|
「つまり、お前たちの拠点から見える太陽の軌道が、ここと全く同じだと言いたいのか?」 にわかに信じられない内容に、ルルーシュは眉を寄せた。 ルルーシュとしては、自分が確認していない現象は信用しないのだが、C.C.と藤堂が確認したなら事実だと仮定して話を進めた方がいいだろう。あり得ないと一笑するのは簡単だが、この島の存在自体がありえなのだから、非科学的だと否定し、思考停止するのではなく、柔軟な発想で向き合わなければ答えにたどり着けないだろう。 身体を持たぬ意識体であった頃この島を見ていた(感じていた)クロヴィスは、驚いた顔で話を聞いた後、難しい顔をして考え込んでしまった。 クロヴィスと今まで過ごして解った事は、島の事を本当に知らないという事だけだ。 自分たちを導き惑わす存在か、敵か味方か、本当にこれがクロヴィス・ラ・ブリタニアなのかも未だ判明していない。シンジュクゲットーを殲滅させた冷血非道な総督とこのクロヴィスはあまりにも違いすぎるのだ。 だがそこを疑ってしまえば、ここにいるスザクやC.C.達もまた疑わなければならなくなる。自分以外の全員が偽物の可能性だって無いとはいえないのだ。過去の思い出だけでは証明などできはしない。 いや、ギアスを使えば証明は容易いが、この奇妙な空間で使用制限のある武器を使うのは得策ではない。 「見間違いだよ。だって太陽が同じ方向に沈むなんてありえないだろ」 スザクが速攻で否定したので、そちらに目を向ける。まあ普通はそうだろうなと思うが、否定したらそこで思考は停止する。それではこの島の解明など出来ない。 そんなスザクの言葉に反応したのは朝比奈で、「俺たちが信用できないって事かな?」と不愉快そうにスザクを睨みつけていた。当然スザクも睨みかえす。ああ折角二人を離していたのに結局喧嘩かと思いながら口を開いた。 「もしそれが事実だとすれば、空に浮かぶ太陽は紛い物の可能性がある。あるいは、この島には最低でも3つの太陽が存在しているか。いや、俺たちが使用している拠点は、実際は3つではなく1つだという可能性も無いとはいえない」 ルルーシュの言葉にC.C.を含め全員が眉を寄せた。 「それは、私たちの拠点とここが同じ場所だと言いたいのか?」 3=1という事は、つまりそういう意味だ。流石にそれは無いだろうとC.C.は言うが、果たしてそうだろうか。1つの可能性として考えてみるのも面白いかもしれない。 「どれもこれもあり得ない話だからな、想像を働かせて色々考えておくべきじゃないか?まあ一番高い可能性は、太陽が偽りだというものだ。この島自体が自然のものではない事は皆気づいていると思うが」 その言葉に、スザクとクロヴィスは驚きの声をあげた。 数々の異常性に気づいていたはずなのに、この二人はそんなことにも気づいていなかったらしい。スザクはともかく、クロヴィスは気づいているとばかり思っていたのだが。 朝比奈達は海岸でC.C.に説明され、自然のものではないと認識しているから、特に動じなかった。 「この島はまるで誰かが作ったジオラマのようなものだ。全く同じパーツを用いて複数の拠点を人の手で作ったと仮定すると、人工の島、人工の海、これらは一つの巨大な建物内にあり、俺たちの視界にある空も雲も太陽も実際には存在していない、壁に投影された映像、つまりは偽物だという可能性もある。それなら太陽を複数用意することも可能だし、不自然な天候にも説明はつく。自然を再現しているだけの人工施設・・・だが、今の科学力では実現不可能な現象が多すぎて、空想の域を出ない」 実現可能な物もあるが、空想と現実を結びつけたくても、あり得ない現象、あり得ない生態系と、非現実過ぎて机上の空論にもならないのだ。 話の内容が内容なので、聞いていた他の面々は難しそうな顔をしていたが、話に入ってくる様子はなかった。