いのちのせんたく 第117話


「なあ、お前は馬鹿なのか?ああ、すまない、お前は馬鹿だったな」

絶対零度の空気を纏った魔王の前には、正座をしている騎士がいた。
その騎士は腰にタオルを巻いただけの裸同然の格好で、目から見てもわかるほど全身濡れており、髪から滴がぽたぽたと滴っていた。
青い空、白い雲、辺り一面の砂浜とキラキラと輝く水面を背に正座している男は、悪びれること無く言った。

「だって、昨日君が言ってたんだよ?もしかしたらこの島は建物の中にあるのかもしれないって」
「可能性の話をしただけだ!」
「つまり、可能性はあるんでしょ?なら確かめなきゃ」
「だからと言って!たった一人で!遠泳などするな!!」

ルルーシュに怒鳴りつけられ、流石のスザクもびくりと体を震わせた。

怖い、ものすごく怖いわねルルーシュ。
私なら泣いたかもしれない。

そんな事を考えながら、カレンは二人のそばで投網の穴をふさいでいた。
カレンは昨日早く寝たこともあり、目が覚めた時はまだ薄暗く、誰も起きていなかった。これはチャンスだと一人でのんびり温泉に入り、戻った時には藤堂と仙波が起きていて、聞けばルルーシュとスザクがいないという。
今日は朝から海に行くと言っていたから、もしかして先に様子を見に行った?下準備好きだもんねルルーシュは。と、カレンは様子を見に海まで駆けてきた。
何かあったら困るからと、藤堂も一緒だ。
そこで目にしたのがこの光景で、あー馬鹿が勝手に暴走したのねと理解した。
ルルーシュが仮眠などに使う箱が置いてあるから、あれに入れてルルーシュを運び、一人この広い海原を泳いでみたのだろう。
下手に口を出すのはやめて、藤堂と二人以前来たときのことを思い出してと網を回収し、破損箇所を修復することにして現在に至る。

「でもルルーシュ、こういう事は調べておいた方がいいだろ?」
「確かにそうだが、その場合は筏などを作って、安全を確保してから調べるべきだ。お前みたいに単身で遠泳をし、足でもつったらどうするつもりなんだ!」
「大丈夫、僕足つったことないから」
「大丈夫じゃない!!反省しろこの馬鹿が!!」

ルルーシュが延々と説教をするのだが、スザクはこのぐらい僕には平気だよルルーシュじゃないんだしと顔に書いてあり、反省の色が全くない。
これは暖簾に腕押し。
時間の無駄だ。

「ルルーシュ!」

声をかけると、ようやく二人はこちらを見た。
カレンと藤堂は直した網をその場において、二人の傍まで歩みを進めた。

「ルルーシュ。そういうお説教はね、藤堂さんに任せた方がいいわよ」

カレン「お願いします」と、藤堂を見た。
藤堂の表情はあからさまに険しく、それを見たスザクが顔をこわばらせ、体を引いた。そんなスザクの反応に、成程説教に関しては友人よりも大人、それも師弟関係にあった者の方が適任だと把握した。
俺が何を言ってもどこ吹く風だったくせに、藤堂の顔を見ただけで既に反省の色を見せている。はっきり言ってこのスザクの態度は面白くないが、まあいい。

「藤堂、代わってくれないか?」
「え?えええ!?ルルーシュ、僕反省した!もうやらないよ!」

藤堂の説教はよほど怖いらしい。
若干顔を青ざめ、スザクは反省の言葉らしきものを口にしたがもう遅い。

「悪いが、信用できないな」
「残念だが、私も信用できないなスザク君」

完全に説教モードに入った藤堂に睨まれ、スザクは顔を強張らせて硬直した。

「カレン、ここは藤堂に任せて戻ろう」
「そうね。戻りましょう」
「ええ!?待ってルルーシュ!」
「ルルーシュ君、カレン君、いいから行きなさい」
「はーい!ほら行こう、ルルーシュ」
「ではお願いします」
「ちょ、待った!二人で帰るのは駄目だ!」

カレンは黒の騎士団だ。
ルルーシュはゼロ。
彼の記憶を呼び戻す可能性のある人物と二人きりになど出来ない。
今までの穏やかな空気から一変し、ブリタニアの騎士の顔になったスザクに、ああ、この設定上ルルーシュとカレンを二人きりには出来ないんだなと藤堂は悟った。ルルーシュも気づき足を止めた。

「・・・いや、そうだな、私たちも一度戻ろう。今の来れば皆に迷惑をかけてしまう。説教はあとにしよう」
「ありがとうございます」

正座した状態で頭を下げた。
それは完璧な土下座で、ルルーシュ相手ではやらないのに藤堂相手だと言われなくてもやるのかと、若干ルルーシュはご機嫌斜めだ。そんな反応を見たカレンは面白くない。ルルーシュはゼロ。自分はゼロの親衛隊。スザクはゼロの敵。つまりルルーシュの敵なのに。

「ねえスザク、あんたいい加減服着たら?」

女性を前にいつまでタオル一枚でいる気だと、カレンは文句を言った。
スザクの裸を見て恥じらい、頬でも染めればまだ考えただろうが、堂々と見ていながら女子アピールされてもなとスザクは眉を寄せただけだった。

「確かにそうだな。スザク君、とにかく服を着なさい」

藤堂には素直に従う姿に、よく躾してたんだなと感心する。
普段は聞き分けのない駄犬だが、主人の前では尻尾を振りなんでも言う事を聞くのだから、上手く躾ればこれほど使い勝手のいい人材もいないだろう。何せルルーシュとは違い体力があり運動神経は化物クラスだ。
藤堂にきっちり教育し直してもらい、黒の騎士団に寝返らせる事が出来れば。

「では行きましょう」

大急ぎで下を履き、歩きながらシャツを着ながらスザク促したので、藤堂は頷き、ようやく四人は海岸を後にした。

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