|
太陽の光に照らされた洞窟の入口で、人形のようなルルーシュの症状を少しでも理解しようと、ラクシャータは反応テストを続けていた。いくら医療サイバネティック技術の権威でも、彼女は医者ではないし、ルルーシュの病気は精神的なものが大きいため完全に畑違いだが、彼女の目は患者を見る医者のように真剣で、彼を救いたいという思いがそれだけでわかり、これから彼を任せても大丈夫だろうと結論を出した。 彼女もまたゼロの正体を知る者だから、彼をゼロに戻そうとする危険性はあるが、そこを疑ってしまえば診察を任せる事が出来なくなる。 だが、油断はしない。 彼から離れず、騎士団の動向を見張リ続けるつもりだ。 ラクシャータがルルーシュを調べている間、外の見張りも兼ねて外を見ていた。 川原には藤堂と仙波、朝比奈、そしてクロヴィスの姿が見え、他の女性が見えない。きっとまだ温泉に入っているのだろう。一気に膨れ上がった人数に、これからが大変だなと、思わず目を細めた。 今までは自分とルルーシュと、死者であるクロヴィスとユフィだけだったが、これからは黒の騎士団がここで暮らすのだ。ゼロの、ルルーシュの部下たちが。 それがどれほどのリスクか。 彼らを受け入れる事のメリットは、人手が増える事と、ラクシャータとセシルだけだと思うが、クロヴィスが一番欲しいたのはギアスを安定させられるC.C.だという。だが安定させる力は、今の彼に本当に必要なのだろうか。 そのために、これだけの不安要素を抱える必要はあったのだろうか。 考えれば考えるほど悪手だったのではないかと思ってしまう。 自分にとっては悪手。 ゼロにとっては。 「おい、枢木スザク」 「・・・何?」 C.C.に呼ばれ、視線を戻す。 「着替えは何処だ」 「着替え?」 「ルルーシュの着替えだ」 「え?ルルーシュの?どうかしたの?」 着替えなければいけない事でも? スザクは扉を離れルルーシュの傍に来たが、ラクシャータが何の用?と言いたげにこちらを見てきた。むしろスザクのせいで影が出来て見づらいからと「そこどけてくれる?」と言ってくる。ルルーシュではないのか?とC.C.を見ると、何をしているんだ?と言いたげな視線を向けられた。 「私が着るんだよ。お前たちと違って着替えがないからな」 「ああ、そうか。君たちの着替えは、脱衣所にあるよ」 「なんだ、用意しているのか。気が利くな」 「昨日、君達分の服が見つかったんだ」 「・・・ほう?私たちの分の、だと?」 「それも、あの岩場でね」 窯のある岩場に視線を向けると、C.C.もつられてそちらを見た。 あんなに目立つ場所に、新たな衣類か。 見落とすことなどあり得ない場所に、あり得ないモノが現れたわけだ。 一体どういう原理で、誰が。 「今着る分だけ出してくれれば、残りはこちらに運ぶから」 どれが誰のものかなど解らないから、箱ごと脱衣室に置いていたた。 タオルなども入っているから、着替えには困らないはずだ。 「そうか、ならば問題は無いか」 言われてみれば、仙波達は騎士団の団服ではなく私服だった。 朝比奈はクロヴィスの服が着れたとしても仙波は無理だから、そこで気づけたか。 「スザク、聞いていいかしら?」 「なんですか?」 ラクシャータに呼ばれ、スザクは視線を向けた。 「いつもはどのぐらいで目を覚ますのかしら?」 「そうですね、あと20分ほどで起きると思います」 「大体どのぐらいの時間こうなっているの。毎日ではないんでしょ?」 「最近は1時間から2時間程度ですね。それ以外にも夜寝ている間になっている事もありますので」 正確には解りません。 スザクは自分の知り得る情報を包み隠さず伝えた。 「突然この状態になるの?」 「いえ、寝ている間になるので、意識が落ちた時に切り替わってしまうんじゃないかと思います。ルルーシュ自身もこの状態の時の事は覚えてなくて、寝ているような感覚に近いみたいで」 「その辺は、ルルーシュにちゃんと聞いた方がいいわね。もういいわ、ベッドに寝かせてくれる?その方が楽なんでしょ?」 「はい、失礼します」 今度はひざ裏と腰に手を伸ばし、そのまま横抱きにして運んだ。 スザクが運ぶと、本当に重さの無い人形のように見えてしまう。 「で、どんな感じだ?」 「さあ、どんな感じかしらね。こんな症状見た事がないから何とも言えないけれど、症状が出る頻度と時間、体に起きる変化とあとは原因ね。そこを把握できれば、この状態を回避する方法も見えてくるわ。今はやることもないし、出来る限りの事はするわよ」 早い段階で、壊れている状況を見れたのは幸いだろう。 スザクのこの様子では、ルルーシュのこの症状を誰にも見せないようにと、上手く立ちまわった可能性もある。 「じゃあ、私たちお風呂に行ってくるわ。何かあったら呼んでくれる?」 「解りました」 そう言って女性二人は洞窟を後にした。 扉が閉ざされ、再びあたりは暗くなる。 スザクはルルーシュの隣に横になると、ルルーシュの顔を覗き込んだ。虚ろな瞳がこちらを見つめ返してはいるが、その瞳は何も移さず、何も見えてはいないだろう。 「怖い?ルルーシュ。いっぱい人が来てるから、怖いし疲れるよね」 君はゼロではなく、学生のルルーシュなんだから。 「大丈夫、僕がいるだろ?君は僕が守るから。だから安心して」 ルルーシュを抱きしめ、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。 |