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洞窟の中は思ったよりも広く、足元は天然の洞窟とは思えないほど平らだった。 明らかに、人の手が入っているように思えるその作りと、一時的に暮らすには十分すぎる環境に、やはり何か作為的なものを感じてしまう。 「ルルーシュこっち来て」 奥の方からスザクが呼んでいるので、床や壁を調べるのを中断し、スザクの方へ向かった。 流石に奥は暗く、壁に手をついて進むと、一番奥にスザクが屈んでいた。 「ルルーシュ、見て」 「見てと言われても、こう暗いと」 スザクは後ろを振り返り、ルルーシュが壁に手をつきながら、辿々しく歩いている姿を見て、この暗さだと、ルルーシュには見えていないことに気がついた。 「あ、そうだね。じゃあ明るい所に運ぶよ。危ない物も入っているし」 よいしょっ、という掛け声と共に、スザクが何やら持ち上げ運び始めた。 明るい場所で見ると、それは木で出来た箱だった。 洞窟の入口付近、陽の光が当たる場所に箱を置くと「もう一個あるから持ってくるね」と、スザクはまた奥へ歩いて行った。 ルルーシュは、すでに開けていた最初の箱を覗き込み、思わず目を見開いた。 まな板に包丁、片手鍋に大きな両手鍋、フライパン、お玉、木べら、砥石。 箱の底にはバスタオルが敷かれていた。 「なんだ、これは」 「調理器具みたいだね」 「そんなことは見ればわかる!何でこんな物があるのかと、・・・いや、すまない。怒鳴ってしまって。お前にあたっても仕方がないのにな」 「ううん、気にしないで。さてと、こっちの箱は何かな。よいしょっと」 釘で打ち付けられているらしい箱を、スザクは躊躇いもなく素手で開けた。 ルルーシュはその様子に、一瞬息をするのも忘れてしまう。 この箱を素手で開けただと!?そんなこと普通は・・・いや、スザクだ。相手はスザクだ。常識で考えるな! 硬直したルルーシュに気づかず、スザクはさっさと箱の中身を確認し始めた。 「こっちは寝袋が2つ、毛布が2枚、ウレタンマット2枚。あ、下に救急箱が入ってたよ」 「救急箱か、ちょっと貸してくれ。ガーゼや包帯、腹痛の薬・・・基本的なものは揃っているな」 「後はファイヤースターターと、サバイバルナイフが1本。中が空のリュックサックが1つ。これで全部かな」 ひと通り箱から出されたものを見て、思わず二人は顔を見合わせた。 「なんだろうな、これは」 「なんだろうね」 「2セットな時点で、人為的なものを感じるのは気のせいだろうか」 「奇遇だね、僕もそう感じてる」 二人分の寝具、調理器具に救急セット、サバイバル道具。そして明らかに人の手で平らに加工された床の洞窟。 しばらく無言でそれらを見ていたが、考えたところで何も好転はしない。 「スザク、暗くなる前にまず食料と水、そして火を確保しよう」 「そ、そうだね。僕、そこの川で魚を取ってくるよ」 「俺も一緒に行こう、水を汲まないとな。薪もいる」 スザクは、邪魔になるからと、ラウンズのマントと上着を脱ぎはじめたので、ルルーシュはその間に制服の上を脱ぐと、毛布や寝袋など、まだ使わないものと一緒に箱に片付け、水を汲むための大鍋と片手鍋、リュックを持った。 「あ、僕が持つよ」 「このぐらい俺でも持てるぞ?」 「いいから、持たせて?」 ルルーシュは不服そうな顔をしながらも、言われるまま鍋を渡した。 「リュックも」 「別にリュックぐらい」 「今は大丈夫でも、後々体力持たなくなるよ?ルルーシュ体力無いんだし」 「俺が無いわけじゃない!お前が有り過ぎるんだ!」 「じゃあ、有り余る体力を持つ僕が、荷物持ちをするべきだよね?」 にっこり笑顔で言われると、それ以上ルルーシュは何も言えず、渋々リュックもスザクに渡した。 「サバイバルナイフは僕が持ってていいかな?」 「ああ、俺が持ってても使えないからな。その代わり、あの包丁は俺のだからな」 「うん、料理は君に任せるよ」 スザクはリュックを肩にかけ、ナイフをベルトに挟むと、鍋を持ってさっさと川へ向かって歩き始めた。 その後ろを、不満気にルルーシュが着いて来る。 ちらりと、スザクはその様子を見た後、真っ直ぐ前を見て、その眉を寄せた。 釘が打ち付けられた箱だって難なく開ける僕が、あれだけの力で掴んだのに、何事もないようにその腕を動かしている。 物の出し入れの時にも、眉すら動かさなかった。 もしかして、僕の勘違いで、大して痛くなかった?いや、そんなはずはない。