いのちのせんたく 第103話


藤堂は慎重にリュックから竹筒を取り出した。竹筒は入り口と蓋に溝があり、瓶などでよく見るねじ巻き式の蓋になっていて、完全密封は出来ないが、それでも中のものがこぼれ出るのを防いでいた。カレンは置かれた筒に手を出伸ばし蓋を開けた。他の者たちも気になっていたのだろう、皆が興味津々といった顔でカレンの手にした筒を覗き込んでいた。
大きくごろりとしたジャガイモや、ユリ根、鶏肉などが所狭しと詰め込まれていて、それだけで歓声が上がった。汁物と言っても入っている液体自体はそう多くはない。味噌を濃く溶いたものが1/3ほど入っているだけだ。藤堂はそれらの蓋を一度開け、持ってきた水筒を手に取り、筒の半分ほどまで水を継ぎ足すと、再び蓋をし、火の周りに並べた。火にあぶられた竹は表面が焦げ、中の汁がぐつぐつと煮え出した。僅かな隙間から沸騰した汁がこぼれ出す。筒に詰める前に下ゆではしているため、ひと煮立ちしたら十分だろう。表面が焦げて煤けてしまった筒を、火傷をしないようにと慎重に火から離し、少し冷ましてから全員に配った。
竹の箸、今日はラクシャータとセシルのためにと竹のフォークも用意されていたためそれらを配った。
湯気が立つ料理に目を輝かせ、ふうふうと冷ましてから汁をすする。

「んっ!美味しい!ってこれ、やっぱりお味噌よ!ちょっと、あいつ凄すぎない!?」

あのメンバーの中で作る人など決まっている。
まさかこんな無人島生活で味噌を手作りしているなんて。普通に考えればあり得ない事だし、そもそもブリタニア人のあいつが味噌って!?

「ふむ・・・ここまでやれるなら、ヤギか牛でも手に入れれば・・・」

チーズが作れるなとC.C.はほくそ笑んだ。
つまりピザを作ることも可能だという事だ、あいつがいれば。

「塩分が強めなのは助かるわね」

ここに来るまで3時間も歩いてきたのだ。汗をかいているし、今までの生活では塩の摂取量が少なかった。料理を作る際に海水を使用したりと、少しでもナトリウムを摂取するようにしていたが、それでも足りていたとは言い難い。
今思えば、製塩は必要だった。
海も近く、道具もあるのにどうして塩を作ろうと思わなかったのだろうと、我ながら不思議に思う。すぐに助けが来るだろうどこか楽観視していたのかもしれない。

「こんな・・これから行く場所は随分と設備が整っているんですね」

細工の施された竹筒と調味料。たったこれだけの物で、生活水準が格段に違う事が解る。自分たちは洞窟ぐらしだったが、これから向かう場所はちゃんとした建物があり、水も川ではなく井戸水を使い、道具も豊富に揃っているのでは?

「いや、私たちの所と大して変わらない。違う所と言えば、いるか、いないかだ」

謎かけのようにいうC.C.に、千葉は眉を寄せた。

「どういう意味だC.C.」
「優秀な男が一人、あちらにいるんだよ。情報に飢えた頭でっかちのど・・・坊やだと思っていたが、私が思っていた以上にあいつは雑食だったらしい」

戦略や戦術、ブリタニアを落とすために必要な知識を貪欲に貪っているだけだと思っていたが、たんぽぽコーヒーにきのこの見分け方、竹細工に味噌の作り方まであの頭に入れていたとは。雑食過ぎるだろう。
何を目指してこんな知識を?まあいいか、今はそれで助かっているのだから。

「頭でっかちの坊や?」
「ああ、その話なんだが・・・」

千葉の問に、藤堂は気にするようにちらりと視線を向けた。
その先にいるのはヴィレッタ。
今の会話は、彼女の耳にも入っているだろう。それを気にしているのだ。
ルルーシュの策はこうだ。藤堂の迎えにスザクが行く事で、向かう先がブリタニアの拠点だと誤認させる。そして、藤堂が迎えに来る事で、黒の騎士団の拠点だと誤認させる。そのためには、今の拠点にブリタニア人がいるという事をヴィレッタに知られるのは拙いと、藤堂は考えているのだ。
視線で注意をしてくるラクシャータもおそらくそう考えているだろう。
だが、それは間違いだ。
ついてきたのがヴィレッタだけだからこそ、あえて言うのだ。

