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「スザク!いい加減一度上がって体を暖めろ!」 海に潜り続けているスザクに、俺は声をかけた。 普通なら、波にかき消されて聞こえないはずなのだが、何故かスザクは海に中にいても俺が呼んでいるのはわかるらしく、海面に顔を出した。 その能力の高さを羨ましいと思うべきか、恐ろしいと思うべきか。地獄耳なんてレベルじゃないだろう。 海面に頭を出したスザクは、誰に呼ばれたのだろう、という感じでキョロキョロとあたりを見回しているので、俺は手を上げて「一回戻ってこい」と、もう一度叫ぶと、こちらに気が付いたスザクが、ものすごい早さで泳いできた。 昔のようにオリンピックが開催されていたら、スザクは日本代表として、ほとんどの競技を総嘗めしただろうな。 早くブリタニアを崩壊させ、平和な世界にして、スザクの能力を世界中に・・・。 そんなことを考えていると、スザクは手に網を持って海から上がってきた。 「やっぱり、これだけ海に入ってたら寒いね」 「当たり前だろ、唇が紫になってるじゃないか。ほら、早く火に当たれ」 塩を取るために海水を沸騰させていたため、焚き火をしていて良かった。 持ってきていたバスタオルを腰と肩に巻いて、スザクはわずかに体を震わせながら、火にあたった。 「う~、あったかい」 スザクが温まっている間に、海の中で取ってきた物を網から出した。 ちなみにこの網も、木の皮や弦を加工した紐で作った俺の手作りだ。 その網の中に、貝やウニが沢山入っていた。 出来るだけ丈夫に作ったとはいえ、流石にこれだけ入っているとあちこち切れかけている。もう少し丈夫な物が作れないだろうか。 「ずいぶん取ってきたな」 「うん、至る所にあるから、貝とウニは大きい物をえらんで採ってみた。やっぱり銛みたいなのが欲しいな。海の魚はさすがに素手では無理だ。次潜るときは木を削った銛を持って行くよ」 「素手で捕ろうとしたのかお前」 「タコは捕れたんだけどね。網に入る大きさじゃなかったから諦めた。」 何も道具を持たない素潜りで、タコを捕まえたのか。しかも、この網に入れないサイズ・・・いや、考えるのはやめようと決めただろう。 「これだけ採れれば十分だ。今日はもう海に入らなくていいからな?」 「そうだね、じゃあ僕一回戻って、温泉で温まってくるよ。寒いし、このままだとベタベタして気持ち悪い」 君はここにいてね、と、念を押してからスザクは着替えを抱えて拠点へ戻っていった。 なんだろう、俺はそんなに頼りないのだろうか。スザクは、いつの間に俺の保護者になったんだ、と言いたくなるぐらい、口うるさくなっている。 さすがに海水を大鍋で煮詰めていて、わかめと昆布を集めて干し、ハマボウフとオカヒジキを採取しているから、ここから動けるはずがない。 スカシユリも生えていたから、百合根を採取したかったが、地面を掘ってまた叱られるのも嫌なので、それはスザクに任せようと、そのままにしてある。 本当に食材には困らない。ここに来るまでにスザクが蛇2匹とヒキガエル4匹も捕まえていた。丸々太った大きなウサギも見かけたのだが、まだ哺乳類を捌くは抵抗を感じ、それはまた今度にしようと捕獲はしなかった。 カエルとヘビはリュックに入れていたので、今、スザクが持って帰った。 今日は午後から葡萄も採取する。ドングリはそのままでも食べれるが、どんぐり粉にすればいろいろ作れるようになる。 そうなると石臼のようなものがほしいな。なにか考えるか。 問題があるとすれはそれらを保管する容器か。今は太い竹を利用したものぐらいしか無いからな。 この場所にいる限り餓死の心配はなく、衣食住のうち食に不安はない。 後は衣と住だな。病気にならないためにも、更に快適な環境にする必要がある。 俺は今後の行動予定を考えながら、海岸に打ち上げられていた木の実を拾った。 「あーもう魚ばっかし。いい加減飽きてきたなぁ」 玉城が食べ終わった魚の骨をポイと捨てながら、そう言った。 「文句を言うな玉城。こんな状況で、食事が出来るだけ有り難いだろ」 「だけど、朝も魚、昼も魚、魚、魚、魚。俺は肉が食いて~よ」 「気持ちはわかるが、あまり言うと、カエルや蛇を食べさせられるぞ、ほら、見てみろよ扇、玉城。あいつら虫にまで手を出し始めたぞ」 南がそう言うので、焚き火で何やら焼いている仙波を見ると、木の枝にバッタをさして火に炙ってた。 それを見て、南、扇、玉城はうげぇ、とあからさまに嫌そうな顔をした。 草むらでなにか探していた朝比奈が、ニコニコ笑いながら、その手にバッタを持って戻ってきて、それを仙波が焼く。 バッタだけではなく、一緒に1mはありそうな蛇も焼かれていた。 すでに20匹を超えるバッタが串に刺されて焼かれており、あんなもん食べれるかよ、と玉城が言いながら、河原に横になった。 藤堂は、辺りを見てくると今はここに居ない。 「魚が嫌なら、ほら、これならまだいっぱいあるぞ」 扇が手にしたのは、この近くに沢山実っていたレモンと柿。 「あのなあ、そんな酸っぱいレモンと、渋い柿なんて食えるわけねーだろーが。