いのちのせんたく 第9話

「よっし、完成。どうかなルルーシュ」
「うん、いい出来だ。流石だな、スザク」
「ルルーシュの指示があったからだよ」

今朝、スザクが鍛錬がてら散策していた時に、川の一部に湯気が上がっているのを見かけたというので、調べた所、温泉が湧き出していた。
ルルーシュの指示の下、スザクが人が入れるよう穴を掘り、冷たい川の水と混ざらないように石を積み上げただけだが、思った以上に居心地のいい露天風呂が完成した。

「温度は少し温めにしたから、ルルーシュ入って。僕は先に川に入って魚を捕るから」

長めの半身浴をするよう細かく指示を出され、正直うんざりしたルルーシュだったが、どうせしばらくここから動けないのならと、露天風呂の横に、ある程度川の水が貯まるよう石を退けたり囲んだりして、簡易的な洗い場を作った。
念のため作っておいた灰汁を使って洗濯をしてみる。昔の人間は、植物を燃やした灰と水で作った灰汁で洗い物をしたと何かで読んだのだ。

「今度は何をしてるんだ?君は大人しくじっとしてられないのかな」  

バシャバシャと川の流れに逆らうように泳ぎながらスザクがこちらにやってきた。
ここ最近は、不機嫌そうに文句を言っていたスザクだったが、今朝の事があったせいか、心配そうにこちらを見ていた。
別に、大したことをしている訳でもないのに、毎回注意をされるのは、心配してくれているとわかっていても、正直いい気分ではない。

「何って洗濯だ。お前、俺の行動を監視でもしてるのか?」
「え?いや、監視なんて、そんな事するはずないだろ」

監視という言葉にわずかに反応した後、視線を泳がせながら否定されても、信じられるものではない。
が、これは学園の監視の方を思い出しての反応の可能性もあるか?なんにせよ、この場所に来たせいで気が緩んでいるのか、ずいぶんとスザクの反応が解りやすい。

「冗談に決まってるだろ、お前が監視なんて、するはずないからな」
「そ、そうだよ。で、何?洗濯?」
「お前のも持って来い。今日も天気がいいし、乾くまでバスタオルを巻いていれば、問題はないだろ?」
「う~ん、まあ今日は温かいし風邪は引かないか。うん、僕も洗おう。でも、自分のものは自分で洗うからいいよ」
「いいから持ってこい、入浴中の暇つぶしだ」

ルルーシュとスザクが、この奇妙な場所での生活に、それなりに適応している頃、別の場所では必死な男たちの叫び声が響いていた。



「玉城!そっちだ!追い込め!!南!そこに行ったぞ!」
「うおおおおおおおぉぉぉ!!」
「いくぞおおおおおお!!」

男三人が川に身を浸し、バシャバシャと水音を立てて走り回っていた。
川魚を捕まえるため、川辺りまで魚を追い込み、三人で囲い込むと「よっしゃー今だ!」と、玉城は勢い良く魚めがけて手を伸ばした。

「あっ馬鹿!まだだ!」

玉城が陣形を崩したその隙間を狙い、魚達は一斉にその包囲網を抜けて逃げ出した。
それに慌てた玉城がバランスを崩し「うわぁぁぁぁぁ」という声とともに、ばしゃリと大きな水音を立てて、頭から川に突っ込んだ。
その様子に、扇は頭を抱え、南が呆れた顔で溺れかけている玉城を引っ張りあげた。

「仕方ない、一度川から上がろう。全身ずぶ濡れだ。風邪を引いてしまう」

魚を取るためとはいえ、腰まで水に浸かっていたため、下着まで濡れてしまっている。
河原に戻り、シャツを脱いで絞りながら、ふぇっくしょんと、玉城が大きなくしゃみをした。

