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澄み渡るような青空、さわやかな風、そんな中聞こえるスザクの声はとても明るく、機嫌のいいものだったが、その表情は声とは真逆の、非常に不機嫌なものだった。 スザクの視線の先。 そこにはスザク同様不機嫌そうな顔の朝比奈がいた。 朝比奈のルルーシュを見る目が気に入らない。 絶対、絶対に!下心あるよね!!ルルーシュが温泉に入ってからずっと気にしてチラチラ見てくるし、柵を作って本当に良かったよ!あーもう、ルルーシュが起きる前に温泉に入るんじゃなかった。起きるの待って、一緒に入るんだった。 念のため柵の傍で洗濯をしながら、入浴中のルルーシュと話をしてたら、僕のこと邪魔だって目で見で睨んでくるし。何なのあれ?ルルーシュに一目惚れでもしたの?ブラックリベリオンで捕まった後、さんざんゼロの悪口言ってたよね?秘密主義で信用出来ないとか、日本人じゃないから、不利になった途端逃げ出したんだとか、僕、記録映像見てるんだからね!?それなのに、ルルーシュに色目使うとかほんとやめてよね! そんなことを考えながら、睨み続けていたら、朝比奈はますます不愉快そうに睨んできた。まるで僕がいなければ、ルルーシュの側にいけるのにと言っているようだ。 「・・・ねえルルーシュ、そろそろ出たら?」 朝比奈の頭の中で、ルルーシュの入浴シーンが再生されているかもしれない。 いや、ルルーシュのそういう感情を抱いてるなら、100%妄想している。 そう思えば少しでも早くルルーシュを風呂から出したくなる。 「もう少しいいだろう?」 だが、そんな事を知らないルルーシュはのんびりと返してきた。 温泉が気に入っているルルーシュは、とても気持ちの良さそうな、機嫌のいい声だ。 この声が聞かれているのも嫌だな。 「長湯は体に悪いよ?のぼせたらどうするんだよ」 「こうしてのんびり入れるのは、今日で終わりなんだぞ?お前もどうだ?」 ・・・!?ルルーシュに誘われた!? この生活のおかげで、ルルーシュはスザクとクロヴィスなら一緒に入浴する事に抵抗は感じなくなっていた。だから簡単にお風呂に誘ったのだ。今まで柵も何もない所で堂々と入っていた3人なのだから当たり前か。 裸の付き合いなど、朝比奈相手では絶対にあり得ないだろう。 「・・・それもそうだね、じゃあ僕ももう一回入ろうかな」 そう言って洗濯をやめた僕を見た目は、間違いなく嫉妬。 優越感は感じたが、それ以上に危険も感じた。 それが今朝の話だ。 そのことを思い出しながら、スザクは仮小屋の床用に長さを揃えた細い竹の束と、短く切った固定用の竹が入った籠を朝比奈の元へ運んだ。 「最初から素直に運べよ」 勝った。そんな思いがにじみ出ていた。 こんなことで優越感を得てどうするんだか。 「運ぶのは今回だけです。今後は運びませんから」 この場所なら、朝比奈以外の視界には入らない。 そう思い、スザクは殺気をこめて朝比奈を睨みつけた。 普段のスザクは絶対に見せない、力強さと冷たさを宿した瞳と表情。 帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズ。 その第7席、ナイトオブセブン。 ブリタニアの白き死神と呼ばれている男。 普段はルルーシュがいるため、穏やかで明るく、朝比奈と睨み合ってもどこか甘さのある表情だった。だが、いま眼の前にいるスザクは、それらを全て捨て去っていた。 今まで感じたことのない威圧感と、殺気。 自分とのレベルの違いに、朝比奈は口を閉ざし、一瞬で顔色を青ざめさせた。 蛇に睨まれた蛙という表現がまさにぴったりな状況だった。 「・・・っ、こ、子供は大人のいう事は聞くべきだろ」 確かに未成年だから子供の枠に入るだろうが、子供だと強調してくるのは、自分が上だと示したいからだろうか?それとも、自分は大人だから、ルルーシュを手に入れられるとでも?僕が子供なら、ルルーシュも子供だろうに。 「子供を顎でこき使う大人の言う事を、ですか?」 「若い時の苦労は買って出もしろって言葉知らないかな?」 「朝比奈さんも十分若いですよ」 「枢木ほどじゃない」 「そうですね。僕とルルーシュほどじゃない」 そう言うと、朝比奈は苛立ち顔を歪めた。 「何を喧嘩しているんだ、お前たちは」 かけられた声に、しまったと思いながら視線を向けると、そこにはルルーシュ。 手には空の竹筒を持ち、呆れたようにこちらを見ていた。 「喧嘩なんてしてないよ?」 声のトーンを変え、明るい笑顔で答えたが、ルルーシュは嘘だなと睨みつけた。 「そうは見えなかったが?」 「してないですよね?」 爽やかな笑顔で朝比奈を見ると、スザクの変わり身の早さに驚いたのか、ルルーシュに聞かれた事に動揺しているのか、戸惑ったように返事をした。 