いのちのせんたく 第112話


鍋も温まり、飯盒の中の食材もしっかりと煮え、魚も香ばしく焼き上がった。サラダは瑞々しく、摘んできたブドウもテーブルの上に並べられた。できればパンを焼いて並べた買った所だが、この人数分焼くだけのドングリ粉がなかったのが残念だ。
美味しそうな料理の数々に、早く食べたいという気持ちを抑えながら配膳をした。

「・・・そう言えばC.C.が見えないな」

料理が行き渡り、全員が席に着いたと思ったら一人足りない。
あいつのことだ、どこかでだらけているのだろう。

「C.C.なら、気になる事があるって海の方に行ったわよ」

ついていくか聞いたけど、断られたのよね。とカレンは言った

「海に?」
「どうせサボってるんだろ?C.C.だしさ」

ゼロの愛人だか何だか知らないけど良い身分だよね。と、朝比奈は不愉快そうに言った。その言葉に即座に反応したのは女性陣で、全員に冷たい視線を向けられ、朝比奈はびっくりして固まった。

「朝比奈、C.C.は私たちが考えていたような自堕落な人物ではなかったんだ」
「は?」
「・・・」

千葉の言葉に朝比奈は「冗談でしょ?」と言いたげな声をあげ、ルルーシュは「冗談だろ?」と言いたげに千葉を見た。あのピザ女は毎日だらだらとベッドの上で過ごす生き物だ。脱いだ服は投げっぱなしだし、読んだ雑誌だって出しっぱなしだ。片付けるという言葉を知らない。たまに働く事はあるがそんな日の方が少ない。

「おそらく、人に感謝されるのを好まないのだろう。だからわざと自堕落な人間のふりをしている。ここに来た当初も、だらけている姿に何度も腹を立てたが、裏では私たちを生かすために人一倍動いていた。恐らく今までもそうやって黒の騎士団を護っていたに違いない。だからこそ、ゼロは彼女を信頼し傍に置いているんだ」

あちらで何があったかはしらないが、あのピザ女を過大評価しすぎだ。だが、緊急時の事を考えれば、そこまで間違ってはいないか?と思い至り納得した。
コーネリアの策に嵌った時もC.C.は危険を承知で助けに来た。マオの時だってルルーシュを護るため単身マオの元へ行った。口では小憎らしい事を言うが、ルルーシュを護るためならC.C.は手段を選ばなかった。不老不死とはいえ、痛みは人間と変わらない。それでも迷うことなくその身を盾にする。そうやって考えれば、ルルーシュは何度も彼女に命を救われており、彼女に返しきれない恩がある。それを思えば、普段のだらけた生活も大目に見る必要があるのかもしれない。
・・・いや、今までも十分大目に見ていたな。
これ以上甘やかせる必要はない。
C.C.の素行の悪さも争いの火種になりかねなかったが、女性たちが過大評価しているおかげでどうにかなりそうだ。このあたりの人心掌握はさすが魔女と言うべきか?

「C.C.の評価はともかく、もしかしたら何かあったのかもしれないから見てこよう。皆は食事を始めてくれ」

ルルーシュが席を立つと、お前が行くのかという顔で全員が見た。
もし何かがあったとしても、ルルーシュにどうにか出来るのかといえば、まず無理だろう。ルルーシュでどうにかなるならC.C.は自力でどうにかしている。

「ルルーシュ君、私が見てこよう」
「いや、藤堂は彼女たちの迎えにも行っているから疲れているだろう?俺はさっきまで休んでいたからな」
「駄目よルルーシュ。あんたは、ドクターストップ」
「何?」
「サボってさっきまで休んでたなら止めないけど、貴方は調子を崩して休んでたって事、忘れてない?明日の朝の事も考えれば、これ以上動く事は許可できないわ」

