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「えーと、その、僕・・・」 目を覚ましたスザクは、あれ?ここどこ?なんでここにいるの?という顔であたりを見回した。見知らぬ部屋の見知らぬベッド。C.C.がそのベッドの端に腰掛け、L.L.は枕元に立ってた。 「僕、か」 C.C.は確認するように呟いた。 あれから1週間眠り続けたスザクは、精密検査の結果、脳にも身体にも異常なしというお墨付きをもらい、開いた腹の傷だけは処置が必要だからと寝ている間に再手術をしていた。だが、先も言ったように本人は爆睡していたため、自分は教団地下にいたはずなのに、見知らぬ場所で目を覚ましたと完全に困惑してた。 「枢木、俺がわかるか?」 「え?当たり前だろL.L.」 君のことがわからなくなるなんて、そんなことあるわけないじゃないか。 スザクは心底不思議そうな顔をしてL.L.を見た。 「そうか、ちゃんと思い出したな」 よしよし、偉いぞと、まるで子犬を褒めるように頭をなでた。 え?なんで?どうして撫でられているの!?とスザクは混乱を隠せない表情であたりを見回した。 「だが、大丈夫なのか?記憶がなかったからギアスを無効化していたのだろう?記憶が戻れば、こいつはまたシュナイゼルの傀儡だぞ?」 C.C.は、不安要素がこれで増えたと肩を落とした。 だが、その表情はどこか嬉しそうに見える。 「え?シュナイゼルさんの・・・なに?」 「か い ら い。操り人形だと言ったんだ」 馬鹿だなお前はと、C.C.は呆れたように言った。 「なにそれ? 冗談でも笑えないんだけど!?」 「お前、シュナイゼルがL.L.を連れてこいと言えば連れていくじゃないか」 呆れたように言うC.C.を、スザクは不愉快気に口元を歪め睨んだ。 「連れて行くわけないだろ。L.L.がいるのは教えるのも駄目だって言ってたじゃないか。シュナイゼルさんは危険だからって」 そこまで信用ないのかな!?と、若干怒っているようだった。 「覚えてたのか?」 「君、僕を馬鹿にしてるだろ」 「いや、褒めているんだよ」 「どこがだよ」 ギアスで操られている間の記憶は残らない。 C.C.はその事をよく知っているはずなのに、なぜこんな意味のないやり取りをしているのかはわからないが、目が覚めた途端喧嘩を始めるんだから、それだけ元気だということだなと、L.L.は安堵の息を吐いた。 「記憶自体は操作されていないようだが、こうして全て覚えていても、その場になったら結局頭から消えるんだろう?どうするんだL.L.、枢木に後ろから刺されるぞ」 スザクは重要な戦力だが、いつ敵になるかわからない。 「お前はさっきから何を言っているんだ?ジェレミアが今朝までいただろう」 とっくに解除済みだ。不安を煽るな。 「ああ、もうやったのか。ならいい」 それならそうといえ。 「え?え?なに?なんなの!?」 「何でもない。シュナイゼルの裏切りで、俺達ここに逃げてきただけだ」 「え?裏切り!?なにされたの!?」 「俺は何も。されたのは、お前だ」 「そうだな、お前はあの男に穴を・・・いや、なんでもない」 クスクスといたずらっ子の笑みを浮かべながらC.C.は言った。 「穴!?穴って何!?僕何されたの!?え?まさか、いや、そんなことないね??L.L.何があったの!?」 「いや、その、お前はシュナイゼルに」 「いや待って、君の口からは聞きたくない!ショックが大きすぎるから!!」 「え?そ、そうか?」 自分が倒れ伏した姿を見られたのが、そんなに恥ずかしいんだろうか? よく解らないが、嫌だと言うなら他の誰かに聞けばいいだろう。 腹に開いた穴は、もう手当済みなのだし。 そんなやり取りを見てC.C.は、くははははと笑っていた。 「それで、ここどこ?」 とりあえず、話をそらそうとスザクは質問をした。 「魔女の家だ」 L.L.の答えに、スザクは首を傾げた 「魔女の?」 「私の家だよ。魔女の森の奥にある。前にこの家の前で倒れた事があっただろう」 「あ、あの家か。で、何で僕ここに?シュナイゼルさんが裏切ったって何の話?」 その現場に居合わせ、その後も大立ち回りをやらかしたというのに、完全に記憶から抜け落ちているスザクに、さてどこから話した物かと、L.L.とC.C.は顔を見合わせた。 「・・・むしろ、お前はどこまで覚えているんだ?」 「覚えて?