ぼくのヒーロー 第1話 おはようございました |
黒の騎士団のアジトのトレーラーにあるゼロの私室で目を覚ましたC.C.は、驚きのあまり固まっていた。 後にC.C.はあんなに驚いたのは、数百年魔女として生きて初めてだったと語った。 そのぐらい、C.C.は驚いていたのだ。 落ち着け、まずは落ち着くんだ私。深呼吸をするんだ。すーはーすーはー。よし。 確か昨夜は会議で遅くなったから、ルルーシュと共にこの部屋で休むことになり、いつも通り一緒にベッドに横になった。 私専用の抱き枕である男を抱きしめながら、いつも通り目を閉じ、眠りについたはずだ。うん、そこまでは何も問題は無いな。 ならば、これはなんだろう? 目を覚ました時、抱き枕が居なくなっており、もう起きたのか、と身を起こした。 私の動きに合わせてタオルケットが捲れ、あの男が寝ていた場所が露わになった。 そこには、あの男が寝る前に来ていた衣服が、寝ていた形のままそこにあった。 問題はそれだけではなく、その服の中で、何やらぞもぞと動く物体がいるのだ。 私はそこで固まった。 想像してみろ。 そこには間違いなく、誰かが横になっていたであろう形で服が置かれているんだ。 これが他の相手なら、私を脅かせるために衣服を置き、中に猫でも仕込んだかと思う事も出来るのだが。 いや、猫にしては大きいから犬だな犬。いや、そう言う話ではなくてだ。 残念ながら、この持ち主は、その手の悪戯を絶対にやらないと断言できる男。 そしてこの部屋は、私とその男以外、自由に出入りの出来ない部屋で。 長年生きてきた私でさえ混乱するこの状況で、何が何やらわからず、私はただそれを呆然と眺めていると、その服の中から何やらぴょこりと飛び出してきた。 その姿に、緊張と恐怖が一瞬で消え去った。 それは柔らかそうな艶やかな黒髪と紫玉の瞳を持つ、可愛らしい幼児だった。 何だこれ、可愛い、可愛いぞ?この愛らしさ、まさか天使か?神がいるのだから、天使が居てもおかしくは無い。いやまて私落ち着け、この色とこの面影は。 もぞもぞと洋服から這い出してきたその幼児は、眠そうに目をこすりながら、小さく欠伸をし、呆然と見降ろす私をその視界に入れた。そして。 「しぃつー、おはよう」 舌ったらずな口調で、幼児はそう私に言ったのだった。 アジトのトレーラーの1階に降りると、そこは騒然としていた。 真っ先に飛び込んできたのは、大きな怒鳴り声。 その不穏な内容に、私は階段を下りる足を止めた。 「何なんだよこれは!何がどうなってんだよ!」 「僕達が知るわけないだろ!?玉城の方が解るんじゃないのか?昨日遅くまで一緒だったんだろ!?」 騒いでいるのは玉城と朝比奈。 完全にパニックを起こしている、と言った様子だった。そして。 「うわああああ~~~~ん」 「ママ~~~」 「おか~しゃ~ん、おに~ちゃ~ん」 そして、あちらこちらで泣きわめく幼児の声が響き渡っていた。 一人二人ではない。これは悪夢か。悪夢なのか? と言う事はさっきのあれも悪夢?いや、あの可愛さが悪夢であるはずがない。 私は先程まで一緒に居た天使を思い出し、一度深呼吸をし気分を落ち着けた。 音をたてずに階段に座り込み、膝を抱えながら、とりあえず様子を覗う。 「え~と、このもじゃもじゃ頭は扇か?ほら、飴玉やるから。な?もう泣くな、男だろう?」 「ほらほら、いい子だから泣きやめ紅月」 「南か、これは。そこに居るのはディートハルトか。ではこれは誰だ?」 呆然としながらも状況打開に努めているのは卜部と千葉と仙波。 慣れない子供の世話に、どうしていいのか解らない様子だった。 厳つい格好の軍人が子供をあやす姿はかなり怖いな。何処の人攫い集団だお前ら。 「何があったかは解らないが、これは騎士団の人間と見て間違いないだろうな」 「そ~ねぇ。これで唯のそっくりさん、だったら反対に驚きよぉ」 腕を組み、何やら難しそうな顔で話をしているのは藤堂とラクシャータ。 やはりそうか、いや、理解ってはいたが。私は頭を抱えたくなった。 つまり、昨日ダウンして、そのままこのソファーで寝ていた連中も幼児化しているのだ。 いやまて、なぜそこに女のカレンと井上が混じってる?お前たちは二階奥の仮眠室を使うべきじゃないのか? 「あっ!C.C.じゃねーか!お前は無事だったのか!?」 座りこんでいた私に気がついた玉城のその言葉に、全員の視線が階段に向く。 仕方なく私は立ち上がり、階下に降りた。平常心だ平常心、私はC.C.だぞ。 混乱して居るなど、このひよっこ共に悟られるなんて、そんな恥を掻くわけにはいかない。なぜなら私はC.C.だからだ。 「ああ。それにしても酷いなこれは」 よし、いつもの私だ。声は冷静そのもの。流石私。 「何がなんだかさっぱり解んねーンだよ、それより、ゼロと連絡を取ってくれ!ゼロなら何とかしてくれるだろ!?」 何だその謎の信頼感は。 ゼロならどんな奇跡も起こせると信じすぎだろう。馬鹿かこいつは。 戦略上の奇跡は全て計算ずくの物であって、棚ボタ的な幸運や奇跡では無いんだぞ? 呆れを込めた目で玉城を見ると「何だよその目はよ!」と玉城が口を尖らせた。 まあ、顔がかなり青ざめているから、藁にもすがる気持ちなのかもしれないな。 「玉城、あんたホントおバカよね」 「流石にゼロでもこれは無理だろう。だが、C.C.ゼロを呼んでもらえないか。今後どうすべきかの話はしなければならない」 妙に落ち着きはらった二人・・・いや、目が泳いでいるから平静を装っているだけの二人に、私は嘆息した。 「呼ぶのは構わないのだが、おい、玉城。縁日用にゼロのお面を作っていたな?」 ブリタニア人が居る前で堂々と売る事は出来ないが、屋台やゲットーの怪しげな店で秘密裏に取引され、地味に黒の騎士団の活動資金となっているモノ。 それは、黒の騎士団製造販売の騎士団グッズだ。 ちなみに、騎士団のロゴ入りTシャツが一番の売れ筋商品らしい。 今は夏祭りに向けた裏商品を製造中で、その中にゼロのお面があったのだ。 「へ?ああ、作ったけど、それがどうしたんだ?今関係ないだろ?」 「大ありだ。何処にある?何枚か大至急持ってこい。いいか、大・至・急・だ!」 「ああ!?今それどころじゃないだろうが!見て解んねーのか!」 声を荒げながら、手を広げ、周囲を見ろと促す玉城に、この馬鹿は、まさかこの私を馬鹿にしてるのかと、小さな殺意が芽生えた。 この散々な状況を見て解らないなんて、そんなことあるわけないだろうが。 「解っているから言っているんだ、このド阿呆が。あんなに小さかったら、ゼロの仮面を被れないんだから仕方がないだろう!」 その私の言葉に、全員の目が点になった。 |