夜の隣人 第34話 |
「え~、知ってると思ってたよ。だって常識でしょ?」 早朝、彼らが屋敷内にいる事を確認してから組織本部へ戻って来たスザクは、すぐに上司を捕まえて質問をした。予想通りその人は、何当たり前の事聞いてるの?と言う顔でそう言った。 「大体、全部が全部敵なはずないでしょ?ちょっと考えれば・・・ってまってセシル君、ごめん、僕が悪かったからその手を下してっ!」 にこやかな笑みを崩すことなく、セシルはロイドの襟首を掴み、もう片手を大きく振り上げていた。 「新人部下への教育の仕方、教えて差し上げましょうか?」 「いいえ結構です!ちゃんと教えます!基礎からきっちり全部!是非やらせて下さいっ!!」 何時になく早口で、そして大声でそう訴えるロイドの襟首を「よろしい」と一言いい、手を離したセシルは、いつも通り穏やかな笑顔を崩すことなく「コーヒー入れてきますね」と、給湯室へ向かった。 セシルから逃れたロイドは、何時になく機敏な動作でスザクの背中へ隠れるように移動し、セシルの後ろ姿が給湯室の中に入るのを見て「暴力反対!」と言ってからホッと息を吐いた。 「じゃあ、スザク君座って。え~と、説明ねぇ、う~ん、何処から話せばいいのかなぁ」 そう言いながら、ロイドは奥の部屋からノートパソコンを持ってきた。前に使ったのが何時か解らないほど、埃を被ったそれに電気を通し、乱雑に埃を払ってから開いた。 カタカタと何やら操作し、組織のシステムにアクセスし、目指す情報を探して行く。 「ロイヤル種っていうのはね、その名の通り吸血鬼の王様。ブリタニア教団の設立にも関係深い種族でね。ああ、あったあった」 何やら画面を出したロイドは「ほら見て」と、画面を指差したので、スザクは立ち上がり、後ろからのぞきこんだ。そこに載っていたのは。 「C.C.!?」 そう、それはC.C.のパーソナルデータだった。ごく最近のから古びた写真まで複数枚画像も残されていて、文字データもかなりの量が保管されていた。 ロイドが、教団となじみ深い<最重要人物>の1人だからその分残っているデータも多いんだよと説明してくれた。 「教団内では有名人なはずだけど、君知らなかったみたいだし、協力を申し出ても逃げるのは解りきってたから、僕も気づかない振りしたんだよね。火傷までして人間アピールしちゃったし、顔を出さなくてもいいだけの情報がそろったから、名前だけは弄って、そのまま人間で僕も押し通すつもりだったんだけど」 その言葉に、スザクは目をまんまるに見開いてロイドを見た。 「ロイドさん、最初から気づいていたんですか!?」 「も~ちろん。ほら、ここにも書いてあるけど、魔女の森の傍にあるあの古い屋敷。あれは最初からC.C.の持ち物でね。人の手に渡るとは考えにくかったから、情報が来た時点で、帰って来たんだと思ってはいたよ。彼女、口と態度は悪いけど良い人だからね、事情が解れば時間稼ぎの茶番にも付き合ってくれるだろうし、このネタが来たときはラッキーって思ったよ。上にいる馬鹿な連中は気付きもしなかったみたいだけどね」 でなきゃVIP待遇で上層部の連中がお出迎えに行くレベルの相手なんだよ、彼女。 セシルが淹れてきたコーヒーを美味しそうに飲みながらロイドはそう言った。 つまり上層部には、僕のように理解していない者が居て、VIP待遇の相手だと気付きもせずにこちらに回したと・・・。 それって不味いんじゃないだろうか? スザクはさっと顔色を悪くした。 「C.C.としても、何も知らない君が来てラッキーだと判断したと思うよ。だから君相手に人間の振りを続けたんだしね。ああ、あの魔女の森はね、今カミサマ達の避難所に指定されていているんだよ。こちらで保護したカミサマもあの森に避難させているから、定期的に組織の人間が状況確認に行っているし、あの森周辺は開発も何も絶対させないよう土地も買い占めている」 もちろんあの町の土地も全部組織の持ちモノなんだよ。そう話しながら、ロイドはスザクがお土産にとL.L.から渡されていたあのコンビニのパッケージそっくりのお菓子をパクリと口に運んだ。 「ん~美味しい~。L.L.様の腕は相変わらずだねぇ」 「以前より腕を上げられたのでは?」 「え?え?二人ともL.L.も知ってるの?」 何気なく飛び出したその発言にスザクは目を見開いて驚いた。 「当然でしょ。あ、L.L.様はロイヤルの中でも更に希少種なんだよ。ロイヤル種は3つに分類されてて、一つはハイネス種。皇族種とも呼ばれていて、L.L.様はこちらになる。一つはロード種。貴族種とも呼ばれていて、C.C.はこちら。あとナイト種はそのまま騎士種で一番人数が多いかな。皇族種の血を受けた者も騎士種になるからね。皇族種は、闇の眷族の王と呼ばれているほどの種族だから、呼ぶ時は様か殿下をつけないとホントは失礼にあたっちゃうんだよ」 「え?え?」 内容はさっぱり頭に入ってこなかったが、あちらの二人が吸血鬼だと言う事を、こちらの二人が最初から知っていたと言う事は、何も知らなかったのはスザク一人と言う事で、つまり、スザクが何も知らないままでいる為に、こちらの二人は知らない振りをしていたと言う事になる。そこまでは流石に理解できた。 ひどい!二人とも酷いよ! そう思っても、口に出す事も出来ず、スザクは二人の会話に耳を傾けた。 「でも、どうしますロイドさん。C.C.さんだけならどうにでもなりますが、L.L.様が一緒だと知られてしまえば、後々問題になりませんか?」 C.C.で最重要人物のVIP待遇、上層部の人間がお出迎えなのだ。その上にいるL.L.は、更に手厚い待遇をされる対象で、その相手を日本人であり、何も知らない枢木スザクが行った事、そして全て終わるまで上に報告をしなかった事が知られたら。 セシルが危惧しているのはそう言う問題のようだった。 「ん~でも、言わない方がいいでしょ?この前クロヴィス殿下が上の馬鹿達にしつこく追いまわされたせいで、皇族は教団に対して警戒態勢引いているからね。そのうえ、またL.L.様に何かあったら、皇族との和解は不可能になるよぉ。どーせお二人は逃げる気満々でしょ?ならこちらはそれに乗らなきゃ」 ばれてもL.L.様の願いでしたから。で、通せば問題無し~。 何がなんだかさっぱり分からず、話に全く付いていけないスザクだが、今のロイドの言葉に、俯き加減だった顔をあげた。 「また?また何かあったらってことは、前にも何かあったんですか?」 「かなり昔の話なんだけど、L.L.様の親友を教団の人間が撃ったんだよ。・・・いや違うか。L.L.様を庇って、親友が撃たれたが正解だよね」 本当は、頭を撃ち抜かれていたのはL.L.様だったんだよ。 ロイドは何時になく真剣な眼差しで、驚くスザクを見つめた。 その時、特派の緊急回線がけたたましく鳴り響いた。 |