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「まったく、スザクのせいで朝の予定が狂った」 「だからごめんてば。いい加減機嫌直してルルーシュ」 ぶつぶつ文句いを言いながらも、てきぱきと朝食の準備を進めるルルーシュに、スザクはくっついて離れなかった。それはクロヴィスも同じで、ここでの生活が長い三人は互いがどう動くかよく知っていたため、三人で効率よく朝食の準備をこなしていく。 ルルーシュがベーコンエッグを焼き始めれば火の調整をスザクが行い、クロヴィスは皿を用意し、焼き上がった目玉焼きを受け取ってテーブルに並べていく。 隣のかまどでは同時進行でドングリ粉とジャガイモで作ったパンケーキも焼いていく。 昨日のうちに朝食のメニューをクロヴィスには話していたため、今朝仙波たちとパンケーキの準備を進めてくれていて助かった。 サラダも、クロヴィスが仙波とセシルを連れて収穫してきた朝取り野菜で間に合わせる事が出来た。 スザクと違い本当にクロヴィスは役に立つ。きっちり藤堂に締め上げてもらい、あんな馬鹿な行動を二度としないよう躾直してもらわねば。 「冷めると味が落ちるから、順番に食べ始めてくれ」 焼き上がったパンケーキを皿に盛り付け、声をかける。 木の実のパンケーキは、冷めると固くなってしまう。 石窯で焼けば謎の作用でふわふわのパンになるが、その分手間がかかるし、何よりスザクのせいで今日は時間がなかった。 料理をする手伝いができなかった面々は、手持ち無沙汰だったため木の実を割る作業をしていたが、その手を止め後片付けを始めた。 木の実は時間がかかる割には量が取れないのが難点だ。 予想していた事だが、人数が人数だから粉類の消費が激しい。 何より労力の割に得られる量が少ない。 じゃがいも畑の拡張が終わるから、木の実を粉末にする作業は、もうやめてもいいかもしれないな。 「そうだルルーシュ、お前私たちの荷物は見たのか?」 もぐもぐとパンケーキを頬張りながらC.C.が聞いてきた。 そうだ、彼らの荷物と食材の確認がまだだった。 腐りやすいものは持ってきていないはずだからと後回しにしたが、今のうちに確認したほうがいいだろう。いくらこの場所が異常と言っても、新しい種を撒き果実を実らせるまでにはそれなりに時間がかかる。 今日のうちに植えられるものは植えたほうがいいだろう。 海に行く前に全員で畑を少しいじるか。 よし、そうしよう。 「いや、まだだ。食事が終わって手が空いたら、誰か手伝ってくれないか」 そう言って、最後の目玉焼きを皿に移した。 これだけの人数分の目玉焼きとパンケーキを焼いたら、流石に腕が疲れるだろうに、ルルーシュは平然とした顔をしている。それが心配らしく、クロヴィスとスザクが後片付けはこっちでやるからとルルーシュを食卓へ誘導した。 「私食べ終わってるから、荷物持ってくるわね」 「私も手伝います」 一番最初に食べ終えたカレンとセシルは、食器も洗い終わっていたので、すぐに洞窟へ向かった。 「では、私も行ってきます」 「あ、俺も行くから待って」 仙波が言うので、朝比奈は慌てて食事を進めた。 「朝比奈、食器は私が洗うから行ってこい」 「悪いね千葉、助かる」 朝比奈はそう言うと、食事を終えた食器を千葉の前に置き、仙波の後を追った。 彼らの持ってきた荷物は予想以上に多く、木箱もリュックも中身がいっぱい詰まっていた。さて、どれから手を付けるべきかと迷っていると、C.C.がさっさと荷解きを始めた。 「今回の目玉は、なんといってもこれだろう?」 C.C.の言葉に、女性陣と藤堂は察するものがあったらしく、ああ、と声を漏らした。 彼ら全員が目玉だと思う何か。 それは何なのだとC.C.を見ていると、彼女は木の棒を取り出した。 竹のように見えるそれを、C.C.はルルーシュに渡した。 「これは、なかっただろう?」 渡されたそれは、竹にしてはやけにずっしりとした重みがあった。 C.C.の言葉と、こちらを見ながら楽しげに笑うカレンの様子から、これは竹ではないということはわかる。では一体なんだろう。 「わからないか?