学ビノ園 第19話


まだ皇子だった頃のルルーシュは、それはそれは愛らしい子供だった。
ふわふわとした笑顔に、女の子と見間違うような愛らしい容姿。
人見知りが激しく、マリアンヌ后妃の後ろに隠れている姿は庇護欲をそそり、物覚えもよく、素直で、なにより優しさに溢れていたが、妹が生まれてからはお兄ちゃんとしてけなげに頑張っていた。
皇妃たちにはヴィ家の人間は嫌われていたが、その子供たちはそんなルルーシュにあっさりと落とされており、目に入れても痛くは無いというほどに愛でていたのだ。頭のいいルルーシュに物を覚えさせるのも楽しく、シュナイゼルなどはよく暇を見つけてはチェスをしに行っていたし、クロヴィスもチェスをしたり、ルルーシュの絵を描いたりとアリエスにはよく来ていた。コーネリアの最優先はユフィだったが、その次にいたのがルルーシュで、もう少し成長したら自分が体を鍛えてやろうと意気込んでいたものだ。
そんな風に兄が愛されていることが、ナナリーは面白くなかった。
自分も見て!愛して!と言う意味で面白くないのではなく、私のお兄様を取らないで!私とお兄様の時間を邪魔しないで!と言う意味で面白くなかったのだ。
つまり、ナナリーにとって他の兄弟など邪魔者でしかなかった。
ナナリーの独占欲からくる敵意を他の兄弟はよく知っていた。他の兄弟から見れば、母親が同じというだけで四六時中ルルーシュと一緒にいられるナナリーが目障りだった。
だから今回の件でもルルーシュの元へ皇族兄弟はやってきたが、ナナリーの元へはやってこなかったのだ。
幸か不幸か、ルルーシュは自分に向けられるマリアンヌとナナリー、スザクの愛情以外にはとことん鈍く、自分が愛されていた自覚は全くない。もちろんそれもナナリーはすべて知っている。

「想像してみてください、スザクさん。もしお兄様が私が生贄として他国に送られたと知ったら、どうすると思いますか?」

にっこり笑顔で言ったナナリーの言葉は、とてつもない爆弾だった。
ナナリーを溺愛し、ナナリーがいなければ生きていけないと断言しそうなルルーシュが、ナナリーを粗雑に扱われていた事を知れば・・・「ブリタニアをぶっ壊す」と言った幼い頃のルルーシュをふと思い出してしまった。
間違いなく、その元凶に牙を剥くだろう。
持てる全ての力を使い、その元凶を消し去るはずだ。
ナナリーはミレイと共にその状況を、あっさりと作り出したのだ。



「・・・なんだ、これは」

ようやく起きてきたルルーシュは、ニュース番組を見ながらそう呟いた。
俺はまだ頭が寝ているのか、まだ夢の中なのか?そんな顔をしているから、スザクは首を緩く振った。

「これが現実なんだよルルーシュ」

信じたくないよね。と、スザクは言った。
ナナリーとしては予定調和。当然の結果なので静かにアナウンサーの言葉に耳を傾けていた。

『なお、このクーデターにより、侵略戦争を推し進めていた先帝シャルル・ジ・ブリタニアは生涯幽閉となり、代理皇帝としてオデュッセウス・ウ・ブリタニア殿下が・・・』

ブラコン兄弟はたった1日で、正確にはルルーシュは寝ている間にクーデターを起こし、ルルーシュを粗雑に扱い、死を偽装してまで逃げた原因であるシャルルから皇帝の座を奪い取っていた。ルルーシュがナナリーと共に死を偽装した理由は、死んでこいと日本へ送った父シャルルが原因で、生きているとわかればまた政治の道具にされると思って言るからに他ならない。ならば、身の安全が確保されれば、ルルーシュは姿を現すと考えたのだ。
宰相を筆頭にブリタニア兄弟はかなりの権力を持っていた。皇族であるというだけで、重要なポストを任されていたものもいる。だから全員が一丸となってクーデターを起こしてしまえば、流石にシャルルと言えども押さえきることなど出来なかった。
その際に、兄を名乗る謎の子供も捕縛され、C.C.→咲世子→ミレイと伝わった情報が、またうっかりと漏れてしまい、そこから得た情報で、C.C.と同種だと知ったクロヴィスがさっさと確保していた。
皇帝とV.V.が動けなくなったことで、秘密の研究施設であるギアス響団に資金が流れなくなり、C.C.が響団の事を思い出し調べに行った時には資金不足からの食糧不足も相まって空中分解しかけていた。そのためルルーシュのギアスだけであっさり制圧し、解散させた。この結果、皇帝の野望であるラグナレクの接続は誰にも気付かれること無く終わりを告げる。
クロヴィスの不死の研究も、元をただせば「ルルーシュを見つけたとしても、また何かに巻き込まれて死んでしまうかもしれない。そんな不安など抱えて生きてはいけない」というブラコン脳が、ならばルルーシュを不老不死にすればいいじゃないかという結論をはじき出した結果なのだとか。恐るべしブラコン。

