クロキシ本店営業中 第2話


政庁内のとある会議室で、エリア11総督コーネリア・リ・ブリタニアと、黒の騎士団総帥ゼロが対峙していた。
もちろんゼロはテロリストだ。
事前にアポなど取っていないし取りようがない。
当然会議の出席者でもない。
だからコーネリアの動向を調べ、今日この時間この会議室に居る事を調べ、会議中なのも無視して勝手に入り込んだのだ。
ここに来るまでは本当に大変だった。
最低限のギアスしか使わないこの男に付き合うと本当にめんどくさい。
変装し、偽造免許証を用意し、車を用意し、点検業者を装い政庁へ侵入。
もちろん事前連絡を入れているので、すんなり入れた。
そして作業をする振りをしながら、と言いたいところだが、ばれたら困るときっちり点検し、蛍光灯を変えたり、壊れている所を直しつつ、政庁で働く面々とにこやかに挨拶を交わしながら目的の場所へ近づいた。そしてトイレの点検をするふりをして、作業中の看板を立て、個室へ隠れての着替えた。
地味だ。本当に地味だった。
準備を終えると、作業を続ける団員を2人残し、ゼロ、私、カレンがこうして会議室に足を踏み入れた。

「どうやってここに来たゼロ」
「ふっ、この程度の警備。侵入など容易い」

胸を張り、堂々と宣言するゼロ。
まあ、簡単ではあったな。面倒ではあったが。
作業をする私たちに挨拶はするが、疑う気配は微塵も無かった。
チョロすぎるだろう、いくらなんでも。
だが、そんな事とはつゆ知らず、コーネリアは苦虫を噛み潰したような表情をし、ゼロを睨みつけた。

「それで、テロリストが何の用だ」
「流石コーネリア総督、話が早い。これを認めていただきたい」

ゼロはすっと手を前に差し出す。その手には一枚の紙。
コーネリアはその紙を受け取り、内容を読んで目を見開いた。眉を寄せ、怒りを滲ませた表情と、振る振ると震えるその手。
ああ、普通の反応だ。

「黒の騎士団の店をこのトウキョウ租界に出す許可をだせだと!?ふざけるな!!」

この当たり前の反応がこんなに嬉しいなんて。
私は思わず口元に笑みを乗せた。
それが挑発するように見えたらしく、ダールトンに睨まれた。
仕方ないだろう、ここ最近あまりにも異常で感覚がおかしくなりそうだったんだから。
ホントに怒ってくれて嬉しいよ。
コーネリアの怒号に思わずそんな感想を抱きながら、C.C.は表面的には冷めた視線でコーネリアと、今日の会議出席者へ視線を向けた。テロリストが店を出したいという申し出だ。皆その顔に馬鹿にするな!という表情が浮かんでいた。
私も流石にこのやり方はどうかと思うんだが、ゼロがこの現象がどこまで利用出来るか確かめてみたいんだと言うのでやらせてみた。
つまりゼロ本人も、こんな手は無理だよなと思いながらやっているのだ。
まあ、最悪私とカレンがいるから乗り切れるだろうし、ギアスもある。

「ほう?つまり我々がこのトウキョウ租界に店を出したら、客を全て取られるから、許可は出来ないと?」
「誰がそんな事を言っている!貴様はテロリストだぞ!」
「テロリストの経営する店が繁盛したら、コーネリア総督、貴女の面目丸つぶれですから、反対するのも仕方がない」
「なんだと?」
「我が黒の騎士団の経営する店に客が押し寄せるという事は、ブリタニアの店に魅力が無いという事、それはつまり、総督であるコーネリア、貴女に魅力が無い、と言う事ですからね」

いやいや、その論法はどうかと思うぞ?
総督関係無いだろう。
そう思いつつも、私は煽るような視線をコーネリアに向けた。

「私に、魅力が無いだと?」

おい、乗るなよ。

「姫様に魅力が無いなどあり得ません!姫様以上に魅力に溢れた女性がこの世にいるはずがない!」

頬を染めながら叫ぶのは当然コーネリアの騎士、ギルフォード。
そう言う告白は二人きりの時にしてくれ。
コーネリアが顔を赤くして思考を止めてしまっただろうが。
この辺は、ああ、姉弟だなと思ってしまう。

「ならば、恐れる事など無いのではありませんか?」
「愚かだな、ゼロ。テロリストが店を開いた所で、客が入るはずがない」

まともな返しが来た。私もそう思うぞコーネリア!

「来るかどうかは、開店してみなければ解らないでしょう?まあ、貴女は我々が店を開き、人気を得る事を恐れ、許可を出さないつもりのようですが」
「恐れるだと?私が貴様にか?ふん、あり得んな」

いや、ここは、そんな挑発に私が乗るとでも?とか言って流せ。

「いいや、恐れているのだ、貴女は。我々黒の騎士団を。だから戦わずにすむ方法を選ぼうとしている。逃げようとしている!」
「逃げるだと、私がか!」
「そうです。敵前逃亡をし、どうにか面目を保とうとしているのだ」

ククククク、と仮面の下で笑いながら、ゼロは挑発を続けた。
いや、本来なら挑発にもならない言葉なのだが、しっかりコーネリアには効いているようだった。
本当かよ。

「ふざけるな!いいだろう、貴様が指定したこの場所に、黒の騎士団の店を立てる事を許可してやろう!」

駄目だろう許可を出したら。お前総督なんだろう。安い挑発に乗るな。正気に戻れ。

「姫様、しかし!」
「ダールトン、ここまで馬鹿にされて引き下がれというのか!」
「・・・そうですね、仕方ありませんそのように手配をしましょう」

おい待てダールトン。お前が止めなきゃ誰が止めるんだ。

「所詮テロリスト、犯罪者の経営する店です。すぐに客が飛び、潰れるでしょう」

ギルフォード、お前もか。

「内容も全て飲んでいただけるという事でよろしいですね?こちらが順調だからと、税率を上げ、立ち退きを要求することは?新たな店舗を立ち上げる際に不当な要求を出す事は?」
「くどいぞゼロ!他のブリタニア人が経営する店舗と同じ条件で全て許可してやる!」

コーネリアは、すぐさまその用紙にサインをした。

「ありがとうございます、コーネリア総督」

そう言うと、ゼロはばさりとマントをなびかせ、会議室を後にした。
その数分後、正気を取り戻したのか、ゼロを捕まえろという命令が下ったらしく、慌ただしく軍人が建物内を駆け巡ったが、私たちは作業中にしていたトイレにすぐ駆け込み、作業員の服に着替え終えていたので素通りされた。
ここに来るまでしっかりと作業をしていたため、その後も怪しまれる事無く、ゼロはどこだと探す軍人の横で黙々と作業を続けた。
地味だ。ホントに地味だこれ。
そう思いながらも、無事に政庁を後にし、見事トウキョウ疎開の一等地に店を出店する許可を得ることに成功したのだった。

・・・いいのかホントに。

その夜、美味しい晩御飯を口にしながら、C.C.は眉を寄せ、まさかこんなに簡単に成功すると思わなかったルルーシュは、苦虫を噛み潰したような顔でお茶を啜っていた。

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