オオカミの呼ぶ声2

第 26 話


スザクの機嫌はそこそこ直ったようにも見えるし、根深く残っているようにも見える。こんな小さな子供に・・・数百年生きても精神年齢は外見通りのカミサマに、何をどう吹き込んだのだろう?十中八九犯人は玉城だろうな。となれば直接俺が聞き出すよりもナオトに任せたほうがいい。カレンは帰宅したらすぐにナオトに話をするだろう。なら、明日頃合いを見て電話をしよう。

「でも、ほんとにどうするのルルーシュは」

カレンが急に話を振って来た。

「何が?」
「進路よ進路。話、聞いてなかったの?」

呆れたようにいわれ、そういえばそんな話をしていたなと思いだす。
桐原はここに大学を建設すると意気込んでいたが、それは止めた。こんな人口の少ない田舎に、小中高が揃っているだけでも恵まれているのに、スザクのためだけに大学まで・・・。
スザクに教育をというが、高校までが限界だ。学力がというより、まわりの生徒の年齢が高くなる方が問題なのだ。小学生なら問題ない。中学生になると多少悪知恵が働くようになるが、まだやることが幼い。高校からどれだけ面倒になったか。スザクとカレンは誰よりも実感しているだろう。大学だとどうなるか考えたくもない。
それに、いま学校が盛況なのはスザクがいるからに他ならない。ルルーシュとカレンが大学を卒業した後も、スザクが一人で学校に通ってくれるならいいが、そうはならないだろう。
あくまでも、ルルーシュとカレンが通っているからスザクも通うのだ。スザクという客寄せがいなくなれば、こんな田舎の学校、あっという間にすたれる。小中高もそうだが今後生徒数を確保するための策はあるのかあの狸爺に何度か聞いたが、のらりくらりとかわされ残念ながら回答を得られなかった。

そもそも、カレンの学力ならこんな田舎にされる間に合せの大学ではなく、もっと上の有名な大学を目指せるし、俺も学ぶのであればレベルの低い場所に行くつもりはない。さらに入りたい学部や学科のある大学となると、必然的にこの地を離れて一人暮らしをする事になる。
カレンがこの話を切り出した途端、スザクの狼の耳は伏せられ、顔を俯けてしまった。この地に縛られている土地神のスザクはルルーシュとカレンを追ってここを離れる事は出来ない。
桐原の話では、大神になっていればある程度融通がきくし、遠く離れた土地にいても楔としての役目も果たせるそうだ。カグヤがここをはじめとする日本各地に出没するのは、彼女が大神だからに他ならない。彼女の従属である桐原が、主から離れた場所で自由きままに動けるのも、それが理由なのだとか。彼女の兄であるスザクも大神になれる力があるらしいのだが、スザクは今のままでいいとその話を数百年突っぱね続けていたから、今もここから、この地から離れられない。
ここを離れるという考えが今までなかったのだから仕方がないが、大神になれば神格だけではなく身体能力も格段に上昇するというし、なっておこうと思わなかったのだろうか。

「あんた、どこの大学行くつもり?」
「別に、俺は大学に行かなくてもいいんだが」
「何言ってるのよ、勿体ない!」

あんたは頭がいいんだから、ちゃんといい大学に行け!と、カレンはわが事のように怒った。だが、別にどこかの企業に就職するつもりはないから、有名大学卒という経歴は大事じゃない。そもそも、できるだけ早くナナリーを呼ぼうと考えているのに、自分がここを離れていては本末転倒じゃないか。
俺の返答にスザクの耳が嬉しそうに揺れた。
どうやらスザクも俺がここを離れると思っていたらしい。
仕事に関しては今はインターネットを使いこの地でやれることはいくらでも思いつく。・・・仕事か。今後のことを含め切原とカグヤにはすべて打ち明けて協力してもらうことにはなるが、まだその時ではない。

「そういうカレンはどうするんだ?」

スザクの耳がピクリと動いた。

「わたし?大学に行くわよ。遠いから一人暮らししなきゃいけないのがめんどくさいのよね」
「・・・カレンは、ここを出ていくのか」

ものすごく落ち込んだ声で、スザクが聞いた。

「仕方ないわよ、さすがにここからじゃ遠いもの」
「なんだ、もう行く大学を決めてるのか」
「まあね。ここに行こうと思ってるの」

カレンがカバンから取り出したのは大学のパンフレット。カレンには夢があり、もうしっかりとその目的に向かって色々と考えているのだと、感心した。だがそれは同時にカレンがいなくなるということ。ここでの働き口など多くはないから、若者はここから都会に移り住んでしまう。
でもカレンの家は農家だから、ナオトが家を継ぐにしても、カレンもここに残るのだと思い込んでいたが・・・そうはならないらしい。カレンはきっとナナリーとも仲良くなると思ったのだがと、残念に思ったのは一瞬で。
パンフレットをパラパラとめくって気がついた。

「・・・ああ、成程な。いいアイディアだ」
「でしょ?だから、あんたも一緒に行かない?」

なるほど、この選択肢は考えていなかったとルルーシュは言った。

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