いのちのせんたく 第125話


「ふむ、これで塩を集めていたのか」

砂浜に、半分に割られた竹が並べられていたので、その一つを手に取ってみた。砂が混ざっているが、白い塩の結晶が日の光にあたりキラキラと輝いている。毎日ここに海水をため、天日で水分を蒸発させて、砂を除去して料理に使っていたというが、この方法で取れる量などたかが知れている。それでも毎日コツコツと集めたからこそ、三人で問題なく暮らせる量を確保できたのだろう。

「今までは3人だったから、これ方法でも必要量を確保できたが、今後はこの方法では足りなくなる。そこで、小規模な塩田を作りたいと考えている」
「なるほどねぇ。でも、私は塩田がどういう仕組みか知らないんだけど?」

塩不足は命にかかわる。海水を煮詰める方が天日よりも早いが、取れる量は極わずか。薪にも限りがある現状で非効率な方法はとれない。だからこそ、塩田を作る必要があるのだ。塩田も最終的には薪を使うが、採取できる量は桁違いだ。

「仕組みはそう難しくない。均した砂に海水をかけ、太陽の熱と風の力で水分を蒸発させ、砂に大量の塩分を付着させ、その砂から塩分を抽出する」
「砂から塩を?その方法なら、塩田という物を作らなくても、このあたりの砂を使えばすむのではないかな?」

クロヴィスは乾いた砂を手に取り言ったが、ルルーシュは首を振った。

「いえ、海岸の砂に付着している塩分はごくわずかです。まずは粘土を使い、砂地に海水がしみこまないようにする必要があります。そしてその上に砂を敷き均し、海水をかけることでその砂に大量の塩を付着させるんです」
「粘土でどうやってそんなことが?ああ、陶器を作るということかな?」
「違うわ。木や竹で枠を作って、粘土で隙間を埋めてから砂を敷き詰めて、海水で満たして天日干しするって話でしょ。あとは塩のついた砂から塩を分離する」
「ふむ・・・。やはり、どのようなものか想像はできないが、粘土ならいい物がある。それを使ってみたらどうだろうか」

陶器のために色々な粘土を集めてきたクロヴィスが言うのだから、まずはそれで試すべきだろう。後必要なのは竹と紐だが、これはすぐに用意できる。<br>

「まずは試作する」
「そうねぇ。試作品ならあまり大きさはいらないから、このぐらいのサイズと考えて、竹の長さと本数を出すから、あとで男たちに運ばせましょう」
「兄さん、使えそうな粘土は1種類だけですか?」
「いいや、3種類ほど使えそうなものがあるよ」
「なら3パターン必要ね」
「乾かす場所も考えねばならんな」
「そうだな、では昼食後試作してみよう」

1を言えば10を理解し行動する。ラクシャータと仙波がいれば、想定より早くに事が進むかもしれない。これだけ理解しているならこの場を預けても何も問題ないだろうと、ルルーシュは手ごたえを感じていた。
ここにいるのが扇達だったなら、10を言っても1を理解できるかどうか。塩田作りに何日かかるか解らないし、目を離せば何をするかわからない所だった。
人力で海水を撒くのもいいが、それよりも自動で塩をまき、回収だけすべきだというラクシャータの提案に同意し、ではその方法をどうするか案を出し合っていたら、いつの間にか時間が過ぎ、男たちが海から上がって来た。過ごしやすい気候とはいえ長時間海に入っていたため、彼らは焚き火で暖を取りはじめた。

「ルルーシュ、沢山取れたよ!」

腰にタオルを巻いただけのスザクが、体も拭かずに大きな網を抱えてやってきた。木の皮をなめし、頑丈に作った網の袋の中には、貝類だけではなく魚もいる。
しかもこの一袋だけではなく、海に潜っていた3人分あるのだ。
取り過ぎだろう、流石にこれは食べ切れないぞ?と思ったが、これからは保存食も大量に必要になるから今は良しとしよう。

「よし、新鮮なうちに昼の用意をしよう」
「やったー!ウニとアワビも取ったんだよ、焼いて食べようね」
「それはすごいな。スザク、お前はまず温まって来い。料理の手は足りている」
「僕は平気だよ。あー、お昼楽しみだなー」

子供のように無邪気な笑顔でいうので、皆つられて笑った。

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