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「ロイド、お前に聞きたい事がある」 「なんですかC.C.、僕、忙しいんですけど?」 なにせ大事な大事なランスロットがボロボロになって戻ってきたのだ。あちこち切り落とされた状態でも動いたのだからさすが僕のランスロットだと、今後の改良にも十分すぎるほどのデータを残してくれたと口では言うが、やはりショックは大きかった。泣く泣く分解し、もうバイクとして使用は出来なくなるが、置物として保管しようと涙ぐましい努力をしている所だった。 嚮団地下施設から開発中だった新しいランスロットもガウェインも運び出せたからいらないだろうそれ?と思うのだが。 セシルはロイドのランスロットに対する執着を嫌というほど知っているので、彼の気が済むようにさせたいと微笑みながら作業を手伝っている。 「枢木スザクの事だ」 「スザク君の?」 「あれは、人間なのか?」 C.C.の問いに、ロイドとセシルは手を止めた。 「・・・何が言いたいんですか?」 不思議そうな顔で、ロイドは聞いた。 「記憶が飛んでいる間の枢木の言動が、スザクに似ていたそうだ」 私は見ていないが。 「ああ、今回は俺スザクだったんですね」 そう言えば、その辺確認してなかったなぁと、ロイドは言った。 「・・・どういう意味だ?」 「いえ、一人称の話ですよ。それで?スザク君とスザク君が似ていたから、なんなんですか?」 ロイドとセシルは、どちらもスザクと呼び、区別しないので紛らわしいなと、C.C.は眉を寄せた。 「もし、スザクが人間ではなかったなら」 「スザク君が、スザク君かも知っれないと?」 C.C.は無言のまま頷いた。 ロイドとセシルは、スザクのメディカルチェックも行っている。 人か、魔か。 この二人なら答えを持っているのだ。 あのスザクとこのスザクが同じものかどうか。 「今思えば、私はスザクの死を確認していない」 「そうなんですか?」 散々死んだと言っていたのに? 「頭を撃たれれば人は死ぬ。その思い込みから確認はしなかった」 そう言いながら、人差し指でスザクが打ち抜かれた部位を指で抑える。 そう、ここを撃ち抜かれていたのだ。 人なら死ぬ。 だが、もし魔に属するものならば? 自分たちのような不死に近い再生能力があるならば? そして、記憶障害。 脳を損傷した事が原因と考えれば納得できる。 私たちと過ごしたあの頃の記憶を全て失った状態ならば、枢木スザクが魔物の友人はいなかったという言葉も嘘ではなく、枢木スザクにとっては真実となる。過去にそうだったと教えるものがいなければ、知りようもない。そう、脳に損傷を負ったときに記憶を欠損した可能性がある。あるいは、別の要因で忘れているか。 「まあ、人間はそれで死にますからねぇ」 頭を撃たれ、大量の出血をしていて、しかもピクリとも動かないのなら、死を疑う事は無い。だから、確認しない事は何もおかしくは無い。 そして、実際には心臓も止まり、呼吸もしていなかった。 C.C.は知らないことだが、その状態をロイドとセシルは確認している。 「そして、私はスザクの死体が今どこにあるか知らない」 「調べたんですか?」 「いや、調べてもいない。もしかしたら、枢木の墓の下かもしれない」 「普通、死んだらお墓に埋めますよねぇ」 あの混乱した戦場からスザクを持ち帰り、ナナリーの屋敷の傍に墓を作った時の事を思い出す。本当なら人間界に残すべきだったが、あのままではどのような扱いをされたかもわからない。なによりルルーシュの大切な親友だった。だからいつか、ルルーシュが彼の墓を探した時に、ここにありますよ?と教えるつもりでいたのだ。 彼の大切なナナリーの傍なら、きっとルルーシュも喜ぶだろうと。 「だが、普通では無かったら、埋められる事は無い」 「まあ、生きていたら大変なことになりますからねぇ」 本人の記憶は撃たれた時に途切れる。 目を覚ましたら自分は土の下。 一緒にいた幼いルルーシュは戦いには不向きだから、出る結論は一つだけ。 どれほど絶望し、どれほどの憎しみを抱くか。 正直者で、優しくて、明るくて、まっすぐで、明るい笑顔の似合うスザクはまるで太陽のような少年だった。 その彼が、全てに絶望しその心を闇に染め上げる。 自分たちを裏切り、優しい世界を壊した人間を恨むだろう。 何より、自分が生きていることも呪うだろう。 「それで?答えは何だ?」 「それを聞いてどうするんですか?もし人間なら寿命は100年程度。スザク君が仮に、一度死んだ後に何らかの方法で蘇生した人間だった場合、今17歳ですからあと80年ほどで寿命は尽きますけど、魔族だった場合は種属にもよりますが数百年は軽く生きますよねぇ。それを知った後の貴方が、彼をどう扱うのか興味があるので、先に教えてくれませんか?」 「お前が、興味をだと?人の感情にか?」 「L.L.様に絡んだ事ですし、その内容によって貴方の態度が変わったりしたら、それこそスザク君に良くありませんからね。彼の記憶の回復、結構大変なんですよ?」 今回も確実にどこか欠損している。 100%の回復を目指すが、それには精神的な安定が何より大事なのだ。 大事なランスロットのデバイサー。 パーツの管理と整備は製作者の管轄なのだから。 「結論による」 「ならお答えできませんねぇ。今の彼には出来るだけ負荷はかけたくないんですよ、ランスロットのためにもね。まあ、あと10年ほど待てば答えは出るでしょ?人なら老いるし、魔なら今と変わらずですからねぇ」 全てを見透かしたようなロイドの目から顔をそむけ、C.C.は舌打ちそした後L.L.のいる部屋へと戻って行った。 「・・・ロイドさん」 教えてもいいのでは?とセシルは言った。 あの二人が、スザクが人間かどうか疑っていることは気づいていた。 イエスかノーで終わることだし、隠す事でもないと思うのだが。 「ん~いいんだよ、これで。下手に教えてまたC.C.がL.L.様を連れてと雲隠れしても困るからねぇ」 軽く答えたロイドの目は真剣そのものだった。 セシルは気づいていないが、結論を口にできない理由がある。 C.C.は、記憶が不安定で性格も変わるスザクに警戒心を抱いた。人間ならば、その寿命が尽きるまでL.L.と共に姿を消すだろう。魔族なら、記憶の混濁で敵に回りかねない危険因子となりかねないスザクを本気で潰す可能性がある。 どちらに転んでもいい結果にはならない。 だからこそ、今は答えられない。 「それは困りますね。ところで、スザク君の記憶ですが」 「まあ、今回は死ぬほどの怪我だったから仕方がないよ。こういう事でもない限り、もう記憶が消える事は無いと思うけどねぇ」 まあもし記憶が全部消えても、今回のように首輪がちゃんと作用してくれれば、バックアップはできる。9割ほどの回復であれば後からどうにでも出来るけどさ。 「そうですね。ロイドさん、私は席をはずしますがよろしいですか?」 「え?どうしたの急に」 「スザク君が目を覚ましたから、C.C.さんが来たんですよね?やっと起きたのだから、今日は美味しいご飯を沢山食べてもらわないと。精のつく物をたくさん食べて、早く回復してもらおうと、材料、沢山買ってきたんです」 ロイドは顔面蒼白となり、手に持っていたレンチを落とした。 |