「・・・別に、喧嘩はしてないよ」 二人に否定されれば、それ以上追及は出来ない。 「まあいい。どうもスザクと朝比奈は馬が合わないようだな」 「そうかな?」 「そうだよ。それよりスザク、終わったのか?」 「ん~あと天井分がまだあるよ。どうかした?」 「おがくずを集めようかと思ったんだが」 「ああ、それで入れ物取りに行ってたんだ。何に使うのさ?」 スザクはルルーシュが手にしていた容器を受け取ると、作業していた場所へと足を向けた。ルルーシュもそれに従い移動する。 「燻製の香りづけに使えないかと思って・・・使えないなら肥料にもなるし、このまま捨てるのは勿体ない」 「使えるなら集めたほうがいいね。それよりルルーシュ、僕一回休憩したいな」 「流石のお前も疲れてきたか。まあ、気の合わない人間が傍にいるだけでも気疲れをするか」 「僕はブリタニアの騎士だからね。嫌われているのは仕方がないよ」 「ならば俺はブリタニア人の学生だし、兄さんは皇族だ」 だが、朝比奈とはそこまで険悪じゃない。 むしろ、こちらを気遣う好青年といった感じなのだが・・・。敵国の人間より、身内から出た裏切り者の方が嫌悪感は高いのだろうか?俺が、ブリタニア皇族を憎んでいるように・・・。可能性は、ある。いや、スザクを敵視する理由はそれしかありえない。 「それを言われると、僕には解らないよ」 まさかここでルルーシュと藤堂を見る目が嫌だからとはいえない。 朝比奈がルルーシュに気があるなど言えない。 まあ言ったところで、ルルーシュは相手にしないだろうが。 「それもそうだな。スザク、お前は出来るだけ俺の傍にいろ」 「え?」 「俺が嫌なら、藤堂かカレンでもいい。朝比奈は俺たちが傍にいれば、お前と険悪になる事はないだろう」 険悪になるのは二人きりの時だけだ。 千葉と仙波も、もしかしたら同じかもしれない。 馬鹿なことをしないよう、注意しなければ。 「じゃあ君の傍にいるよ」 「俺の監視にもなって、丁度いいだろう?」 その言葉に、思わずどきりとした。 「監視って、酷いな。君が無茶しないか見てるだけだろ」 アッシュフォードの話ではなく今の話なのだから、動揺するのはまちがいだと、スザクは平静を装った。 「それを監視というんじゃないのか?」 「違うよ、僕は君の護衛だよ」 「護衛?騎士じゃないのか」 ブリタニアと言えば、騎士だろう? 現役のナイトオブラウンズなんだし。 「え?あ、うん、僕は君の騎士だよ!」 ルルーシュの騎士。 その言葉を理解したとたん、スザクは大声で宣言した。 「は?ああ、なんだ、名前だけとはいえ騎士に戻れるのはそんなに嬉しいのか?」 スザクは騎士が天職なのだろう。 本来であれば皇帝の騎士として、エリア11でナナリーの監視と護衛をしているはずが、こんな辺鄙な場所に来てしまったのだ。白いラウンズの騎士服は汚れるため箱にしまわれているし、こんな生活だしで、騎士らしいことなど全く出来ずにいる。 名前だけでも騎士に戻れる事をこんなに喜ぶほど、スザクは騎士という役目に餓えていたのだろう。 「ならば、クロヴィス殿下の護衛でもするか?これから黒の騎士団の者たちが大勢来るから、皇族である殿下の護衛はあってもいいと思うぞ?」 「え?何で急に殿下の話になるの?今、君の騎士の話してたよね!?」 就任早々解任!? なにそれ?やだよ! 「まあ、そうだが・・・だが、お前が騎士に戻りたいなら」 「ならルルーシュの騎士でいいじゃないか。君が一番危険なんだから」 「何がだ。・・・ああ、体の事か」 「う~ん、まあ体の事ではあるけど」 体のことというか性の事というか。 「まあいい、お前の好きにしろ」 「やった!イエス・ユアハイネス!」 眩しいほど輝いた笑顔でスザクは言った。 「馬鹿。俺相手ならマイロードだ」 「騎士は皇族に仕えるものだろ?」 ならハイネスでいいよね? 「なら俺に仕えるのは無理じゃないか」 俺は庶民だ。 「え?やだ、ルルーシュがいい!」 「なら、マイロードだ。いや、そもそもそういう返礼はするな」 「えー」 「えーじゃない。これは、俺とお前の間だけの話なんだから、周りに気付かれるマネはするな。本物の皇族もいるんだからな」 「うーん、仕方ないね。解った」 君も本物の皇族だし、全然問題ないじゃないか。そう言いたいが、言えない。ルルーシュはその記憶を奪われている。皇族ではなく、只の一市民になっている・・・はずだから。そうでなければ、僕はルルーシュをゼロとして捕らえなければならないのだから。 それに、これ以上言って「じゃあ止める」といわれたら困る。 ならここで妥協するしかない。 「ではスザク、お前に命じる。このおがくずを容器に詰めろ」 「イエス・マイロード!」 こうして二人だけの騎士ごっこが始まった。 |