「なに、もう千葉もセシルもあちらに行くのだから隠す必要はない。これから行く拠点のリーダーは学生だ。カレンと同級生だった男でな、名をルルーシュという」

C.C.の発言に、藤堂は何を!?と驚いたように目を向き、ラクシャータは目を細めた。あれ?もう言うんだっけ?とカレンは食事を続けながら視線を向けてきた。

「ルルーシュ君?あら?たしかスザク君のお友達の名前もたしか・・・」
「ああ、そのスザクの友人のルルーシュがあちらの拠点にいる」
「そうなんですか?」

どうしてルルーシュ君が?と首を傾げながらも、自分も知るブリタニア人がいる事がわかり、いくらか緊張が解けたようだった。そして、自分が呼ばれたのは、ブリタニア人であるルルーシュがいるからだと判断した。リーダーというのがよく解らないが、ブリタニア人の学生が黒の騎士団に混ざっているのだから、きっとルルーシュは心細い思いをしているだろう。スザクの友達なのだから、大事にしなければ。

「C.C.!」

千葉は慌てたように注意をした。
作戦の概要は聞いていたから、後をつけて来ているヴィレッタにブリタニア人が拠点にいる事を知られるのは拙いだろうと、睨みつけた。
だが、C.C.は自信に満ちた笑みを返してくるだけだった。

「あ、そっか、そうよね」

カレンはすぐに気がつくと、にっこり笑った。

「この料理もルルーシュが作ったんですよ。多分味噌を作ったのもルルーシュよね。あいつのこういう所はホント尊敬するわ」

ふうふう、と冷ましながら鶏肉にかぶりつく。

「あら?カレンさんもルルーシュ君を知っているの?」
「はい、学園では同じクラスでした」
「あら?じゃあスザク君とも同じクラス?」
「そうですね。私もスザクもルルーシュも生徒会に入っていたので、スザクがいつも力仕事させられてたのも見てました。他にも男は二人いたけど、スザク一人のほうがずっと使えたんですよね」

リヴァルはまだいいが、ルルーシュは致命的に使えなかった。
病弱設定で出来なかったが、あれなら私がやったほうが早かっただろう。

「スザク君は体力があるものね」

セシルは、笑いながら頷いた。
食事を終え、火の始末をし、たき火の燃えカスや食べ終わった容器や箸は土の下に埋めた。一見しただけでは、ここでたき火をしたなど解らないだろう。

「藤堂、少し寄って行きたい所がある」
「今からか?」
「ああ、ルルーシュの手土産にな。この前見つけたのはいいが、私の手では刈り取れなかったんだ。男のお前なら問題ないだろう・・・こっちだ」

藤堂達がこの場を後にしてから、ヴィレッタは動きだした。
と辺りを警戒しながら、先ほどまで藤堂達がいた場所へ移動する。
そこには、竹の筒が一つだけ残されていた。
持ち上げるとぽちゃりと音がし、水が半分ほど入っている事が解った。
ヴィレッタはそれを手に急いで木の陰に戻り、水筒を開けると水を煽った。

「・・・っぷはぁ、・・・くっ、ルルーシュがいる拠点だと!?冗談じゃない!」

そんな場所に行くわけにはいかない。
藤堂たちは知らない事だが、ヴィレッタは既にゼロの配下だ。
不本意とはいえ、ブリタニアを裏切り、ゼロであるルルーシュに従っているのだ。
もし、このまま後をつけ、ルルーシュに見つかったらどうなるか・・・。そんな危険なまねはできない、コーネリアに裏切りを知られる恐れもある。
それを知っているからこそ、C.C.はわざとルルーシュの名を出し、カレンも気づいたからこそ話を合わせたのだ。ヴィレッタは、ルルーシュの元へはいけない。ルルーシュの記憶が戻っている事を知る彼女は、それを取引材料にする事も可能だろうが、自分の弱点を握っている悪魔のような頭脳を持つ男相手に渡り合うなど無謀でしかない。