あーあ、早く助けにこねーかなぁ」 そういう玉城につられて、扇と南も空を見上げた。 その様子を、イライラとしながら、朝比奈が見ていた。 「気にするな朝比奈」 「でも、仙波さん。あいつら」 焼けたバッタを火から離しながら、仙波が朝比奈を宥めた。 「今はまだ雨も降らず、怪我もせず、食べ物にも困っていないから、あんなに楽観的でいられるだけだ」 「やっぱり、藤堂さんに言って、別行動取りましょうよ。あの洞窟拠点にして行動範囲を広げるべきだよ」 扇、玉城、南の三人がここに居るため、服を着て深い川に入るような危機感のない人間だけにしては置けないと、最低でも一人はここで三人を見ることになってた。 いい年をした大人3人の保護者をする必要はないと、藤堂も理解ってはいるが、何を言ってもなかなか理解してくれない三人を見殺しにするのも夢見が悪く、結局六人もいながら、碌に現状の確認さえ出来ない状態だった。 「ああ、今のままではこの島を調べるにしても、効率も悪すぎる。だが、ここで彼らと険悪になるのも、今は避けるべきだ」 「せめて沢ガニとか、山菜とか探してもいいと思うんだけどな。魚だって結局僕らがとるからって、今日は川にも入らなかったんだよ」 「知識がない、得手不得手がある。あやつらはそればかりだ。言うだけ無駄だろう」 仙波と朝比奈は、だらだらと口だけは一人前な体の大きな子供三人を見て、深い深い溜息を履いた。 「で、これどうするの?」 「今は容器が竹しか無いからな。そこにある太い竹、そう、その20cmほどの太さのを、1mほどの長さに切って、一番底以外の節を抜く。その中に葡萄を詰め込んで、棒で潰して、一回り小さい竹で蓋をして様子を見る。ものは試しだ」 スザクは、ルルーシュが言うとおりに、以前採取しておいた竹の中で一番太いものを手にし、長さを1mほどで切り、器用に節を抜いた。 長い棒で竹の中に入れた葡萄を潰しているその横で、ルルーシュはカエルと蛇を捌き、川の水で洗っていた。 捌いたカエルとヘビの内蔵は、川に仕掛ける罠の中に入れ、魚や沢ガニを誘き寄せる餌にする。 「あ、ルルーシュ、鍋吹いてるよ」 まだ日は高かったが、今日は早めに夕食を準備していた。 にがりは除去できなかったが、塩と昆布も手に入ったので、カエルと山菜、罠で捕れていた沢ガニと川エビなどを入れた具沢山の鍋と、サザエやウニを焚き火で焼いたもの。 「なんか豪華だよね」 「できれば芋や大根などの根菜が見つかればいいんだが。醤油や味噌は無理としても、何か他に調味料がほしいな」 鍋をかき混ぜ、味見をしたが、やはり色々物足りない。 「僕に根菜は見つけられないよ」 「明日は俺もこの辺りを少し見て歩くさ。目立つものが多いから、俺も今までそんなに気にしてなかったからな」 先日俺が動けない間に、スザクが林檎と、胡桃と栗、ドングリをいっぱいに集めていて、今は木箱に保管されている。 ドングリは一度水につけ、浮いたものを除いて茹でてある。少しづつ天日に干して、殻を割りやすくし、スザクが暇つぶしに毎日殻を剥いている。 ルルーシュの指示で集めたドングリは スダジイとツブラジイ。この辺りにあったドングリの中で、アクが少なく、そのまま食べれる種類だった。 多めにとっておいた川魚を干したものと、この蛇もある。 食料のストックも多少出来たことだし、明日はスザクと共にこの周辺の調査をすることにした。 この島から抜け出すためにも、島のことを少しでも知らなければならないのだから。 そう考えながら、俺は海で手に入れた木の実を手にとった。 海で手に入れた木の実は椰子の実で、俗にいうココナッツ。その実の1箇所に、鋭利な刃物で穴を開けられていた。 これが別の場所から流れたものでない限り、この島に誰かいるということだ。 少なくとも、双眼鏡で確認できる範囲に椰子の木は無かったので、近くには居ない。 それにしても、ココナッツか。 ココナッツからはジュースの他に、固形胚乳と外皮が手に入る。 ココナッツミルクやココナッツオイルの原料と、強靭な天然繊維。 流れてきたコレからも取れるが、これだけでは全然足りない。もう少し素材として欲しいな、とルルーシュは少しずれたことを考えていた。 その後、ルルーシュのその話を聞いたスザクに、穴を開けた人間が敵か味方か、会話が成り立つのか考えるのが先じゃないのかと、警戒心の足りないと、かなり怒られた。 ルルーシュとスザクは海で海藻と海の幸、そして塩を手に入れた。 ルルーシュが採取した木の実は中の入っていない椰子の実だった。 ルルーシュとスザクは蛇と蛙を手に入れた。 ルルーシュとスザクは葡萄の発酵に挑戦した。 スザクへのルルーシュの評価のちょっとウザい度があがった。 スザクの周囲への警戒度が上がった。 藤堂と仙波と朝比奈はバッタも食べていた。 黒の騎士団は更に空気がギスギスしてきた。 さっさと合流させようと思ってたけど、扇たちが来たことで、ルルーシュとスザクが苦労するのが目に見えているので、当分合流はしない方向で。 煮沸とか他の雑菌とか、そういうものは気にしない。あくまでも思いつきと勢いだけの、テキトーなファンタジーですから。 |