これは・・・」 「いやまて、言うな」 きっと自分にもわかる何かなのだ。だから、答えがわかるか?という顔で見てくるのだ。クイズの答えを教えてもらうような真似はしたくはない。 この形で、彼らに頼んだレモンや渋柿、プラムに椰子などの種よりも貴重なもの。 「・・・!まさか・・・スザク、ナイフをかせ」 「え?はい」 スザクからナイフを借りると、ルルーシュはその表面を軽く削ぎ落とし、木の枝らしきものにかじりついた。予想以上に硬かったのだろう。痛そうな顔をした後、もう少し表面の皮をむいた。 「ちょっ、ルルーシュ!?何してるんだ!木の枝なんて口にしたら駄目だろう!!」 「ルルーシュ、やめなさい!!」 その様子を見て慌てたのはスザクとクロヴィス。 朝比奈は奇妙なものを見るように眉を寄せ、仙波はすぐに気づき納得顔だ。 ルルーシュが齧りついたのを、どうにか引き離そうとスザクはその棒を手にし、クロヴィスもルルーシュの体を抑えたが、二人の慌てぶりなど我関せずと言ったルルーシュは枝から口を離すと、くつリと笑った。 ルルーシュがおかしくなった!!と慌てたスザクはその棒を取り上げると、すぐさまC.C.がそれを横から奪い、ルルーシュが齧りついていた場所に歯を立てた。 「よく見つけたものだ」 「だろう?これがあれば、随分と楽になるんじゃないか?」 ぺろりと唇を舐めながらC.C.が言うので、クロヴィスとスザクは完全に困惑した。朝比奈は、「あーあれか」と、ようやく古い記憶を呼び起こしたようだった。 「そうだな。育て方を調べなければならないが・・・」 「必要ない、簡単だ。昔沖縄にいた時に嫌というほど見たからな」 ちゃんと根に近い植える用のも収穫してきた。 「そうか、なら解決だ。今日は海に行く前にこれを植える」 「って、待って!なに、何なのさ!?その枝がなんだって言うんだよ!」 僕にわかるように言ってよ!と、言うスザクに「まだわからないんだ?」と、朝比奈が笑ったため、場の空気が明らかに悪くなった。 「私も解らなかったわよ、これがそうだなんてね」 「カレンくんもスザクくんも、戦争が始まる前はまだ小学生だったから、知らなかったかもしれない」 実際のものに触れる機会がなかった可能性はある。 特にスザクは学んでいても忘れている可能性が高い。 C.C.から枝を返してもらったルルーシュは、その枝をスザクに渡した。 「スザク、これは砂糖黍だ」 「さとう・・・?」 「サトウキビ。聞いたことないか?」 「うーん・・・あるような、ないような・・・?」 聞き覚えがあるような、ないような?と困惑した顔をしている。 これは、もし知っていたとしても忘れているだろう。 「その名の通り砂糖を取るために栽培されている植物だ」 「砂糖?この枝から?」 「ああ、齧ってみたらわかる」 齧る。先程ルルーシュが齧ったその場所に、スザクは躊躇うこと無く歯を立てた。 C.C.も齧っていたが、この際それは忘れる。 「・・・ほんとだ、甘い!」 予想以上の甘さに、スザクは目をパチクリさせた。 「今もオキナワやシコク・キュウシュウで栽培されている」 戦前。 まだブリタニアに支配されていない頃なら、お土産などで手にする機会もあっただろうが、戦後この手のものをイレブンが手にする機会など無かった。当然、皇族であるクロヴィスもだ。 カレンとスザクは当時10歳で、手にする機会が残念ながら無かったが、藤堂達はお土産などで手にする機会もあったし、黒糖などの原料がサトウキビだということは彼らとしては当たり前の知識だった。 「じゃあ、これを育てれば砂糖がたくさん取れるんだ!?」 「そういうことだ」 これで砂糖に関する問題は解決する。 「あとは塩の問題さえクリアできれば、当面の問題は無くなるな」 ルルーシュは荷物を分別しながら楽しげに言った。 ********* サトウキビは黒糖だけではなく、それ以外の砂糖(上白糖やグラニュー糖、三温糖など)の原料だけど、サトウキビ=黒糖のイメージが強い気がする・・・気のせいかな。 てん菜とサトウキビどっちにしようか迷った。 輪作作物扱いならてん菜だけど、収穫しやすいのはサトウキビかなと。 見た目もわかりやすいし。 |