『オデュッセウス代理皇帝を始めとする、上位の皇位継承権を持つ皇族が集まり、次期皇を決定した模様です』

そのアナウンサーの声に、ルルーシュは俯いていた顔をあげた。
順当にいけばこのままオデュッセウスが皇帝だろうが、能力的にシュナイゼルが皇帝となる可能性もある。どちらにせよ侵略戦争は終わるだろうと、投げやりな感情で聞いていたのだが。

『第99代皇帝には、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下が即位される事が決定いたしました』
「はあ!?」
「え!?」

突然のルルーシュの指名で、ルルーシュとスザクは思わず驚きの声をあげた。今だ鬼籍に入っているはずの人物、しかも現在失踪中の人間を皇帝に?どんな罠だ?何を考えている!?と、ルルーシュはあらゆる状況を考えてみたのだが、まさかこれが超ブラコン兄弟によるルルーシュ愛の結果だとは思い至らなかったようだ。
スザクに至っては「うわあ、怖いなブリタニア兄弟・・・」と、ルルーシュを嫁にした時の事を考えて遠い目をしていた。
何せラウンズすら役立たずの状態にしたブラコン達だ。最愛のルルーシュを奪われると解れば、間違いなく攻撃を仕掛けてくるだろう。

「お兄様を皇帝とすれば、お兄様は皇宮にいることになりますから、皆さんもお会いしやすくなりますから、仕方ありませんね」

まるで想定通りだとでも言いたげにナナリーはつぶやいた。
このまま姿を消されるよりも、皇帝と言う最高位の地位をルルーシュに与え、そこから動けなくし、全員で愛でるという方向でまとまる可能性は非常に高かったのだ。
ルルーシュに褒められるために、きっとブリタニア兄弟は全力で働くだろう。
その姿を想像し、思わずナナリーはほくそ笑んだ。

「な、ななりー?」

冷静すぎる妹に、ルルーシュは恐る恐る声をかけた。

「お兄様、お兄様が皇帝になっても、私はお傍にいてもいいですか?」

断られるとは全く思っていない、満面の笑みでナナリーは尋ねた。

「え?ああ、お前と離れる事は考えていないが・・・」
「では咲世子さん、ミレイさんに連絡を取って、御迎えを」
「畏まりました」

咲世子は一礼すると、さっと携帯電話を取りだした。

「は?まて咲世子!ナナリー、どういう事だ!?」
「お兄様、お願いがあります」

僅かに動揺していたルルーシュは、ピタリと口を閉ざした。
ナナリーのお願い。
ルルーシュの思考は今全てがそこに注がれていた。

「お父様は失脚いたしました。これからはお兄様が皇帝となって、優しい世界を作ってください」

にっこり笑顔で言うナナリーのお願いへの返事は一つしかない。

「もちろんだとも、ナナリーが望む優しい世界を俺が作ろう」
「ええ!?ちょっとルルーシュ!君、チョロすぎないか!?」
「ええい煩い!あの憎むべき男が荒らした世界を、俺がナナリーの望む世界に作り替えてくれる!!」

そのためには皇帝と言う地位はまさにうってつけじゃないか!
ナナリーが俺に皇帝となって優しい世界をプレゼントしてくれと言ったんだぞナナリーが!!俺なら出来ると思っているんだナナリーは!この期待に答えてこそ兄!!
今までの鬱積した感情など完全に吹き飛んで、ルルーシュの思考はナナリー1色に染まった。これがブリタニア皇族が標準装備している兄弟愛なのかと、スザクは思わず顔をひきつらせた。
このレベルの人間が2ケタを超えているのだから、それはどうあがいても勝てなかっただろう。シャルル前皇帝はよくもまあこんな恐ろしい子供たちをポンポンと世の中に生み出してくれたものだ。
・・・ルルーシュという素敵なお嫁さんを生み出したことだけは、地にひれ伏して・・・いや、五体投地でお礼を言いたいが。

「流石ですお兄様!私もお手伝いいたします!」

ナナリーにまんまと乗せられたルルーシュは、あっさりと99代皇帝となった。
若き賢帝の元、侵略戦争は終わりを告げ、各エリアは開放された。 ブリタニアの悪習を根絶させると、貴族制度にもメスを入れ、反対に医療福祉関係を手厚くするなど、ナナリーの望む優しい世界づくりは進められていき、わずか数年で世界の模範となるべき国へと生まれ変わった。

その後のクロヴィスの研究でコードを継承させられたり、毎日毎日ブリタニア兄弟に追い回され、スザクとブリタニア兄妹の確執に頭を悩ませたりと、散々な目に会うのだが、それはまた別のお話。





*********

当初の予定では暴走シュナイゼルが教師としてルルーシュをかまい倒し、セクハラもし放題な馬鹿話になると思ってたんですけどね。
シュナイゼルVSスザク&C.C.&ナナリーとかなると思ってたんですけどね。
いやもう、何だろうねこれ。
もう、書いている間ずっと「何だこれ?」としか考えられない流れだったので、どうせだからルルーシュにも同じ気持ちになってもらいました。
学園でのカオス状況にも「何だこれ?」となって、とりあえず逃走。そして完全蚊帳の外状態になり、ひと眠りして起きたらクーデターで「なんだこれ?」状態で、流されるまま皇帝に。
ホントなんだろうね。何でこんな話かいたんだろうね私。

18話