け入れている所だろう。
捕まえる気無いのかあいつらは。
正義を名乗るレジスタンスではあるが、お前たちから見ればテロリストだぞ。
指名手配もしてただろうが。
特に藤堂とか!
旧日本軍中佐で、唯一戦争でブリタニアに土をつけた奇跡の藤堂だぞ!
と、本来ならあり得ない状況なのだが、残念なことにそう思っているのは私とルルーシュだけなのだ。
私でさえ困惑しているのだから、ルルーシュは私以上だろう。
その結果がこれか。
まあいい。ルルーシュが無事ならとりあえずはいい。
私は美味しい料理でこの苛立ちを消し去ることにした。

2話