昨日のこと?たしか、L.L.と二人で・・・あれ?なにしてたんだっけ?」 「軽食を用意しようとした話か?」 「ああ、そうそう」 それは、教団が攻撃を仕掛けてくる前の話だった。 昼食が遅かったため、夕食は軽い物を用意し、今日は夜食も作ろうと考え、手伝うというスザクを連れキッチンにいた。そろそろ完成だという頃に襲撃され、スザクと二人でキッチンよりも安全な第一格納庫へと移動したのだが。 「そんな前なのか。教団の連中に奇襲をかけられたことは覚えてないのか」 L.L.は精々撃たれた前後の記憶と、記憶が混濁し一人称が俺になっている間だけだと思ったが、それより前の数時間分ごっそり抜け落ちている。 となると、イチから説明をすることになるのか。 「う~ん?君たちの話聞いてるとさ、また僕の記憶が飛んだってことなのかな?」 ホント困るよねこういうの。 首を傾げながら軽く言うスザクにL.L.は軽いめまいを覚えた。 「また?お前、なぜそう平然としていられるんだ?何とも思わないのか?」 俺なら、失った記憶を、知識を知りたいと、あの手この手で調べようとするのに、お前は困るよね。程度なのか!? 「記憶が飛ぶの、初めてじゃないから」 「ロイドもそんなことを言っていたな・・・その話をしてくれないか?」 「話すことなんてないよ?記憶が飛んじゃうとしか言いようがないし」 あの村でもそうだった。 気が付いたら、シュナイゼル達に保護されていた。その後も何回か飛んでるし、その前にも飛んでる。いつから記憶が不安定になったのかは覚えてないけど、昔はこうじゃなかったと思う。 「なあ枢木、お前は子供の頃の記憶が無いんじゃないのか?」 「え?」 「L.L.お前・・・」 何を聞きたいのか、すぐに理解したC.C.は、L.L.を見上げながら言った。 「今のお前の記憶は、シュナイゼルと出会ってからの記憶だけなんじゃないのか?それ以前の記憶は無いんじゃないか?」 もしそうだとすれば。 何らかの方法で、あのスザクが生きていた可能性がでてくる。 自分たちを忘れているのは、記憶が失われているからなのではないだろうか。だって、あまりにも似過ぎているのだ。姿形だけではなく、一人称が俺だったのも、喋り方も全てあの頃のスザクそのままだった。 「流石に子供の頃の記憶は部分的にしか覚えてないかな。あ、でも、シュナイゼルさんと会う前の記憶は一時的に無くしただけで、1ヶ月ぐらいでほとんど思い出したよ?」 細かいことや、頭に血が上りキレている時の事は流石に忘れてしまったが、あの村でどう生きていたのかはなんとなく思い出している。うろ覚えだけど。記憶が飛ぶかどうかは別として、子供の頃の記憶など曖昧にしか覚えていないものだ。 「・・・そうなのか?」 「なんか僕、頭に血が昇ったりすると、記憶が飛びやすいみたいなんだよね。だから、これをロイドさんが着けたんだよ」 乱暴者になるって言うし、危ないからね。そう言ってスザクは首元を見せた。 「そのチョーカー、ロイドが作ったのか」 ずっと着けているから気になっていたが、お洒落ではなく装置だったのか。 「僕の頭に血が上りそうになったときとか、これが自動的に押さえてくれるらしいよ?僕もよく知らないけど。まあ今回は役に立たなかったみたいだけどね」 「・・・では、子供の頃に俺と知り合った可能性は無いのか?」 そこまでいわれて、スザクはようやく気付いた。 既に亡くなった親友スザクなのではないかと思われているのだ。 「・・・前にも言ったけど、僕に君のような外国人の友達はいなかったよ」 ルルーシュやC.C.と昔知り合っていたなら覚えているはずだ。 知り合ったのは日本だと言っていた。日本にいた頃はまだ記憶が飛んだりしていなかったはずだし、友達は全員日本人だったはずだ。 「・・・そうか、そうだな。お前は、人間だもんな」 「君の親友のスザクも人間なんだろ?」 「ああ。だが、生きてたとしたら、もう100を超えた老人だ」 「僕まだ17歳だよ」 「そうだったな」 心の底から残念だと、見てわかるほど気落ちしているL.L.の姿に、スザクは眉尻を下げた。自分がもしそのスザクなら、彼の事を忘れたりはしないだろう。だが、こんなに印象強い人のことなど自分は覚えていない。 もし自分がそのスザクだったなら、どれほど良かっただろう。 それぞれの思いを胸に落ち込んでいる二人を見つめながら、魔女は黄金の瞳をスッと細めた。 |