いのちのせんたく 第99話


この奇妙な無人島(仮)は、基本的にとても静かな場所だ。
清流が奏でる涼やかな水音や森のざわめき、そして鳥のさえずり。
後は自分たちの生活音だけの空間。
そんな穏やかで静かだった空間は、今轟音に包まれていた。

ギコギコギコギコ
ガンガンゴンゴン

自然とは言い難いその音に混じり、人の声が聞こえてくる。

「仙波、ここは私が押さえよう」
「ではこのまま動かないように押えていてくれ。すぐに縛る」

仙波は手慣れた様子で押えられた竹を縛っていく。
クロヴィスがやれば何分もかかってしまうが、仙波だと一瞬で終わる。縛り方にはコツがあり、クロヴィスが縛っても結びがゆるくなってしまうが、仙波は一度縛れば揺れ動く事が無いほどしっかりと縛りあげてくれる。同じものを使って同じようにやっているつもりでも、結果はまったく違っている。このままでは駄目だね。仙波には後でしっかり縛り方を教えてもらわなければ。と、クロヴィスは考えていた。
今までは、そのような作業は全て部下にやらせていた。皇族である自分がやる様な事ではない、下々のものがやるべき雑務だと思っていた。
だが、このような環境でルルーシュを守るためには、自分がやらなければという思いが生まれ、今までは見ているだけだった作業を不慣れながらもやり始め、そうやって皆で協力し合い生きていくことは、今までの人生で経験した事が無いほど楽しかった。
物を一つ覚えるたびに、ルルーシュが嬉しそうに喜び、褒めてくれるのが何よりの楽しみになっていたからだろう。
楽しく動きまわっているクロヴィスを見て、やはり仙波とクロヴィスは相性が良さそうだなと考えながら、ルルーシュは芋の皮むきをしていた。
いろいろ材料は足りないが、今日のメインは肉じゃがだ。
きっとスザクは喜ぶだろう。
勿論カレンや藤堂たちも。
作業に参加する事は禁止されているが、料理の下ごしらえをする事は禁止されていないし、今日からは量も多いため手持無沙汰になる事だけは避けられた。

ゴンゴンゴンゴンと、大きめの石を使い、建物の床を組み立てているのは朝比奈。
仙波の指示のもと組あげらる床は、その上に寝る事が前提のため平らになる様にするのが大変なようだ。

ギコギコと音を鳴らしているのはスザク。
のこぎりを使い、竹を指示通りに切りそろえていた。かなりの重労働だが、切るペースは落ちる事が無い。

仙波はともかく、ルルーシュはきっちりと長さを揃えないと気になる性分だからと、スザクは全ての竹を切りそろえていた。そのため、まだまだ切る竹は残っている。天井分もこれからだ。早く終わらせてルルーシュの手伝いをと思っているから、かなりのハイペースで動いていて、暑さからすでにシャツは脱ぎ捨て上半身は裸になっていた。
流れ落ちる汗を時折タオルでぬぐいながら、無心に切り続けている。
・・・いつ見ても羨ましい体だ、全体の筋肉の付き方が俺とは違いすぎる。
しかし、さすがスザクだな。
こういう作業まで様になるとは。
スザクなら農場で働いていても違和感がない気がするし、麦わら帽子が凄く似合いそうだな・・・今度作ってみるか?熱中症対策にも帽子は必要だしな。
スザクならトラクターやクレーンなどの重機の運転も似合いそうだが・・・俺なら確実に浮くだろうな。・・・俺とスザク、何が違うのだろう?
やはり筋肉か?
スザクのように男らしくてたくましい体じゃないから駄目なのだろうか。
スザクと比べるのは間違いだと解っているが・・・。
そう思いながら自分の細い腕を見て落ち込んでしまう。
くっ、思考を切り替えなければ。

「・・・おがくずは着火剤に使えそうだな」

スザクの足元に出来た竹のおがくずは、すでにかなりの山になっている。
いや待て、着火剤は今まで通り松ヤニで十分か。
ふむ、となれば・・・今度燻製に使ってみるか。
どちらにせよ、風で飛んでしまう前に回収しなければ。 ルルーシュは料理の手を止め、洞窟まで空の容器を取りに行った。



床が抜けないように細い竹と太い竹を何重にも組み合わせ、固定していく。
僅かに開いてしまう隙間は、切った竹などを詰めて、動かないよう固定する。
ゴンゴン、カンカンと音を立てながら組あげていると、手元の材量が尽きてしまった。

「ちょっと、材料が切れたんだけど?枢木、お前が用意する役だろ、サボってないでさっさと持って来なよ」

朝比奈は急いで持って来いと離れた場所のスザクに叫んだが、スザクはいったん手を止めて汗はぬぐうだけで、その場から動かなかった。

「朝比奈さんの分はそれですよ」

全てを指示された長さにのこぎりで切断していたスザクは、また朝比奈かとあからさまに息を吐きながら、朝比奈用に切り分けた竹の山を指差した。
そんなスザクを見て、朝比奈はむっと口元を歪めた。

「そこじゃなくて、こっちまで持ってこいって言ったんだよ?ほんと気が利かないね」

こっちは細かい作業してるんだからさ。

「僕はここで切ってるんですよ。毎回そっちまで運べってことですか?」

大体、誰のせいでこんな離れた場所で切っていると思ってるんだ。
おがくずが飛んできたら嫌だとか、のこぎりの音が五月蝿いとか言うから、わざわざこんな離れた場所で切っているんだろう。

「そのぐらいできるだろ?なにせ帝国最強のナイトオブラウンズ様なんだからさ」

明らかに、喧嘩を売っている発言に、スザクも眉を寄せた。
それで言うなら、そちらは元とはいえ軍人だろうといいたい。
先ほどまで静かだったのは材料があったからか、ルルーシュがいたからか。
なんいせよ、昨日から朝比奈は事あるごとにスザクに絡んでいた。
最初は藤堂の部下だし自分より年上、なにより同じ日本人。
今は敵同士だけど目指す先は同じ、日本の解放。
裏切りもの、同族殺しといわれ、彼らに嫌われている事は百も承知だから、ここはいがみ合うことなく仲良くしなければ。と思い、最初は何を言われても笑顔で返していたが・・・そろそろ限界だ。
元々この場所はこちらの拠点。
そこでどうしてこんな大きな顔をされなきゃいけないんだ。
スザクは腹を立てながらも、朝比奈用に積み上げていた竹の山へ足を向けた。

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