いのちのせんたく 第110話


太陽の光に照らされた洞窟の入口で、人形のようなルルーシュの症状を少しでも理解しようと、ラクシャータは反応テストを続けていた。いくら医療サイバネティック技術の権威でも、彼女は医者ではないし、ルルーシュの病気は精神的なものが大きいため完全に畑違いだが、彼女の目は患者を見る医者のように真剣で、彼を救いたいという思いがそれだけでわかり、これから彼を任せても大丈夫だろうと結論を出した。
彼女もまたゼロの正体を知る者だから、彼をゼロに戻そうとする危険性はあるが、そこを疑ってしまえば診察を任せる事が出来なくなる。
だが、油断はしない。
彼から離れず、騎士団の動向を見張リ続けるつもりだ。
ラクシャータがルルーシュを調べている間、外の見張りも兼ねて外を見ていた。
川原には藤堂と仙波、朝比奈、そしてクロヴィスの姿が見え、他の女性が見えない。きっとまだ温泉に入っているのだろう。一気に膨れ上がった人数に、これからが大変だなと、思わず目を細めた。
今までは自分とルルーシュと、死者であるクロヴィスとユフィだけだったが、これからは黒の騎士団がここで暮らすのだ。ゼロの、ルルーシュの部下たちが。
それがどれほどのリスクか。
彼らを受け入れる事のメリットは、人手が増える事と、ラクシャータとセシルだけだと思うが、クロヴィスが一番欲しいたのはギアスを安定させられるC.C.だという。だが安定させる力は、今の彼に本当に必要なのだろうか。
そのために、これだけの不安要素を抱える必要はあったのだろうか。
考えれば考えるほど悪手だったのではないかと思ってしまう。
自分にとっては悪手。
ゼロにとっては。

「おい、枢木スザク」
「・・・何?」

C.C.に呼ばれ、視線を戻す。

「着替えは何処だ」
「着替え?」
「ルルーシュの着替えだ」
「え?ルルーシュの?どうかしたの?」

着替えなければいけない事でも?
スザクは扉を離れルルーシュの傍に来たが、ラクシャータが何の用?と言いたげにこちらを見てきた。むしろスザクのせいで影が出来て見づらいからと「そこどけてくれる?」と言ってくる。ルルーシュではないのか?とC.C.を見ると、何をしているんだ?と言いたげな視線を向けられた。

「私が着るんだよ。お前たちと違って着替えがないからな」
「ああ、そうか。君たちの着替えは、脱衣所にあるよ」
「なんだ、用意しているのか。気が利くな」
「昨日、君達分の服が見つかったんだ」
「・・・ほう?私たちの分の、だと?」
「それも、あの岩場でね」

窯のある岩場に視線を向けると、C.C.もつられてそちらを見た。
あんなに目立つ場所に、新たな衣類か。
見落とすことなどあり得ない場所に、あり得ないモノが現れたわけだ。
一体どういう原理で、誰が。

「今着る分だけ出してくれれば、残りはこちらに運ぶから」

どれが誰のものかなど解らないから、箱ごと脱衣室に置いていたた。
タオルなども入っているから、着替えには困らないはずだ。

「そうか、ならば問題は無いか」

言われてみれば、仙波達は騎士団の団服ではなく私服だった。
朝比奈はクロヴィスの服が着れたとしても仙波は無理だから、そこで気づけたか。

「スザク、聞いていいかしら?」
「なんですか?」

ラクシャータに呼ばれ、スザクは視線を向けた。

「いつもはどのぐらいで目を覚ますのかしら?」
「そうですね、あと20分ほどで起きると思います」
「大体どのぐらいの時間こうなっているの。毎日ではないんでしょ?」
「最近は1時間から2時間程度ですね。それ以外にも夜寝ている間になっている事もありますので」

正確には解りません。
スザクは自分の知り得る情報を包み隠さず伝えた。

「突然この状態になるの?」
「いえ、寝ている間になるので、意識が落ちた時に切り替わってしまうんじゃないかと思います。ルルーシュ自身もこの状態の時の事は覚えてなくて、寝ているような感覚に近いみたいで」
「その辺は、ルルーシュにちゃんと聞いた方がいいわね。もういいわ、ベッドに寝かせてくれる?その方が楽なんでしょ?」
「はい、失礼します」

今度はひざ裏と腰に手を伸ばし、そのまま横抱きにして運んだ。
スザクが運ぶと、本当に重さの無い人形のように見えてしまう。

「で、どんな感じだ?」
「さあ、どんな感じかしらね。こんな症状見た事がないから何とも言えないけれど、症状が出る頻度と時間、体に起きる変化とあとは原因ね。そこを把握できれば、この状態を回避する方法も見えてくるわ。今はやることもないし、出来る限りの事はするわよ」

早い段階で、壊れている状況を見れたのは幸いだろう。
スザクのこの様子では、ルルーシュのこの症状を誰にも見せないようにと、上手く立ちまわった可能性もある。

「じゃあ、私たちお風呂に行ってくるわ。何かあったら呼んでくれる?」
「解りました」

そう言って女性二人は洞窟を後にした。
扉が閉ざされ、再びあたりは暗くなる。
スザクはルルーシュの隣に横になると、ルルーシュの顔を覗き込んだ。虚ろな瞳がこちらを見つめ返してはいるが、その瞳は何も移さず、何も見えてはいないだろう。

「怖い?ルルーシュ。いっぱい人が来てるから、怖いし疲れるよね」

君はゼロではなく、学生のルルーシュなんだから。

「大丈夫、僕がいるだろ?君は僕が守るから。だから安心して」

ルルーシュを抱きしめ、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

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