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”我が目を疑う”とはこういう事かと考えながらそこに立ちつくしていた。あまりの光景に脳は混乱を極め、思わず息を殺し、気配も殺し・・・いや、そんな芸当をするには冷静が必要か。強いて言うなら、衝撃のあまり心が無の境地に達し、そのおかげで誰にも気付かれることなくここにいるのだ。 意識の隅でそんな事を考はじめてから、どれだけの時間が過ぎただろう。刻々と過ぎていく時間が衝撃を薄め、やがて胸の内に湧き上がった不愉快な感情が何なのか、その答えにたどり着いた。 関わりたくない。 それが嘘偽りない思いだった。 この結論に達した頃、空はオレンジ色に染まり始め、ああこれは拙いな。放心している場合ではないと、ようやく心が現実に戻ってきた。一体どれだけの時間ここにいたのか解らないが、直立不動の棒立ちだった上に長時間の移動で疲れ切っていた体は、ぎしぎしと音が鳴りそうなほど動きが悪く、関節がひどく痛んだ。がさりがさりと草を踏む音は川のせせらぎが掻き消したが、薄暗い木々の間から人影が現れたことに彼らはすぐに気がついた。 一人は、ようやく戻ったのかとどこか安堵したような顔を向け もう一人は、明るい笑顔を向けてきた。 ああ、見つかってしまった。 もう逃げることはできない。 自分で足を踏み出し姿を見せたというのに、どうしてこんな事にと思わず誰かを恨みたくなってしまった。 「遅くなってしまい申し訳ありません」 気持ちとは裏腹に足は迷うことなく歩みを進め、二人の前に跪き頭を垂れた。 「いや、よく無事に戻った」 どこかほっとしたような声で労われ、ああ、私を気にかけてくださったのだと喜びの感情が沸き起こるはずの場面ではあったが、残念ながら今まで短くはない時間、言葉が悪いが二人を観察していたため、これは自分の無事を喜んでいるのではなく、持て余しているもう一人の世話役を押し付けることが出来るという安堵感からなのだ。 「はじめましてヴィレッタ。私はユーフェミア・リ・ブリタニア。ユフィって呼んでくださいね」 鬼神、ブリタニアの守護神、ブリタニアの魔女。そう呼ばれるほどのコーネリアをここまで疲れ果てさせた原因である人物は、にっこりとほほ笑みながらそう言った。 「・・・ユーフェミア様」 「ユフィです」 にっこり笑顔で、だが絶対に引かない意思を込めて言われる言葉には力が宿っており、その威圧感はただの小娘が纏うものではなかった。皇族の持つ威厳。思わずごくりと固唾をのみ、ヴィレッタは明言をさけ、コーネリアに向かった。 「コーネリア様、これは一体・・・」 ユーフェミアは死んだ。 それは確定事項だ。 生きているなんてあり得ない。 あの日、間違いなく殺害されたからこそ、コーネリアは出奔し消息を絶ったのだ。 誰よりも信頼している騎士を置き去りにして。 偽物ならいい。 だが、もし本物だとしたら? 生きていないけれど、本物だとしたら? 考えないようにしていた不安がジワリジワリと胸の内から湧き上がってくる。 考えてしまえば恐怖で身動きが取れなくなるから、意識しないようにしていた不安。 自分は、エリア11のアッシュフォード学園にいた。 蓬莱島に黒の騎士団の会議の為向かったルルーシュを見送り、ロロと共にルルーシュに変装した咲世子のサポートを、いつも通り行っていた。 それなのに、気が付いたらここにいた。 蓬莱等で会議があるなら黒の騎士団の幹部たちも蓬莱等にいるはずだ。だが、C.C.やカレンと言ったメンバーもここにいた。さらには行方不明になっていたコーネリアまで。 ここまでくると、この場所の奇妙さはユーフェミアという非常識な存在と相まって最悪の想像を掻き立ててきた。 明らかに顔色を無くし、表情の硬くなったヴィレッタを見て、コーネリアは息を吐いた。頭の固い軍人には周りの異様さだけが目に付き、ここが人為的に作られた研究施設なのだという考えには至れない。そう考えていた。 「ヴィレッタ。この件に関しては今考えるべきではない。それよりもそろそろ日が落ちる」 「・・・あ、は、はい、イエス、ユアハイネス。すぐに準備をいたします」 コーネリアの言葉に、ヴィレッタは我に返った。 日が落ちる前にたき火を用意し、夕食を作らなければ。 もう黒の騎士団はいない、ここには自分たちしかいない。 ここで動くのは自分しかいないのだ。 急がなければと思うのだが、ユーフェミアがその両目を好奇心で輝かせ、ちょろちょろとヴィレッタに纏わりついてきた。何度もコーネリアの傍で待っていて欲しいとお願いしても、手伝いますと言って聞かない。もし本人だったらと思うと邪険にも扱えず、焚火の用意にも本来の倍以上の時間がかかり、灯りがともったのは日が落ちてからだった。 二人に気を配りながらの夕食作りは大変だが、今は有難いとも考えていた。 もし、ユーフェミアが本物だったとしたならば。 死者だという事だ。 コーネリアはブラックリベリオンの後、自分の意思で姿を消したと言われているが、それが事実か知っているのはコーネリアの側近と騎士ギルフォードだけ。あの日怪我をしたと聞いているが、もしかしたら重傷で・・・いや、そこで無事であったとしても、世間知らずの皇女が一人で出奔し、無事でいられるはずがない。 考えてはいけないと解っていても、時折いやな考えが頭をよぎり全身にぞくりと悪寒が走る。それを誤魔化す様に忙しなく手を動かした。 今そこにいる二人は、自分と同じ生きている人間なのだろうか。 それとも、もしかしたら自分も、彼女達と同じなのではないか。 考えるな、今考えても仕方がない。 そう思えば思うほど、湧き出てしまった不安は、ジワリジワリと心を締め付けていった。 ************* ユーフェミアがまずすべきことは、自分が死んでいる事、二人はちゃんとは生きている事、そして実体化しているのはこの場所のせいだという事を明確にすることだと思うんですけど(クロヴィスはやってたはず)そういうやり取りをする考えはなく、クロヴィスがあっさり皆に受け入れられているから、自分も受け入れられていると勘違いしています。 ・・・あれ?ヴィレッタのこの系のネタ前に書いたような・・・ダブってるかも・・・しれません・・・(汗) |