「なんだ、また捕まえれなかったの?もうちょっと頭使って捕りなよ。取り方は教えたんだからさ」

三人より先に焚き火の前に居た朝比奈が、呆れたような顔でそんな三人を見つめていた。

「やってんだろうがよ!お前たちの教え方が悪いんだろ!」

へくしょんとくしゃみをしながら、玉城は焚き火の前に座り、冷えた体を温めた。
扇と南もその横に腰を下ろす。

「そんな口聞いていいのかなぁ?藤堂さんに言われたから、君たちの分も魚取って、こうして焼いてるのにさ」

朝比奈の前には、香ばしい匂いを漂わせ始めている6匹の川魚が焚き火で炙られていた。
それを目にして、玉城はうっと口をつぐんだ。

「玉城、やめないか。済まないな朝比奈、迷惑ばかりかけてしまって。で、藤堂さんと仙波さんは?」
「ちょっと前に森に行ったよ。ああ、丁度戻ってきたみたいだね」

ガサガサと草の音をさせながら、森から藤堂と仙波が姿を現した。その手に持っていたものは。

「うわあああああぁぁぁぁぁっ!なっ何持ってんだよ!!」

突然上がった悲鳴に、一瞬藤堂は目を見張ったが、玉城が自分の手にあるものを指さしていることに気が付き「ああ、これか」と手を持ち上げた。

「へ、へ、へ、蛇!!蛇だ!!!気持ち悪い!!」

南が思わず藤堂から距離を取ろうと後退った。
扇も驚きに目を見開いて、近寄る藤堂の腕に巻き付いている蛇を凝視した。
30cmはあるだろう蛇の頭をつかむ形で、片手に2匹持って焚き火へと近づいてきた。
その後ろにいる仙波も、丸々と太ったウシガエルを1匹手に持っていた。

「おかえりなさい、藤堂さん。蛇は俺が捌きますから下さい」
「ああ、では頼もう。扇、どうしたんだそんなにずぶ濡れで。また服を着て川に入ったのか?」

蛇を二匹朝比奈に渡した藤堂は、扇たちの側へと歩み寄った。
朝比奈と仙波は、川辺りに移動し、蛇と蛙を捌き始めた。

「え、ああ。やはり裸で魚を取るのは、どうも落ち着かなくて」
「だが、この川の深さで衣類を着たままでは、危険だ。次からは脱いでから取ったほうがいい。何より濡れた衣類では風邪を引いてしまうぞ」

へっくしょん、と今度は南がくしゃみをする。
その様子に、扇は困ったような顔で頭を掻いた。

「そうだな、次からは脱ぐことにするよ」
「どうせ、ここには我々しかいないんだから、裸になったところで恥ずかしい事もないだろう」
「まあそうなんだが」

曖昧な返事しかしない扇に思わず眉根を寄せた時、蛇と蛙を捌き終わった朝比奈と仙波が、木の枝にそれらを刺し、焚き火で炙り始めた。
その様子に、玉城と南はあからさまに嫌そうに顔を顰め、その反応に、朝比奈もあからさまに顔を顰める。

「別にコレを食べろ、なんて強制はしないけどさ。食べ物も飲水も、焚き火さえ俺達が用意してるってわかってるのかな?もう少し態度考えたら?」
「朝比奈やめないか」
「だって仙波さん、こいつら失礼でしょ。何も出来ないのに文句ばかり」
「お前らは軍で訓練してたかもしれねーけど、俺達は素人なんだよ!出来なくて当たり前だろうが!」
「やめないか玉城」
「でも、今のうちにちゃんと話はしておくべきだと、俺も思うぞ扇。人には得手不得手というものがあるんだし」
「こんな状況で得手不得手なんて言ってられるなんて、気楽だね君たち。わかってるの?俺達が居なかったら、君たち餓死してるよ?俺たちは元軍人だからね、生存率を上げるためなら、足を引っ張るだけの仲間なんて見捨てるんだよ?わかってるのかなその辺」

それを言われたら、玉城も南も何も言えなくなり、口をつぐんだ。

「やめないか朝比奈。玉城たちも、文句を言う前に、少しでも自力で食材を手に入れれるよう考えてみてくれ」

藤堂はそう言いながら、一人ひとりに香ばしく焼けた魚を手渡した。
朝からまだ何も食べていなくて、空腹だったので、皆無言で魚を頬張る。
ここに来た時に見つけた飯盒をコップ代わりに、ヤカンで川水を煮沸させ冷ましていた水を飲んだ。
扇、玉城、南はそのうち救援が来るだろうと楽観視しているが、果たしてそうなのだろうかと、藤堂は水を口に含みながら考えた。
この地に来た初日に見つけた防空壕のような洞窟の中で、6人分の飯盒、毛布、寝袋、ウレタンマットとヤカン、サバイバルナイフ3本、ファイヤースターター、鉈1本、救急箱、裁縫道具を木の箱から見つけていた。
そして合流したのが6人。まるでこの人数がここに来ることが、予め決められていたかのようだった。
なにより見て回った限り、どうにもこの地はおかしい。季節を無視しした植物や人工的な洞窟、そして整備されたかのようなこの河原。
こんな場所に救援など来るのだろうか。長期戦となる覚悟で、洞窟を中心とした拠点をしっかり作るべきなのだが、扇たちがそれを拒絶する。
河原で火を絶やさずにいれば、空からも見やすいし、誰かが気がつくはずだと、森への探索すら行こうとしない。
その場その場で口にできるものがあればいい、そして自分たちが用意出来なくても、元軍人が居るのだから問題はない、自分たちの命も守るのは当然だという態度を取り続けていた。
自分たちで何かして、それこそこの場所から脱出しようという意志は感じられない。
誰かがきっと救ってくれる、それこそゼロが必ず気づいて捜索隊を出しているはずだと楽観視している。なにせここには扇と藤堂が居るのだから。
だが、かつて式根島で、C.C.がゼロの生存を主張しても、1日の猶予を作ったとはいえ、見捨てる選択肢をしたことを忘れたのだろうか。
この状況の異質さをいくら訴えても、キャンプの延長線のような態度で、全く危機感のない扇たち。
そんな扇たちに呆れ、わがままな態度に振り回されて腹を立たせている朝比奈。
この異常な環境に焦燥感が募る我々とは違い、扇たちの楽観的な態度との差に疲労が見え始めている仙波。
扇たちと別れて行動すれば、我々はずっと楽になると訴える朝比奈と仙波への説得も、いずれ限界が来るだろう。
なんとか現状を打開しなければと、少しづつ炙られていく蛇と蛙を見つめながら、藤堂は深い溜息をついた。






