いのちのせんたく 第4話

「さて、スザク。俺達がいるこの場所が異常だということは理解できたな?」
「うん、すごくよくわかった」

スザクが木を登って取ってきた木の実が、大きな石の上に並べられていた。
柚子、梅、栗、胡桃、林檎、さくらんぼ、ドングリ、モミジイチゴ、あけび、柘榴。
季節を無視した数々の木の実を、暫くの間二人はじっと見つめていたが、やがてスザクは林檎を手に取りがぶりと噛み付いた。

「すっぱい」
「まだ青いから当たり前だ」

それでも、シャクシャクと音を立てながら、芯まで全て食べてしまった。

「なんだ、お腹が空いてるのか?まだ16時頃のはずだが」

携帯を開いてみると、何かの力が作用しているのか画面には何も表示されなかった。
スザクも同じように携帯を開いた後、ルルーシュに自分もダメだと画面を見せた。

「今日お昼食べれなかったんだ。暗くなる前に、ビバーク出来る場所を確保をしてから、この場所のことは考えよう」

そう言いながらもパクリとさくらんぼ、そしてあけびを口にする。

「昼食も取れないなんて、お前まさか、ナンバーズだからと嫌がらせを・・・いや、さすがにラウンズ相手には無いか。いいか、スザク。いくら体力に自身があると言っても、食事ぐらいちゃんと取れ」
「単に仕事が忙しかっただけだよ、でも今度から食事はちゃんと取るよ」

ルルーシュが本気で心配していることを感じたスザクは、まさかセシルが用意したお弁当を食べなくて済むよう、仕事していたとは言えなかった。

「よし。ビバークの場所を確保となると。森に入るか海岸付近か、できれば水場を見つけたいから、海をたどって川を探すか」
「それなら大丈夫。木に登った時、向こうに滝が見えたんだ。そこを目指そう」

話している間に拾ったくるみや栗を、ルルーシュの鞄に入っていたビニール袋に入れ、スザクが先に歩く形で、再び森の中を歩いた。
20分ほど獣道を歩いて行くと、やがて水が落ちる音が聞こえ始めた。
視界が開けたそこには、滝とそれに繋がる川が流れていた。

「ほう、綺麗な川だな。とはいえそのまま飲むのは危険か。何か道具があれば煮沸できるんだが」

その時ルルーシュは、何か声が聞こえた気がして、スザクの方を振り返った。
この滝が見えた時に足を止めたスザクは、その滝と滝壺の方を凝視したまま、口元をわずかに動かしていた。

「スザク?お前この景色に見覚えがあるのか?」
「え?あ、うん。前に神根島で見た滝によく似てて、・・・あっ、神根島っていうのは日本の島で」

反射的に神根島の名前を出したことで、スザクはしまったという顔を一瞬したあと、神根島には行ったことのないはずのルルーシュに、島の説明を始めた。

「たしかトウキョウ租界の近く、伊豆諸島の辺りの小島じゃなかったか?」
「よく知ってるね」
「当たり前だろ?地図に乗っているからな」

実際に小学生の教科書として使われているエリア11近郊の地図にも小さく乗っていたから問題はない。
スザクは一瞬疑うような眼差しを向けたあと、地図に乗っているならルルーシュが覚えていてもおかしくないかと、判断したようだった。
以前軍の訓練に神根島を使ったのだと、スザクはルルーシュに説明をした。
川の真横は危ないからと、とりあえずの拠点に良さそうな場所を二人で別々に探していると、ルルーシュは岩場に洞窟を見つけた。
その洞窟は、川よりも高い場所に入り口があり、中を確認しようとルルーシュはその洞窟へ続く坂を登った。
坂の幅は広く、緩やかな勾配を登りきったところで、森の中を確認しに行っていたスザクが川辺に戻って来たのが見えた。
何かを叫びながら手を振っているので、ルルーシュはそんな場所で叫んでも聞こえないだろうと思いながら、手を振ると、そのまま洞窟の中へ足を踏み入れた。
真っ暗かと思ったが、外の日差しが思ったよりも中へ入り込んでいて、思ったよりも明るい。
獣が住処にしている可能性も考えたが、その気配はなかった。
人間以外にギアスが効くのかは試した事はなかったので、もし何か居たらいい実験台になると思ったのだが、と少し残念に思いながら、ルルーシュが洞窟の中をよく見ようと足を踏み入れた時、何かが駆けるような足音が近づいてきた。
この洞窟の主が気がついて戻ってきたのか?と、ルルーシュは振り返り、坂の方へ目を向けると、ものすごい勢いで走ってくるスザクの姿が目に映った。
その姿に、コンタクトレンズを外せるようにと、左目に伸ばしていた手を慌てて下ろす。
ルルーシュの側まで走ってきたスザクは、ルルーシュの腕を掴んだ。

「どうしたんだスザク、何かあったのか?」

その尋常ではない様子のスザクに、さすがのルルーシュも何か感じたのか、真剣な眼差しでスザクの腕を反射的に掴んだ。

「何かじゃないだろう!!何やってるんだ君は!こんな所に一人で危ないだろう!!」

スザクは眉根を寄せて、ルルーシュの両肩をガシッと力強く掴んだ。

「野生の動物が居たらどうするつもりだ!」

スザクの怒りがあまりにも激しくて、驚いたルルーシュは、思わず体を萎縮させ、目を見開いて、スザクを見つめた。

「それなのに武器一つ持たない君は、野生の獣相手にどう対処するつもりだったんだ!聞いてるのかルルーシュ!」
「・・・あ、ああ。聞いている。聞いているから、スザク」

反省ではなく、ルルーシュがそうに口にしたので、危険性を理解できないのかと、スザクは更に不機嫌となり半眼でルルーシュを睨みつけた。

「頼むから、少し力を抜いてくれないか?」

その言葉に、スザクは自分が掴んでいるルルーシュの肩が、ギシギシと骨の軋む音を上げている事に気が付き、慌てて手を話した。

「ご、ごめんルルーシュ」
「いや、気にするな」

かなりの痛みがあったはずなのに、ルルーシュはその事を言葉にも、表情に一切表さず、スザクを安心させるようにニコリと笑った。
それを見て、スザクの体はざわりと粟立った。

「スザクの心配は当たり前の事だからな。俺が軽率だった。反省しているよ」
「え、あっ、うん。でも、君が無事でよかった。ごめんねルルーシュ、ちょっと肩見せて、きっと痣になってる」

スザクは自分がつけた傷を見ようと、制服の襟口に手をかけようとしたが、ルルーシュの手がそれを止めた。

「大丈夫だ、大したことはない。大体、見せたところで手当の道具もないかだろ?」
「でも」
「気にするなと言っただろ?それより中を見てみないか?」

あれだけ力を入れたのだから、腕を上げるのも痛いはずなのに、ルルーシュは平然とその腕を上げ、洞窟内を指さした。
何も無かったかのように洞窟の中へと促すルルーシュに、それ以上言うことはできず、スザクは頷くことしかできなかった。
ルルーシュは自分を気遣っているのだろう、ならば自分もこれ以上言わず、できるだけルルーシュの肩に負担をかけないようにしよう。
スザクはそう思うことにした。さっきの感覚は気のせいなのだと。




先ほど、ルルーシュに感じたもの、それは純粋な恐怖だった。


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