「藤堂と合流し、他にも黒の騎士団員がいる情報も手に入れた。これで十分だ」

流れ落ちる汗は、暑さから来るものか、それとも冷や汗か。
この場にいるのは危険だと判断し、ヴィレッタは急ぎ拠点へと戻って行った。





ガサガサと草を踏みしめて先へと進む。
手入れなどされていない起伏の激しい森の中、穴や出っ張りに注意しながら歩くだけでも大変だというのに、カレンはヴィレッタがまだ着いてくるのではないかと、しきりに後ろを気にして歩いていた。そんなカレンに、C.C.は「少しは落ち着いたらどうなんだ?」と呆れたように言った。

「だって、あっちの拠点の場所ばれたら困るじゃない」

よそ見しながらも、ひょいひょいと危なげなく木の根や石ころ、でこぼこした地面を歩いているから、カレンが転んでけがをするという事はなさそうだ。

「まあ大丈夫だろう、先に寄り道したからな」

別の方向に進んでからこちらのルートに入ったから、準備万端整えてそちらの方向を目指したとしてもこちらの拠点にはたどり着けない。

「そうじゃなくて、着いて来てるかもしれないでしょ?」
「ああ、それは大丈夫だ。もうあの女の気配はしない。来た道を戻ったらしい」

そもそも、ルルーシュの名を聞いた時点で着いてくる事はない。

「・・・断言するのね」
「私はC.C.だぞ?それに、あいつに気付いたのも私だろう?」

それはそうだけど、とカレンはそれでも後ろを気にして歩いた。

「あら?C.C.あんた水筒どうしたの?」

先ほどまで手にしていたはずの水筒が無くなっている事に気づき、カレンが尋ねた。
すると、C.C.は自分の手を見て、おや?といいたげに首を傾げた。
あまりにもわざとらしい態度に、ラクシャータもC.C.を見た。

「どうやら忘れて来てしまったらしい。まあいいさ、予備を藤堂が持ってるから後で貰えばいい」
「忘れたってあんたねぇ」

出来るだけ痕跡を消すように後始末をしたというのに、そんな目立つ物を残してどうするのよとカレンは文句を言った。

「いいわ、私が取ってくる」

まだそんなに進んでいないから、すぐ戻って来れるだろう。

「行くだけ無駄だろう、あそこには水に飢えたキツネが1匹いたからな」
「キツネ?」
「そう、キツネだ」
「ああ、そう言う事・・・確かにいたわね1匹」
「え?ラクシャータさんも見たんですか、キツネ」
「お前がさっきから気にしている女狐のことだよ」
「・・・あ!」

あれだけの距離を歩いたのだから喉は渇く。
自分たちとは違い、ヴィレッタは何の用意も無く着いて来たはずだから、相当喉が渇いていただろう。あの岩場に置かれた竹の筒は目立つし、何よりずっとこちらを見ていたのだから、C.C.の忘れものに必ず気づく。

「あんた、わざと忘れたんでしょう」
「私がなぜそんな事をする必要があるんだ?」
「まあいいわ、そう言う事にしてあげる」

まったく、あんたも馬鹿よねとカレンは笑った。




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うん、今気付いたけど、水は現地で水筒から入れればいいんだよね。
なんで液体入った状態で運んでるの、スザクも藤堂も。
おかしいよね?
運ぶ難易度を無駄に上げてるだけだよね?
きっと何か理由が・・・何か・・・理由・・・塩分の濃い液体に浸している事で腐るのを防いでいるんだねきっと(震え声)
(それなら味噌(手作りだから塩分が多い)を材料に塗ればいいだけですよね水いらないですよねわかってますその辺突っ込まないでくださいごめんなさい)

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