「スザク、何を書いてるんだ?」

ルルーシュが鍋に火をかけている間、スザクは洞窟の壁面に石で何やら掘っていた。

「この周辺の地図。結構広いんだよねここ。何処で何を見つけたかも残しておいたほうがいいだろ?」

明らかに人の手で加工されたこの洞窟の壁面は平らで、何かを書き残すには確かに適していて、なるほど、とルルーシュはスザクの後ろからその内容を覗き見る。
朝の鍛錬ついでにこの地を歩きまわったスザクは、ルルーシュの知らないものも色々発見していた。

「ほう、葡萄もあるのか。スザク、明日は海に行った後、葡萄積みだ。葡萄があればワインや酢も作れる。となれば、夜の間に竹で籠でも作るか」
「・・・なんだろう、君と一緒だと、本来過酷なはずの状況なのに、全然辛くない。まるで自分の意志で、ここで自給自足生活を始めた気分になるよ」
「食材が豊富に有り過ぎるのと、こんな怪しい洞窟に、温泉、寝具や調理道具もあるからな。その上お前も居る。これで苦労しろと言われても困るな。ああ、今までは見逃していたが、明日からはカエルや蛇も捕まえるからな? いい加減魚ばかりの生活は問題があるし、念のため保存食も作りたい。野生の動物も捕まえたいところだが、それはまだ後でいいだろう」
「君はカエルとか蛇とか、昔は苦手じゃなかったか?大体、どうしてサバイバル知識まで持ってるんだ?」
「今でも正直苦手だが、食材だと考えれば仕方がない。知識の話しなら、昔そういう本を読んだからだ」
「木の皮から紐作ったり、竹で魚の罠作ったり、洗剤代わりの灰汁を作ったりする方法が載ってる本まで読んでるとは思わなかったよ」

神根島でユフィと過ごした後、二度とあんな恥をかかないためにと、ルルーシュはサバイバル関係の本をいろいろ読み漁っていた。
穴を掘って動物を捕まえることが、どれほどの難易度かも今は理解している。
野草図鑑も世界各国の物に目を通したので、キノコも見分ける自信がある。
こんな形でその経験が活かされるとは思わなかったが、人生何があるかわからないものだと、ルルーシュは鍋の様子を見に釜戸へ戻った。





ルルーシュとスザクは露天風呂を手に入れた。
ルルーシュは灰汁で洗濯をすることを覚えた。

ルルーシュへのスザクの過保護度が上がった。
スザクへのルルーシュの評価がちょっとウザいに変わった。

ルルーシュとスザクにとって、このサバイバル生活はイージーモードだった。

扇・玉城・南は文句を言いながらも藤堂達に頼りきっている。
藤堂の胃はダメージを受けている。このままでは心労でハゲが出来そうだ。
扇・玉城・南への藤堂・仙波・朝比奈の評価がガクンと下がった。
仙波・朝比奈は扇たちを見捨てたいと思っている。

黒の騎士団員は6人分の飯盒、毛布、寝袋、ウレタンマットを入手していた。
黒の騎士団員はヤカン、サバイバルナイフ3本、ファイヤースターター、鉈1本、救急箱、裁縫道具を入手していた。

黒の騎士団にとって、このサバイバル生活はノーマルモードだった。

のんびりまったり暮らし始めているスザルル組とは対照的に殺伐とした騎士団組。
軍のこともサバイバルのことも管理人は何も知りませんので内容は適当です。
やはりミラクルさんには夢を見て、扇には厳しくなりそうです。
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