いのちのせんたく 第116話


「お前には関係ない」
「俺は当事者だろう」
「ルルーシュ、お前は関係ないと私は言ったぞ?」

しつこい男だなと言いたげにC.C.はルルーシュを見た。
それは<記憶の無いお前には話せない事だ>というC.C.からのメッセージ。
これ以上詮索は危険かと判断し、ルルーシュはため息を吐いた。
この体調不良がギアスに絡んだものだと確定しているなら、コードを持つC.C.が干渉することで治療あるいは進行を緩める事が出来るとか、大方そんなところだろう。
問題は、藤堂まで困ったような顔を一瞬した事だ。
つまり、C.C.はスザクを含め何人かにゼロの正体だけではなく、ギアスの事を話している可能性がある。能力に関わる内容かは解らないが、少なくても異能に関する何かしらの情報を伝えているのかもしれない。
確認すべき内容が増えたか。

「一緒にいる事が俺の体調にどんな効果があるか知らないが、俺はスザク達と一緒に寝る。つまりお前が来るという事は、男だけの部屋に来るという事だ」

つまり、その竹で作った仮小屋にだ。

「私は構わないぞ?」
「俺が構うんだよ」
「僕も構うよ。駄目だろ、若い女性が男の中で休もうなんて」
「ならルルーシュを私たちの所で休ませればいい」
「それも駄目!」

ルルーシュが襲われたら・・・いや彼女たちは黒の騎士団だから、ゼロを呼び起こしてしまう危険性がある。そしてこちらに気づかれないように裏工作を・・・そんな危険犯すわけにはいかない。

「絶対、駄目だから。行こうルルーシュ。後お任せします」

そう言ってスザクはルルーシュの腕を引き小屋の中へと入って行った。
少しの間言い合う二人の声が聞こえていたが、しびれを切らしたスザクが強引に寝かせに入り、すぐに静かになった。

「なんだ、お休み三秒か?」

念のため扉を開け中を確認すると、ルルーシュの隣にスザクがこちらに背を向ける形で横になっていた。スザクはC.C.に気が付き顔だけ向け、早く出て行けと威嚇している。どうやらルルーシュはもう寝ているようだった。どこのメガネ小学生だ?と思うほどの早さに呆れてしまう。
あいつは寝るのにもっと時間がかかるはずだが。

「スザクはルルーシュを寝かしつけるのが上手なのだよ」

私では10分はかかってしまう。とクロヴィスは笑いながら言うと、それでも10分かとC.C.は目を細めた。まだ殆どルルーシュとは接触できていないが、あの頃よりも状態は悪化していると考えてまず間違いないだろう。
デバガメを終えたC.C.は先ほど座っていた場所に戻った。

「流石に今のは強引すぎるし、私も許可できないからね?」

ラクシャータは呆れたようにC.C.に言った。背にしている壁の向こうに二人がいるから会話はほぼ筒抜けだが、気にしていないようだった。

「そうか?別にかまわないだろうに」
「男女で共同生活するんだから、少しは考えな」

ラクシャータはC.C.の頭をいささか乱暴に撫でながら立ち上ると、洞窟の中へと入って行った。子供扱いするなとぶつぶつ言っていたC.C.だったが、その頬が僅かに朱に染まっているのは焚火のせいだけではないだろう。いくら背伸びして大人ぶっていてもまだまだ子供だなと藤堂と仙波は小さく笑った。

「さて、君達も休むといい。火の始末はしておこう」

暫く考え込むように空を見上げていたクロヴィスは、周りが休み始めたことに気付きそう声をかけた。ブリタニア皇族が、クロヴィスが、火の始末!?と、皆が驚き目を見張ったので、クロヴィスは苦笑しながら言った。

「私では心配かね?ならば藤堂、少し付き合ってくれないか?他の者は休みなさい」

ここでルルーシュ達と暮らしているのだから火の扱いは一番に教え込まれている。
だから大丈夫だと押し通すよりも、一人残し他の三人を休ませる方を取った。
藤堂を選んだのは、敵対心むき出しの朝比奈と女性の千葉では都合が悪く、かといって仙波はもう限界だと判断したからだ。

「そうだな、ここは私たちで片付けよう」
「藤堂さん、それなら俺が残ります」
「いや、私は少し話をしておきたい事もある」
「ですが」
「皆には明日から動いてもらわなければならない。交代しながら少しでも体を休める事も、生き残る上では大事だという事を忘れるな」

藤堂は僅かに言葉を強めて言うと、朝比奈達はしぶしぶではあるがそれぞれの寝床へと移動した。
焚火の火は既に小さくなっており、時折木がはぜる音だけが聞こえた。涼やかな夜風が心地よく、空を見上げれば満点の星空。虫の声とフクロウだろうか、鳥の鳴き声が遠くに聞こえる。
先日までいた場所と環境は殆ど変わらないというのに、気持ち一つでまったく違う場所に思えるから不思議なものだ。

「それで、私と話しておきたい事とは何かね?」

クロヴィスは小さな声でそう尋ねた。
洞窟の扉も、この簡易小屋も竹製で隙間だらけだ。
声など筒抜けで、二人で話したいと思っても、恐らく様子をうかがっている四聖剣の耳に届いてしまうだろう。それを気にしてか、藤堂はそちらにチラリと視線を向け息を零した。
この状況では、話すのが難しい内容らしい。

「そうか、では少し散歩でもしないか?何、すぐそこまでだ。灯りに松明を一つ使おう」

クロヴィスは立ち上ると、松明が仕舞われている箱を開けた。
その松明を藤堂は受け取り、僅かな残り火に近づけ火を移動させるた。
改めて松明を見ると、竹の棒の先端に枯れた枝を弦で巻いて作ったものだった。恐らく枯れた枝は松、弦はみずみずしさのあるブドウの若い蔓を使っているのだろう。松の枝にも元々油分はあるが、この燃え方とから察するに、松の枝には油を染み込ませていると考えられる。それらの油が燃え尽きるまで、水を含んだ蔓と枯れ枝は燃え尽きる可能性は低くなり、長時間燃え続けることが可能となる。
よくここまで作ったものだと感心するほか無い

たき火はほぼ鎮火していたが、念のため砂をかけて消化し、藤堂とクロヴィスは洞窟前を離れた。

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