ラクシャータの言葉に周りが同意を示したため、ルルーシュは何でこいつらこんな時だけ全員一致なんだ?特に朝比奈!と、内心苛立っていた。

「別に体調は悪くない」
「よくも無いでしょう?それに覚えているかしら?私とC.C.はここに着てすぐに貴方の所に行ったんだけど?」
「・・・」

寝ていただけ、起こしても起きなかっただけなら覚えているかは聞かないだろう。そう聞いたという事は、起きた状態で接触したという事。だが、その記憶は無い。
成程、どうやら自分は又壊れていたらしいとルルーシュは悟った。
スザクもクロヴィスも何も言わないから、あれ行こう壊れずに済んでいるのかと思ったが、壊れていないから言わないのではなく、言う必要がないと判断して言わないだけなのだろう。
つまり、今までも頻繁に壊れていたのか。
明日の朝の事ということは、ラクシャータはこれ以上体力を消耗すれば、明日の朝も動けなくなる可能性が高いと踏んでいると考えられる。
最悪だなと思いはしたが、表情には出さなかった。

「・・・すまない。寝ていたから覚えていない」
「でしょうね。でも、解るわよね?」

貴方なら。
含むような物言いに、確定だなとルルーシュは諦めた。
スザクとクロヴィス、C.C.はまだ良いが、これだけの人数にあの醜態を晒すわけにはいかない。出来る限り平成を装わなければ。

「藤堂、疲れている所すまないが、C.C.を探してきてくれないか?このあたりは安全だとはいえ、女性一人は危険だからな」

藤堂は当然だと頷いた。

「だが、もうかなり暗くなってきている。念のため火を持って行った方がいいだろう」
「火を?」
「松明を用意している。あまり長くは持たないが、何本か持っていけば少しは役立つだろう。スザク」
「うん、藤堂さんこっちです」

灯りのためにと用意された焚き火から少し離れた場所に、ブドウのつるで編まれた袋が置かれていて、それを開けると数本の松明が入っていた。随分と用意の良いことだと感心する。

「全部持って行って大丈夫ですよ。ただ、火事にならないよう扱いにだけは・・・あ、余計な心配ですよね」

先生が、火の不始末をしたり火事になるような事するはずなですね。と、スザクは笑いながら言った。元とはいえ軍人ではあるし、何より藤堂は常識人だ。
何も問題ないとこちらも頷く。

「藤堂さん、俺も行きます。ルルーシュ君、かまわないだろ?」

焚き火の傍まで来ていた朝比奈は、一応ルルーシュにも声をかけた。

「ああ、一人では危ないからな、助かる。藤堂、道は解るか?」
「大丈夫だ、我々のいた拠点とあまり変わらない」
「藤堂さん、私も行きます!」

藤堂と行動するチャンスと、千葉も慌ててやってくる。

「女性に夜道は危ない。ここは私と朝比奈で十分だ」
「いえ、C.C.も女性ですから、女でなければ困る事かもしれません」

ここで引き下がるわけにはと、千葉は自分の性別をアピールした。

「それもそうだな」

戻ってこない理由が解らない以上、念には念を入れるべきだろう。
仙波も一緒に探しに行こうと腰を上げたが、ラクシャータにストップをかけられ渋々席に戻った。この拠点のメンバーで、今体力的に危ないのは仙波とルルーシュの二人だ。だからこの二人の行動はできるだけ押さえなければならない。

「藤堂、朝比奈、千葉。行く時は靴を履いて行け。そのまま行くと怪我をする」

そう言われて、三人は自分たちが今靴ではなく草履を履いている事を思い出した。昼ならともかく暗い夜道で草履は危険だ。

「では、靴に替えたら行こう。他の皆は先に食事をしていてくれ」

女性たちも仙波も疲れている。
先に食べて休んだ方がいいだろう。

「解った、先に頂くよ。海まで行って見つからなければ一度戻ってくるように。その時はスザク達にも動いてもらう」

いいな。と視線を向けると、スザクは頷いた。

「では行ってくる」

靴を履き換えた藤堂は松明に火を灯すと、朝比奈と千葉を連れ海を目指した。

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