夜の隣人 第35話 |
「・・・という事です」 スザクは顔を上げることなくそう言った。 「・・・成程、全て知った上でのあの茶番か。許しは請わないと言ったのはどういう意味だったんだ枢木」 「えっと・・・」 入浴と着替えを済ませ、椅子に座って腕と足を組み、見下すような視線を向けて低い声音で話すC.C.の前には、正座をさせられているスザク、ロイド、セシルが居た。 C.C.の後ろにはベッドがあり、その上にはL.L.が横になっている。 胸のあたりに銃弾を受け大量の血を流したため、その顔は蒼白で意識は戻ることなくこんこんと眠り続けていた。 あの屋敷の地下で、スザクが大きなアタッシュケースを開くと、そこにはペットボトルに入った水がぎっちりと詰め込まれていた。しかもこの家でもよく買うメーカー物の天然水で、予想外の中身にC.C.は珍しく思考を停止させた。一瞬聖水かと考えたが、そもそもロイヤル種に聖水は効かないので、水を恐れる理由は何も無い。 「C.C.、時間がない。悪いけど、L.L.を運んでくれないか」 その血液量だと、僕の服にも血がついてしまう。それでは拙いんだ。 スザクはそう言うと、その大量の水をケースの外へ出した。 「は?どうするつもりだお前」 先ほどの会話は何だったんだ?戦うんじゃなかったのか? C.C.の質問に答えることなく、スザクはペットボトルを両手いっぱいに抱えると、この地下室に設置されている簡易キッチンへ向かった。すると、次々にその水の封を切り、中身を捨てていく。 「話は後!いいからL.L.運んでケースに入れて。ああ、君も一緒に入ってもらうから、考えて入れてね」 バタバタと走り回りながら、次々水を処理し、空のペットボトルをゴミ箱へ捨てていくその姿を横目に、C.C.は、大量の血液が失われた分だけ軽くなったL.L.をどうにか抱き上げると、ケースの中へL.L.を横たえた。 こういう時はこの男が細くてよかったと思う。 「出来るだけ揺らさないように運ぶけど、声出さないでね。一応防音加工しているらしいけど、どのぐらい効果あるかは解らないから」 何がなんだかさっぱり理解できないが、どうやらスザクは敵ではないらしい。 そう判断したC.C.は言われるままL.L.と共にケースの中に収まった。 どの道スザクが来た時点でC.C.に選択肢はほとんどないのだ。 全ての水を処理し終えたスザクは、うん、サイズは大丈夫だったねと、懐に入れていた小型の酸素ボンベをC.C.に渡してからしっかりと蓋を閉めた。 大きなケースではあるが、まさか人が二人も入っているとは思わないだろう。 水を入れてきた事で、中に重い物が入っている事を周りにいた警官達も知っているから、万一落として重い音をさせても疑問を持たれる事は無い。 良く見るとL.L.から流れ出た血液がケースを汚してしまったので、持っていたタオルで念入りに拭いてから、そのケースを片手で担ぎ、誰にも疑われることなく地下から二人を運び出した。 そして現在に至る。 「仕方ないじゃないですか~。お二人を人間として話を進めるには、どうにかして太陽が昇っている時間に屋敷から逃げて貰う必要があるんですよ?」 しかも安全確実な方法で、ちゃんと保護できる場所に。 「それは解っているし、感謝はしているさ。それにしても、枢木がまさかロイドの部下だとはな。出会った当初に確認をしなかった自分を叱りつけたい気分だ!」 未だ怒りの収まらないC.C.が低い声でそう怒鳴りつけると、ロイドは両手を床につけ頭を深く下げた。スザクも反射的に同じ事をしている。そのぐらい今のC.C.は威圧感たっぷりだった。だが、そんな中にあっても、にこにこと笑顔を向けてくるセシルに、C.C.は視線を向けた。 「それよりもC.C.さん、お腹すいてませんか?ピザ、用意しているのですが」 「・・・セシルの手作りか?」 それだけは食べたくない。 そう言いたげな表情でC.C.はセシルに訊ねた。 「いえ、C.C.さんがお好きなピザ○ットの新作です。早く頂かないと冷めてしまいますよ?」 「なんだと!先に言え!食べる!食べるぞ!すぐ持ってこい!大至急だ!!」 「はい」 C.C.の必死ともいえる命令に笑顔のまま返事をしたセシルは、すぐにC.C.の前にピザが入った箱を置いた。その横には冷えたコーラも置かれている。 箱を開けた瞬間からキラキラと瞳を輝かせ、アツアツのピザを幸せそうに食べ始めたC.C.は、完全に怒気を殺がれてしまっていた。そもそもC.C.