ありえない。骨が軋むのを確かに感じた。 となると、僕に気を使っているのか。彼の仮面は完璧だ、自分の怪我を、しかも僕が理由で負ったものを、僕に気づかせることは無いだろう。 そのことを追求すれば、ルルーシュの性格から、余計に隠し、何でもないのだと証明するため、無理に動かす。 なら、こちらも理由をつけて、少しでも彼の腕の負荷を減らすだけだ。 本当にめんどくさい、痛いなら痛いと素直に言ってくれれば、休んでて、とこちらも言えるし謝れるのに。 おかげでいらない気を使う事になる。 これから先、この奇妙な場所で二人で過ごすことを考えると、気が重い。 河原に着くと、スザクは衣服を脱ぎ出した。 なんで脱ぐのかルルーシュが聞くと、川に入って、素手で魚を捕まえるのだという。 いくら人外のスザクでもそれは無理だろう。少なくても昔は無理だったので、そう言うと、軍の訓練中によく取ったのだという。 一体何をさせているんだブリタニア軍、と思ったが、それは口には出さず、どちらにしても、魚を捕まえる道具が無いのだし、ここはスザクに任せようと、川へ入っていったスザクを確認した後、ルルーシュは薪になる枝を拾うため森へ入ろうと、リュックを手に持ち、川を背に歩き出した。 「ちょっと、ルルーシュどこに行くの!?」 背後から、バシャバシャと水音を鳴らしながら、スザクが走ってくる。 「何処って薪を拾いに行くにきまってる。それより、お前、魚取るんだろう?早く取らないと風邪引くぞ。今の状況では病気になった時点で命に関わるんだからな」 「それはわかってるけど、一人で行くのは駄目だ。森の中では何があるか解らないんだから、僕が魚取り終わるまで待ってて」 「魚を取るのに、どれだけかかるか判らないだろう」 「魚影が濃いからすぐだよ。その間、沢ガニでも取ってて。昔一緒に取っただろ?」 「・・・沢ガニか。煮れば出汁になりそうだな」 「取った沢ガニは、片手鍋に入れて持って帰ればいいから」 この場所が、普通の場所ではないことだけは確かで、近くに獰猛な動物がいる可能性は否定出来ない。 それに、スザクは引かないから、口論するだけ時間の無駄だ。 「わかったわかった。お前が取り終わるのを待ってるから、さっさと行って来い。いつまでその格好でいる気だ。本当に風邪を引くぞ」 なにせ予想よりも川が深かったので、衣服が濡れないよう全裸になっているのだ。 そのことを指摘されると、近くにいるよう念を押してから、川の中へ戻っていった。 10分ほど河原にいる間に、スザクは20cmはありそうな川魚を4匹、ルルーシュは沢ガニを10匹捕まえていた。 スザクは一度魚と水の入った大鍋、蟹の入った片手鍋を洞窟に運ぶというので、ルルーシュは着いて行こうとしたが「この後森に入るんだから、君は体力温存してて」と言われ、河原で待つこととなった。 スザクの姿がだんだん遠くなり、一人残されたルルーシュは、ふと、シャツのボタンを外し、首もとを寛げると、そっと自分の肩を覗き見た。 そこには青黒く変色した痣。手の形をしたそれは、あの時スザクに掴まれたもの。 「・・・まあ、当然だな」 おそらく痣になってはいるだろうとは思ったが、予想していた以上に酷い状態に思わず顔を顰める。 釘で止められた箱を難なく素手で開けるスザクが、骨が軋むほどの力を入れたのだから、痛めていないはずがない。 妙に荷物を持つと言ってくるのは、それが原因なのだろうか?痛めていると思ったから、気を使っているのだろうか。 俺を憎み、恨み、俺に銃を向け、皇帝に売り払い、記憶を奪い、笑顔で友人を演じ、監視している男が、多少怪我をした程度の事をなぜ気にする? 「今更なんだよ、スザク。俺の体のことを気遣うなど、無駄なことだ」 洞窟の前に荷物を置いているのであろうスザクを見ながら、ルルーシュは襟元を直し、嘆息した。 ルルーシュとスザクは洞窟に住むことになった。 ・洞窟内で包丁、まな板、片手鍋、両手鍋(大)、フライパン、お玉、木べら、砥石を各1個手に入れた。 ・洞窟内で毛布と寝袋、ウレタンマット、バスタオルを各2枚手に入れた。 ・洞窟内でファイヤースターター1個、サバイバルナイフ1本、リュック1個、救急セットを手に入れた。 ・スザクは魚を手づかみで捕まえた。 ・ルルーシュは沢ガニを捕まえた。 ・ルルーシュは両肩に痣ができた。 ・スザクはルルーシュを、面倒くさい奴と思いながらも気を使っている。 ・ルルーシュはスザクに呆れている。 これがゲームなら、こんな感じ。 |