いのちのせんたく 第102話


水を持たずに出てきたことが災いし、激しい喉の渇きに苛まれ、その上対象に気づかれないように後をつけ、帰り道もしっかり覚えなければならないという、精神的にも肉体的にも追い詰められた中、ゆうに3時間は森の中を歩かされた先には、広い岩場があった。
開けたその場所に出る訳にはいかないと、ヴィレッタは荒い息を吐きながら木の影に隠れ、その場に座り込んだ。軍人である自分は、3時間程度歩いただけだなら、体力的にはまだ行けるはずなのに、疲労が酷く頭がもうろうとしている。おそらくは脱水症状を起こしているのだろう。対象であるC.C.達は、竹で作った水筒を持参しており、時折口にしていたからか、余裕のある表情で岩場に腰を下ろしていた。
・・・ここが目的の場所なのだろうか。
広々としていて、足場はお世辞にも良いとは言えないが、火をおこしても火事になる恐れのない場所ではある・・・だが、肝心の水の気配がしない。あのような川がこの島に2つもあるとは思えないから、湧き水でもあるのかもしれないが、それなら真っ先に水を汲みに行くのではないだろうか?
あいつらはどうみても、ここで休憩しているようにしか見えない。
・・・ということはまだ先があるのか?
そう考えた瞬間、ヴィレッタは自分の命とコーネリアの命令とを無意識に天秤にかけていた。ブリタニア軍人なら、命に替えても皇族の命令には従わなければならないが、こんな任務で命を失うなどおかしいだろう。
ここで引き返しても体が持つかどうかと言う危険な状況なのに、ここから更に進み、目的を果たした後あの場所に戻ることは・・・不可能だ。だが、見失ったと言えば、無能だと思われてしまう。
どうしたらいいんだと考えている間に、C.C.達は一箇所に視線を向けていた。

「・・・?」

できるだけ音を立てず動き、その視線の先を探ると、ガサガサと音を立て、木陰から姿を現したのは、黒の騎士団の藤堂だった。

「なんだ、もう来ていたのか」

姿を表した藤堂は、明るい声で言った。
無人島生活で薄汚れてしまった自分たちとは違うと、遠目でもすぐに解るほどだった。表情の明るさもあるが、着ている団服が綺麗だ。自分たちのように薄汚れてしわしわな状態ではない。C.C.達の元へ向かうその足取りも軽く疲れが見えない。
黒の騎士団の拠点がどこかにあるということか。もしかしたら斑鳩ごとこの奇妙な島に来ているのかもしれない。となれば、どれほどの人数の騎士団員がいるか・・・。
最悪だなと、ヴィレッタは目を細めた。
だが、それでは既に救援が来ているということになる。なぜセシルを?人質にするなら、セシルより皇女であるコーネリアを選ぶはずだが?

「遅いわよ藤堂」
「それはすまなかった、随分待たせてしまったか?」
「ラクシャータさん!藤堂さん、私達もいま来たところです」

本心から申し訳ないという顔をした藤堂に、カレンは慌てて言った。
相変わらず冗談が通じない男ねと、ラクシャータは苦笑した。

「そうか、それならいいんだが。この荷物を運ぶことに気を使ってしまって、思った以上に時間がかかってしまった」

そう言いながら、藤堂は慎重に瀬の荷物を下ろした。

「何が入っているんですか?」
「昼食にと、弁当を用意してくれてな」

汁物だから溢れたら困ると、慎重になりすぎた。

「やったー!」

カレンは大げさなほど喜び、元気だなと藤堂は声を上げて笑った。
リュックから取り出されたのは竹の筒。それが人数分。

「火をおこして暖めるよう言われている」
「あ、じゃあ薪拾いしてきますね!」
「私も行ってきます!」
「ああ、済まないな、二人共」

カレンと千葉は、ヴィレッタがいる方向とは逆へ向かい、あちこちに落ちている乾いている枝を拾い集めた。ほんの2.3分で必要な薪は集まり、藤堂は手慣れた様子で火をつけた。焚き火のまわりに竹筒が置かれ、しばらくすると竹の焼けた匂いとともに、何かが煮える美味しそうな匂いが漂ってきて、お腹がぐうとなった。しまったと赤面しながら慌てたヴィレッタだったが、焚き火の周りで突然上がった笑い声と彼女達の反応から、あちらでも匂いにつられ誰かがお腹を鳴らしたらしい。流石にこの距離では聞こえないとわかっているが、それでも聞こえなくてよかったと安堵の息を漏らした。

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藤堂が使っているファイヤースターターはルルーシュ達の拠点のもの。
ルルーシュたちは、朝に起こした火を絶やさないようにしてます

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