が3人に向けていた怒りは、半分以上が八つ当たりなのだから、持続させること自体難しかったのだが。 「それで?お前たちは私達をどうするつもりだ?」 パクパクとスピードを緩めることなくピザを食べ進めていたC.C.は、既に正座をやめ、傍に用意していた椅子に座っていたロイドにそう訊ねた。 ちなみにセシルは今コーヒーを入れに行ってここにはいない。 スザクは会話を聞きながらも、L.L.の容体が気になるらしく、眉尻を下げながらそちらに視線を向けていた。 あの屋敷にいる間は平静を装っていたスザクだが、本当はL.L.の容体が心配で心配で仕方がなかったのだ。床一面に広がる血液に思わず自分を見失いかけたが、二人を連れ出すことを優先し、演技を続けた。ロイドとセシルが治療を行っている間など、手術室として使った部屋の前で、心配し過ぎて死ぬんじゃないか?とC.C.が思うほど深刻な表情で落ち着きなく歩き回っていた。 「お二人には暫く此処にいてもらいますよぉ。L.L.様は治りの遅い方ですしね、ゆっくり休んで行って下さい」 この場所は何処よりも安全ですよ? セシルが持ってきた熱いコーヒーを口にしながら、ロイドはそう言った。 「解っているだろうが、手伝わないからな。むしろ何でお前たちは教団を手伝っているんだ?」 その言葉に、ロイドとセシルは顔を見合わせ、スザクはそんな二人を見た。 「・・・シュナイゼルですよ。あいつに捕まりましてね。暇なら手伝えって言われちゃって。まあ、ここなら研究費はシュナイゼルから搾り取れるし、静かだからいいかなーとか思ってますけど」 でも僕あいつ嫌いなんだよねぇ。 不愉快そうに顔をしかめ、口をへの字に結びながら、ロイドはそう言った。 「あの腹黒皇子も教団にいるのか。解っているとは思うが」 「解ってますよ。L.L.様の事は絶対にシュナイゼルには言いませんよ。冗談じゃない」 「スザク君も、お二人が此処にいる事、絶対に話しちゃ駄目ですからね」 「はい、わかりました・・・って、腹黒皇子?しかも呼び捨て!?」 僕の驚きの言葉に、ロイドは眉をしかめたままスザクを見た。 「シュナイゼルもロイヤル種、L.L.様と同じ皇族種なんだけどね、性格すっごく悪いんだよ。その上、アイツは昔からL.L.様の事溺愛しててね。此処にいるってばれたら大変な事になるから、絶対に教えたら駄目だからね。大体教団にロイヤル種ってこと秘密にして協力しているのだって、過去にL.L.様がこの教団に手を貸していたから、って理由な時点でもう・・・」 鳥肌が立ったのか、身震いしながらロイドはそう言った。 教団がL.L.を殺しかけたのは、結果として邪魔なスザクを処分できたと言う理由で帳消しになり、L.L.が協力していた、L.L.の痕跡がある組織と言うだけで協力しているのか。 ストーカーだな。しかも悪質な。 瞬時にそう理解したC.C.も、思わず身震いした。 「溺愛!?」 まさかのライバル出現に、スザクは驚き、三人を見たが、三人とも再び何か思い出したのだろう、心底嫌そうな表情を顔に乗せていた。その様子にスザクの顔色はさっと悪くなった。一体L.L.はシュナイゼルに何をされたのだろう?いや、今聞いた話だけでも結構気持ち悪いとは思うんだけど。 「あの腹黒はしつこすぎてな。L.L.の意思や気持ちなど気にもしないで追いまわしてくるから、L.L.はシュナイゼルからは常に逃げている。だからあいつには、絶対に言うな」 「寧ろC.C.はある種シュナイゼルの天敵だから、居るのがC.C.だけだって思わせる事が出来れば、今まで以上に寄りつかなくなるよねぇ」 ロイドは乾いた笑いを上げながら、そう言った。 「特派はシュナイゼル殿下の直属ではありますが、殿下が此処に来られたのは1度きりです。ですからC.C.さん、せめてL.L.様が起き上がれるようになるまでの間、此処にいてくれませんか?」 セシルのその申し出に、C.C.は嫌そうな顔のまま静かに眠るL.L.へ視線を向けると、眉尻を下げ、深いため息をついた。 「仕方がないな、その話乗ってやる。条件は、シュナイゼルからL.L.を守る事。そして私とL.L.の部屋の用意と、屋敷に置いてきた車をこちらに持って来る事だ」 あれにはL.L.と私の荷物が積んであるんだ。 そう言うと、C.C.は空になった箱を除け、新しい箱を開けた。 スザクの許しは請わない発言。あんまり理由考えてないけれど、強いて言うなら 「これから教団地下で監禁する。君たちに選択する権利はない」 といったところでしょうか? 単に私があの場であのセリフを言わせたかっただけです。 |