想像外の内容を頭の中で整理するので手いっぱいと言ったところだろう。中でもスザクは途中から難しく考えるのをやめたらしく、話を聞きながら焚き火をいじっていた。 「成程な、その考えは無かった。この場所が人工物なら、私がここにいる説明にはなる。飼育されたウサギを食料として放つ事も、毒を持たない生物や遺伝子操作が成された生命を配置することも可能。面白い考えだが、恐らくは的外れだろう」 一見実現可能なのではと思わせる内容で、藤堂たちは成程と話に聞き入っていたが、ルルーシュが言うように空想の域を出ない話だった。空に映る太陽が人工物で、3つの太陽が同時に動いているならば、その片鱗が空のどこかに見えるはずだ。だがそんな違和感今まで目にした事はない。つまり、この拠点からは他の拠点の太陽は見えないし、光も届いていないのは間違いないのだ。 「そう、この考えを突き詰めていけば必ずどこかで破たんする。だが全ての拠点が元をただせば一つなのだとしたら」 「・・・だとしたら、なんなんだ?」 「さらに荒唐無稽すぎて笑える話になるかもな」 「どんな話だ?」 「さあな?なんにせよ太陽に関してはもう少し考える時間が欲しい。今までの考えを改め、再度周辺を調べる必要が出てくるかもしれない」 くつりと笑うルルーシュは、既にある程度の考えがまとまっているようにも思えた。だが、それも所詮は現実とは思えない妄想のレベルの内容に違いない。そもそもクロヴィスがいてユーフェミアまでいる時点でギアスを疑うべきなのだ。だが、その場合はコードを持つ自分という存在が邪魔になる。 おそらくルルーシュも、ここにC.C.が居なければこれはすべてギアスによる幻覚あるいは、脳の中で行われているシミュレーションのようなものだと断言していただろう。だが、ギアスの効かないC.C.がいる時点でそれは否定された。 「考えるのはいいけどさ、その荒唐無稽な話をまずしたら?別に笑わないよ俺たちは」 朝比奈が続きを促すが、ルルーシュは薄く笑ってかぶりを振った。 「人工施設かどうかは今まで検証を続けてきたが、こちらはまだ何も調べていないからな。あまりにも馬鹿馬鹿しすぎて今の段階では流石に口にはできないよ。それよりももう遅い、そろそろ休んだらどうだ?」 とうの昔に日は落ち、いつもなら既に就寝している時間だ。 ルルーシュは皆の体調を思っての発言だったが、皆からすれば病を抱えたルルーシュに夜更かしをさせてしまったことに気付かせる言葉だった。 「そうだな。所でルルーシュは何処で寝るんだ?」 「何処でとは?」 「私と一緒か?」 「何故お前と一緒なんだ」 「何故一緒じゃないんだ?」 「当たり前だろ」 「そうだよ、どうして君がルルーシュと一緒って話になるのさ」 当たり前のようにルルーシュと同衾しようとしたC.C.に周りは驚き、スザクは不愉快そうに口を挟んだ。 ルルーシュとしては、確かに今まで一緒に休んでいたが、今は記憶がない設定なのだから一緒なのはおかしいし、何より男と女で別れて休むことになっている。そんな事も解らないのかこのピザ女はと 心の中で怒鳴りつけ、表面上は困惑した風を装い乗り切る。 「私は、ルルーシュの治療の為に言っているんだぞ?出来るだけ私が傍にいることが望ましい。特に睡眠中などはな?」 ああ、そう言えばそれが理由でクロヴィスはCCを呼んだのだと思いだしていた。 「治療のためとは何の話だ?」 初めて聞く情報にルルーシュは即座に反応した。 これは完全な失言。 こ の情報を知るのはごく一部だけだし、当のルルーシュは知らない話だ。 これを説明するにはギアスの話までしなければならない。 記憶の無いルルーシュの記憶を呼び起こしかねない情報だった。 疲れて脳が寝ているなと、C.C.は小さく舌打ちした。 |