いのちのせんたく 第6話

「竹だな」
「竹だね」

そこは一面の竹林で、太さが10cmはありそうな竹が生えていた。

「スザク、太い竹を一本持って帰れないか?」
「持って帰ってどうするの?」
「鍋を火にかける台や、水筒、食器類が無かったから箸と、これだけ太ければ皿の替わりにもなるだろう?籠なんかも作れるんじゃないか?」

ああ、なるほど、とスザクは納得し、ベルトに差していたサバイバルナイフを抜いた。
その瞬間、目の前の竹が綺麗に切断され、音を立てて倒れていった。
あまりにも早いその動きに、ルルーシュは一瞬何が起きたのか解らなかったし、気がついたらナイフはスザクのベルトに戻っていた。
味方であればこれほど心強い存在は居ないが、ゼロであるルルーシュには常に敵でしかない。
スザクが自分の側に居てくれれば、という思いが再び胸を占めるが、それはもう有り得ない事なのだと、その思いを心の奥深くに沈めた。
倒れた竹を6等分にし、1つに纏め肩に担ぎあげるその姿は、普通では考えられないような光景だが、この生活でいちいちスザクの身体能力に驚いていたら、精神的に疲れるだけだと判断し、スザクなら出来ても不思議はないと自分に納得させた。

「ルルーシュ、ちょっとここで待ってて、僕はコレを置いてくるから。絶対に動かないで」

そう言うと、物凄いスピードで今来た道を、走り去っていった。
スザクが言うのは、すでに決定事項で、返事すらさせてもらえず、ルルーシュは釈然としない思いを抱えながらも、仕方ないなと辺りを見回した。
竹林なのだから、一つぐらいあってもいいはず。地面を見ながらしばらく歩くと、わずかに地面が盛り上がっている場所を見つけた。3cmほど盛り上がっているその先端に、わずかに緑色の葉が見える。

「あったな。それにしても相変わらず不自然な森だ。枯れ枝は落ちているが、枯れ葉や枯れ草は一枚も落ちていないか」

ここに来る途中何かに使えないかと拾っておいた、薄く平べったい、手のひらほどの石を取り出し、地面の盛り上がっていた場所の周りを掘る。
やはり、いくらなんでも石で掘るのは難しいのか、なかなか掘り進めることが出来ないが、それでもスザクが来るまでは、やることもないのだ。
無心に掘り進めていくと、徐々に見知った食材が姿を現す。

「ふむ、思ったよりも良いサイズだな」
「良いサイズだ、じゃない。何してるんだ君は」

苛立ちを込めた声が聞こえたので振り向くと、そこには当然だがスザクが立っていた。

「何って、見ての通りタケノコ掘りだ」
「それは見てわかるけど、僕は絶対に動かないでって言ったよね!?」
「言われたが、そんなに動いてないだろう?まさか、人形のように身動きせずに立っていろ、という意味だったのか?」
「そこまでは言ってないけど、そういう体力仕事は僕がやるよ」
「問題ない、もう終わる」

すでに根が見えるほど掘り終わっていたので、根に近い部分に平たい石の先端を当て、その反対に足をかけ、力を込め押し込むように何度か蹴ると、どうにか地面から切り離すことが出来た。

「ほら、終わった」
「・・・あ、うん。そうだね」
「どうしたんだ?」
「え?いや、何でもない」

先程からスザクは、奇妙なものを見たような目でルルーシュを見ていた。
その視線の意味がわからず、ルルーシュは首を傾げた。採取したタケノコは、薪を入れているリュックの中に入れる。
リュックの中には、ここに来る途中に見つけたクレソンも入っていた。今度からは山菜を入れるために自分の肩掛け鞄も持って来るべきだな。

「さて、後はもう少し薪になる枯れ枝と、釜戸に使えそうな石を探して終わりかな」
「そうだね、後は帰り道で集めればいい。・・・早く戻ろう」

薪の入ったリュックを背負いながら、スザクは前を歩くルルーシュの背中を見つめた。
やっぱりおかしい。何かがおかしい。いくらここが奇妙な場所でも、あんな石で、ルルーシュの腕力で、地面が掘れるのだろうか?
あれだけの太さのタケノコを、石と蹴りだけでルルーシュに切り落とせるのだろうか。
ルルーシュは何かを殴ったり、蹴ったりという訓練は受けていない。だから、あんな蹴り方をした。あれは、蹴った場所よりも、自分の体への反動のほうが大きく、体を痛める・・・はずなんだ。
いくらルルーシュの力が弱いとはいえ、あんな平然と何度も蹴れる物ではない。なんで、平気なんだ?
僕に気を使って痛みを我慢している?
石で掘っているルルーシュを見てから、体の鳥肌が収まらない。
肩を痛めているはず、あんな掘り方では腕が痛いはず、石で地面はルルーシュには掘れないはず、あんな蹴り方では足が痛いはず。
ありえない。だけど現実にそれが起きていて。
いや、今いるこの場所自体がすでに本来有り得ない場所なのだから、ルルーシュが本来より体力も、腕力も、耐久力もあるのかもしれない。
もしかしたら、今までのルルーシュが演技で、実は体力も、腕力も全て人並み以上になったのかもしれない。
そこまで考えて、スザクは頭を振った。
・・・考え過ぎだ。大体相手はルルーシュだ。ユフィの仇だ。僕が心配する必要はない。ルルーシュが死なないようにだけ注意すればいい。
スザクは今まで考えていたことを頭から追い出し、乾いた枯れ枝を拾いながら、ルルーシュの後ろを歩いた。


集めた枯れ枝と、ファイヤースターターで焚き火を用意し、ルルーシュがスザクから借りたナイフで竹を加工している間にスザクは河原と洞窟の前を往復し、手頃な石をいくつも持ってきた。
ルルーシュはその石を焚き火の周りに積み上げ、簡易の釜戸をつくり、その上に割った竹を敷いた。
片手鍋を火にかけ、さばいた川魚と沢ガニ、クレソンと絞った柚子も入れた。
竹で作った皿と箸で、ルルーシュの作った温かな料理を口に入れる。

「あ、美味しい」
「それは良かった」
「この状況で、美味しい物が食べれるなんて思わなかったな」
「この材料じゃコレが限界だ。せめて塩が欲しいな、やはり海水から作るしかないか」
「じゃあ明日は海に行こうか。海産物も何か取れると思うけど?」
「食材も増やしたいしな。ある程度日持ちする果物や、山菜類も欲しい」

食事をしている間に水を煮沸し、ルルーシュが作った竹の水筒に入れ、取ってきた栗に切れ目を入れてから消えかけて燻っている焚き火の中に埋め込んだ。
その頃にはもう、辺りは真っ暗で、暗い中起きている理由もなかったので、洞窟の中に入り、寝袋に入って眠ることにした。






ルルーシュはクレソンを採取した。
ルルーシュはタケノコを採取した。
スザクは竹を採取した。
スザクは薪を採取した。
ルルーシュは竹で簡易食器と水筒、石を使って簡易釜戸を作った。

ルルーシュの特技に日曜大工があったような無かったような。
神根島でアレだったルルーシュは、サバイバルでは確実に役立たずなので、料理と工作はルルーシュの担当に。
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