いのちのせんたく 第2話

青い海、白い砂浜、そして雲一つない青空。
まさに南の楽園と言えるその景色の中に、一つの人影があった。
それは、この景色にあまりにも不釣り合いな騎士服に身を包んだ男。
世界最大の国、神聖ブリタニア帝国、その皇帝の騎士の一人、ナイトオブセブン枢木スザク。
ナンバーズでありながら帝国最高位の騎士となった彼は、全ナンバーズの希望でありながらも売国奴と軽蔑される難しい立場にあった。
そんな彼が護衛のためでもないのに、海岸に立ち尽くしているというのは本来ありえない光景。
そして、当のスザクも、このあり得ない状態に驚き、立ち尽くしていた。



海岸に、砂浜?何で僕はこんな場所に!?
僕はエリア11政庁でナナリーの元へ向かうため廊下を歩いていたはず。
まさか白昼夢?いや、今までそんな経験したことはない。
足元の砂の感触も、磯の香りも、太陽の日差しも、この風も、全て現実だ。
まさかこれもギアスなのか!?一体誰の?
僕はこの場所を再確認するため、辺りを見回した。
背後にある原生林へふと目を向けた時、木々の間に何か影が動くのが見えた。
誰か居るのか?敵か?僕をここに連れてきた者かもしれない。
その影に警戒しながら近づこうと思ったその時、その影は砂浜に足を踏み入れた。
きょろきょろと辺りを伺いながら浜辺を歩くその姿に、僕は思わず息を呑んだ。
それは黒い学生服に身を包んだ、かつての友人。
なんで、彼が、ルルーシュがここに?
呆然とその姿を追っていると、こちらに気がついたのか、僕の方へ歩いてきた。
といっても、彼の足だ。
まだ黒い点にしか見えない距離だ、ここに来るまでに10分は掛かりそうな気がする。
彼が居るということは黒の騎士団が関係している可能性はある。
僕は、周囲への警戒を解くことなく彼に向かって歩き出した。



数分後、僕たちは再会した。

「まさかスザクと会えるとは思わなかったよ」

彼はいつも通りの友人の顔でニッコリと笑いかけてきた。

「僕もまさかこんな場所でルルーシュに会えるなんて思わなかったよ」

警戒していることを悟られないよう、会えて嬉しいというように、にこりと笑いかける。
心にもない笑顔を浮かべることに慣れてしまったのも、彼との学生生活が原因だ。
僕を裏切り、騙しながら友人の仮面をかぶっていたルルーシュ。
その彼を騙すために、今度は僕が嘘をつき、友達の仮面をかぶっている。

「なあ、スザク。お前はここがどんな場所か知っているのか?」

不安を滲ませながら辺りを見回すその姿に、恐怖や焦りは見られない。
やはりこれは彼が仕組んだものなのか?

「僕にもわからない。気が付いたらここにいたんだ」

君が大人しくナナリーと共に学園にいてくれたら、君がゼロにならなければ。
僕は昔のまま、君を疑うことなく、友達として笑っていられたのに。

「お前もか。俺も気がついたら向こうの海岸にいたんだ」

君はこんな事でも僕に嘘をつくのか?

「あれ?でも君、あっちの森にいなかった?」

その僕の言葉に彼は驚きの顔を向けた。やはり疚しい事があるのか?

「確かに森にもいたが、お前、こんな遠くから見えたのか?」
「へ?」

その顔に見えるのは純粋な驚きと、疑いの眼差し。

「いや、いくらお前が人並み外れているといっても、それは流石に無いだろ」
「何言ってるんだよルルーシュ、あのぐらいの距離なら見えるだろ?君だってすぐわかったよ?」
「見えるわけ無いだろう!!俺は黒い点にしか見えなかったぞ!!」
「え?君、僕だってわかっててこっちに来たんじゃないの?」

一瞬言葉に詰まり、数瞬考えたあと、彼が肩にかけていた鞄を開けた。

「俺は、これで確認をしたんだ」

鞄から出てきたのは双眼鏡

「君、そんなの持ち歩いて何してんの?」
「今日はロロと放課後、バードウオッチングに行く約束をしていたんだ」

ロロ、何やってるんだ。ルルーシュの監視役なのに、学生生活楽しみ過ぎじゃないか?

「海岸からはこの場所がわかるものがなかったからな。植物を見れば何かわかるかと思って、そこの森に入ったんだが。突然、赤く海岸が光ったんだ。 その光った場所を双眼鏡で確認したら、そのラウンズのマントが見えたんだ。その色はお前のだからな。わかりやすかったよ」

居たのがお前でよかった、と彼はニッコリと笑った。
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