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「赤く光った?」 「さっきお前が居た辺り一帯が光ってたんだが、何か心当たりは無いか?」 ルルーシュはそう言いながら、先程までスザクが居た場所を指さした。 「・・・いや、何も」 その指が指す方へ、スザクは視線を向け、わずかに目を細めた。 赤い光、そのキーワードで思い出せる光景がある。 それはかつて神根島で4人が体験していたモノ。 ここに居るのはそのうち二人なのだが、一人は記憶を消され、一人はその記憶が戻っていないかを監視している。 そういう設定なのだから、スザクは何も言えない。ルルーシュは何も言わない。 だから、赤い光についてはこれ以上詮索されることはなかった。 「それにしても、お前にもこの場所が何処なのか理解らないのか。なら、やはり一度森に入るか」 「森に入って植物を見るんだよね?僕も一緒にいくよ」 ルルーシュが森の方へ歩き出したので、スザクもその後ろについて歩いた。 「当たり前だろ?俺一人に行かせるつもりだったのか?」 「まさか。君一人じゃ心配だ」 その言葉に、ルルーシュはピタリと足を止めて、不機嫌そうに眉を寄せてスザクの方へ振り向いた。 「心配ってなんだ?天下のラウンズ様の手を借りなければ、俺には何もできないとでも?ありえないな」 ルルーシュはそう言い捨てると、足早に森のなかへ足を踏み入れた。 しまった、と思ったスザクは、慌ててその背中を追いかけた。 「待って、ルルーシュ。言い方が悪かったなら謝るから、機嫌直して」 「別に機嫌は悪くない、お前が謝る必要もない」 「十分機嫌悪いよ」 「いつもと変わらない」 これ以上何を言っても不機嫌になる、と察したスザクは口をつぐんだ。 友人ごっこを始めてから、彼が本当は面倒くさい性格なのだと知った。 表面的に付き合うだけなら、彼は気のいい友人だが、少しでも親しくなると、こういう面倒な一面を見せてくる。 今までこんな事を感じなかったのに、これもきっと、ルルーシュがゼロになんてなった事が原因なのだ、とスザクは前を歩くその背中を睨みつけた。 「・・・と、思わないか?スザク」 「へ?」 突然名前を呼ばれたスザクは、思わずマヌケな声を出し、その事はルルーシュを更に苛立たせたようだった。 「お前、ここまで歩いて来る間、何見てたんだ」 「え、あ~、え~と。君の背中?」 実際に見ていたものはそうだったので、スザクはそう答えると、ルルーシュは呆れたように溜め息を付いた。 「俺の背しか目で追えないなんて、お前、疲れてるんじゃないのか?」 「この程度で疲れるはずないだろ」 「今歩いた程度の話じゃなく、軍の仕事で・・・ああ、もういい。スザク、あれが何に見える?」 スザクはルルーシュが指さした方を見た。そこには黄色の花が咲いていた。 「菜の花?」 「そうだ、ではあれは?」 「・・・ひまわり」 「ではあれは?」 「コスモス・・・って、ルルーシュ僕にだってそのぐらいわかるよ?」 そうじゃなくて、と、ルルーシュは首を横に振った。 「スザク、菜の花はいつ咲く?」 「春かな?」 一体何なんだと、スザクは眉間にしわを寄せ、不機嫌な表情となった。 「では、ひまわりは?」 「夏」 「コスモスは?」 「知らないよ、一体何が言いたいんだ君は」 「そう怒るな。お前を馬鹿にしているわけじゃないんだ。コスモスが解からないなら、そうだな、それはどうだ」 そう、ルルーシュは僕の足元を指さした。 そこにあったものに、僕は思わず目を見開き、足をかがめ、それを拾った。 思わず力が入ってしまったため、手袋越しにそれはチクリと指を刺したが、気にする余裕はなかった。 刺を身に纏ったその殻の中から、茶色の実が姿を覗かせていた。 「栗だ」 「そう、栗だ。ではスザク、菜の花、ひまわり、そして栗を見てどう思う?」 「ありえないよ、季節がバラバラだ」 その異常性にようやく気がついたスザクを見て、ルルーシュはやっとか、と溜息をついた。 友人ごっこを始めてから、こいつが面倒くさい性格だと気がついた。 いや、元から気がついてはいたが、友人というフィルターが彼の短所を長所に見せていたのだろう。 相手が変わったわけではなく、受け取り手の気持ち次第で、こうも相手の印象が変わるのだから、人の感情とは難しいものだ。 昔のようにスザクと本当に友人として接することは出来るようになるのだろうか。 いや、スザクがブリタニア側にいる限りは無理だし、何よりアイツは俺を売った男、そして今もナナリーという切り札を手に俺を監視している。妙な夢は見るべきではない。 ようやくこの場所の異常性に気づき、あちらこちらに目を向けては驚くスザクの背中を見つめた。 |