いのちのせんたく 第108話


草が刈られ歩きやすくなっている道を進むと、清流の音は次第に大きくなり、やがて河原へたどり着いた。先ほどまで自分達がいた場所とあまり変わらないその河原は、奥の方に同じような滝、そして逆の方には同じような洞窟があり、一瞬、先ほどまでの拠点に戻ってきてしまったのでは?と錯覚してしまうほどだが、この拠点には一目で人工物と解る物がいくつも点在しているため、やはり違う場所なのだと理解した。
だが、恐ろしいほど似ている場所で、千葉とセシルは奇妙な感覚を覚えていた。
少し離れた所に、テーブルや椅子が用意されており、そこにいた数名がこちらに気づき、そのうち一人が駆け寄ってきた。

「藤堂さんおかえりなさい!千葉も元気そうだね」
「私たちのどこが元気そうなんだ、朝比奈」

生き生きとしているように見える朝比奈と、ボロボロの自分たち。
どう考えても元気など無いだろうと言いたいが、朝比奈としては以前の自分たちの事も考えれば、千葉達は余裕があるように見えるのだ。それはやはり、人数がそれだけ揃っていて、しかも仲間同士で争わなかった事が大きいのだろう。争ったとしても相手はブリタニアだから、それだけでも精神的負担は随分と違ったはずだ。
何より、防波堤となったC.C.の存在は大きい。
だが、ボロボロな朝比奈を、いや、藤堂の姿でさえ見ていない千葉としては、私たちはあれだけ苦労したのに、という気持ちがあるのだ。

「怒らない怒らない。俺たちだってここに来た時は酷かったよ。昨日ゆっくり寝たから、今は体がすごく軽いけどさ」

昨日まであった倦怠感も、偏頭痛も今は無い。
あれほど辛かった体が嘘のようで、今日は早朝から動いているのにまだまだ余裕があった。それは藤堂・仙波も同じで、明らかに彼女たちより顔色がよく表情も明るい。

「そりゃぁそうよ、栄養のある食事を取って、ゆっくり眠るだけでも違うもの。それに、ちゃんとした温泉もあるのよ。色々やることはあるけれど、私たちは今日はゆっくりするわよ?」

ラクシャータの物言いに、朝比奈は口元をへの字にした。
さんざん扇たちに振り回されてきたので、藤堂と四聖剣以外信じられないのだ。
例外は、体を壊しても動き回るというルルーシュぐらいだ。

「洗濯ぐらい自分でした方がいいんじゃないかな?僕たちは、洗わないからね」

最初からサボる宣言をされている気がしたのだろう、せめてそのぐらいは自分でやったら?と、朝比奈が不愉快そうに口にすると、カレンが口をとがらせた。

「言われなくてもするわよ!」

年頃の娘としては、自分の着替えを男に洗わせるなんてなんて冗談じゃなかった。以前来た時と同様に、温泉に入ってから着ているものを洗濯をするぐらいやるに決まっている。だが、朝比奈はどこか不審そうな顔を向けてくるので、イラッとした。

「やめないか。君たちはまず温泉を使うといい。あの柵で囲まれた所が、温泉だ」

藤堂が指示した先には、竹の策で作られた囲いがあった。

「では、お言葉に甘えて先に、といいたいが、ルルーシュはどうした?」

C.C.の問いに、朝比奈は眉を八の字にした。
何せ、テーブルの傍にるのはこちらを伺いながら作業をしている仙波と、クロヴィス。
ルルーシュとスザクの姿が見えないのだ。
それだけで、嫌な予感がする。
険しい表情になったC.C.、藤堂、カレン、ラクシャータに、朝比奈は首を傾げた。

「あー、そう言えば病人なんだっけ?大丈夫、倒れたとかそう言うのじゃないよ。藤堂さん達が来るまでの間休んでいるんだ、洞窟で」

確かに線が細くてか弱い感じだけど、あんなに元気でほんとに病人なの?

「なんだ、違うのか。じゃあ、どうしてお前は・・・いや、わかった。その話は今はいい」
「なに?言いたいことあるなら言えば?」
「なんでもない。流石に全員で温泉は無理だろう、千葉、セシル、カレンは先に入れ。ラクシャータ、疲れているだろうがルルーシュを見てから休んでくれないか」
「ええ、いいわよ。私も気になるから」
「え?じゃあ私も」
「お前は先にゆっくりしておけ、私とラクシャータで十分だ」

それに、ここの管理者(ルルーシュ)は口うるさいから、入浴道具を綺麗に使うようしっかり教えておけ。
そう言うと、C.C.はラクシャータを連れ洞窟へと向かった。

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温泉は高台の洞窟からも中が見えないよう、洞窟側に目隠し用屋根がついていて、脱衣所も用意されてます。
どうやっても覗けないことはルルーシュ確認済み。

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