いのちのせんたく

「扇の言いたい事は解らなくもないが、流石に言い過ぎだろう」

先ほどまで寝ていた南は、扇の声に目を覚ましたらしく、痛みが引いてだいぶ楽になったのか、のんきに欠伸をしながら言った。

「たしかに、現状を考えれば藤堂達が何か知っていた可能性は否定できない。なにせ枢木スザクと手を組んだのは間違いないから、枢木から何かしらの情報を得ていた可能性はある」

南の言葉に、「そうだろう！やっぱり俺たちを騙していたんだ！」と扇は憤慨し、体に力が入った事で腹痛がぶり返し、呻きながら体を丸めた。扇は胃腸が人より弱いのか、余計なことを考えているからかはわからないが、他の二人より回復が遅い。

「だが、扇が言う様に藤堂たちが以前から騎士団を裏切っていて、俺達幹部を誘拐しこの島で野垂れ死にさせる・・・というのは流石に夢物語にもほどがあるだろう。それが事実なら、朝比奈と決裂した時点で早々に姿を消せばいいし、何より彼らまでここで漂流生活をしていた説明がつかない」

彼らの疲労も苛立ちも全部偽りだとは思えないと南が言えば、「だよな、あいつらも結構まいってたもんな」と玉城も頷いた。
だが、そんな二人をお前たちは本当に馬鹿だなと、扇は嘲笑った。

「全部嘘で、全部演技だったんだ。だって都合よすぎるだろ！？中華連邦が味方してくれたのも、俺たちが救出された時も、あんな奇跡的な状況普通に考えたらありえない！バベルタワーだってそうだ、あれは事前にゼロとブリタニアが共謀したと考えた方が辻褄が合う！」

あの総督は何かしらの理由があってブリタニアは内々に始末したかったに違いない。そうでなければバベルタワーへの突入から崩壊までのあんなに短い時間で建物を目的の場所に倒すことなんて出来るはずがない。爆弾も全て事前にブリタニアが設置し、ゼロはさも自分がやったかのように吹聴しただけにすぎないのだ。

「おいおい扇、お前いい加減にしろよ！ゼロを疑ってるのか？？」
「疑わない方がおかしいだろう！お前の顔についている目は飾りか！？よくみろ、ここにいるのは誰だ！？これこそ俺たちを騙していた証拠だろう！」

扇はそう言うが、玉城と南から見ればそんな小さな話では無かった。ぶつぶつと文句を言ったり、眠ったりして現実逃避をしなければ恐怖で竦んでしまいそうになる。
扇のように考えられたら楽だが、それは無理というものだ。

「お前達、まだ文句言ってるのか？いい加減にしろよ。飯の支度出来たけど、食べれそうか？」

洞窟にやって来た男は、やれやれと言いたげな顔でこちらを見下ろしていた。

「俺は食べるが、玉城達はまだ難しいかもしれないな」
「そうか、味は・・・まあ、あれだが、芋をすりつぶしてスープを作ってみたんだが、それでも駄目か？」

少しでも栄養取らなきゃ拙くないか？

「そうだな、それなら大丈夫かもしれない」
「腹が治るまで水だけってのも・・・な。運ぶの手伝ってくれないか」
「わかった。三人共少し具合が良くなったからとあまり騒ぐなよ。すぐに戻るが、何かあったら呼んでくれ」

そう言って二人は洞窟を後にした。
足音は次第に遠ざかり、洞窟の中はしんと静まり返った。
その静寂に耐えきれなくなった玉城が、隣で横になっている扇に顔を向けた。

「扇ぃ～これが藤堂達が裏切った証拠だって言うなら、説明してくれよ～」
「そうだな、俺も聞きたい」
「・・・何をだ？お前たちは、俺の言葉を信じてないくせに」
「永田の話だよ永田の！俺はなぁ吉田と南と三人で永田の墓を作ったんだぞ？シンジュクの地下であのトラックが爆発した残骸見つけてよぉ・・・なぁ南」
「ああ・・・爆発と数日経過した事で、遺体の損傷が激しかったが、あれは間違いなく永田だった」
「・・・・・・」
「なぁ扇ぃ～なんで居るんだよ永田が！ここに！！その説明してくれたら、藤堂達が裏切ったって話も真面目に聞くからよ」
「ブリタニアと藤堂達がバベルタワーより前から繋がっていた。だから・・・卜部が生きていたって説はまあ無いとは言わないが、永田は無理だからな」
「・・・それは・・・だな・・・」

扇は答えに詰まり、口を閉ざした。
そう、自分たちはここで助けられたのだ。
既に死んだはずの卜部と永田に。
死人に助けられた。
それは嫌が負うにも自分たちの死を連想させる。
だが、今死ぬほど痛い腹痛に悩まされているし、実は地獄に落ちていて、これが地獄の苦しみだ・・・なんで馬鹿な話にもならない。
永田がいる以上、卜部がいるのは藤堂達の裏切りの結果なんて言葉は妄想でしかなく、もしかしたら幻覚を見せるキノコでも食べていて、今看病してくれているのが藤堂達・・・という可能性だってある。
言えば扇が文句を言うから言わないだけで、その可能性の方が高いと思っている。

「そうだ、誰かが永田の変装をしていると考えれば説明が付く。あの顔は偽物に違いないから、引きはがせば本当の顔が解るはずだ。きっと強力な接着剤のようなもので本当の顔に貼り付けているだろうから、剥がすのは大変だが、試してみる価値がある」

おいおい、それってあの永田の顔の皮を剥ぐってことじゃないのか？？と思ったが、流石にそれはないかと口をつぐんだ。
日に日に物騒な事を口にし出す扇を見ながら、玉城と南はため息をついた。

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死者のクロヴィスとユフィがそれぞれの拠点にいるので
どうせだからとこちらにも追加してみました。